- 著者インタビュー
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東根先生が、ドイツで出会い、日本に普及・啓蒙活動をされるようになった理由を含めて教えてください。
コーディネーション運動とは、人間の運動における自由度をテーマにした、旧ソ連の神経生理学者のベルンシュタイン博士が発表した論文がきっかけとなり、東欧を中心に発展してきた筋肉と神経の協調性(コーディネーション能力)を開発するトレーニング法です。
私がコーディネーション運動と出会ったのは、1995年日本オリンピック委員会の在外研修で、ライプチヒ(ドイツ)に一年間滞在したときです。その際、「このままでいいのか、日本のコーチング」と「日本人の特性を活かすトレーニング法は?」という問いに対する答えのひとつとして、コーディネーション運動を日本に普及させたいと考えたためです。
主運動を分析し、直接的・段階的に指導する方法もありますが、主運動を構成するコーディネーション能力の視点から、指導案を作ってもいいのではないかと考えています。なぜならば、技能と技能を結ぶコーディネーション能力が不可欠であるためです。そのために、導入としてはもとより、主運動の学習過程にコーディネーション運動を組み込むことを考えています。
子どもたちは、ひとつでも出来る種目があればそれだけでも喜びます。出来るようになると、モチベーションが高まります。その結果、回り道のように見えても主運動が習得できるようになるでしょうし、何よりも体育好き・運動好きが増えると思います。
日常的に運動をしなくなっている子どもたちが増加している点は、否めないと思います。運動をしないと体力はつきませんので、きわめて当然の現象ではないでしょうか。そこで、発想をちょっと変えてみてください。「体力」ってなんですか?
ポイントは、何によって体力向上にアプローチするかです。コーディネーション能力を開発するねらいで行うのですが、結果として運動をしますので、エネルギー系の開発にもなっています。「統合的」としているのはそのためです。
コーディネーション運動は、普段運動をしない子どもたちが、思わずやってしまう内容や環境を提供する役割を担うと考えます。
幼児期や中学校、高等学校にも提案していきたいと思います。そのために、ロシアやドイツなどの事例を参考にして、日本独自のコーディネーション運動を研究開発しています。コーディネーション能力の国際基準も共同研究によって、作成段階に入っています。
さらに、各年代の特性を踏まえ、コーディネーション運動により身体的に健全な発育発達を目指すともに、精神的な運動効果も目標にしながら、適切な運動内容を考案していきたいと考えています。
これまでの運動やスポーツの持つイメージを変え、生涯スポーツとしての運動愛好家を増やす意味においても、各年代の子どもたちへの対応が重要です。
出来なくても、子どもと一緒に笑顔で汗を流すだけでいいと思います。おそらく、体育が苦手な先生の方が多いのではないでしょうか。今回の書籍は、苦手な先生方も、すぐに現場に活かせるようにしたつもりです。
私の母は、58歳で退職するまで小学校の生涯一教師を通しました。その間に、心臓の手術を2回もしています。それでも子どもたちと体育をしていました。その秘訣は、「一緒に笑顔」。子どもたちの前で、ありのままの自分を出すのが一番楽です。
得意な先生は、正しいコーディネーション運動の理論と実践を学んでいただき、子どもたちのためによりよいものを提供して下さい。