スペシャリスト直伝! 高学年担任の指導の極意
「最高学年を最高のクラスにしたい!」そんな思いを実現するために必要な様々な指導の極意を伝授します。
スペシャリスト直伝! 高学年担任の指導の極意(4)
2学期の高学年女子・肝は人間関係ウォッチング
北海道旭川市立啓明小学校宇野 弘恵
2018/9/10 掲載
  • 高学年担任の指導の極意
  • 学級経営

 

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2学期は、人間関係が変わりやすい時期です。特に女子は水面下でトラブルが起き、それをきっかけに人間関係が変化することが多いもの。変化し易い時期であることを肝に銘じつつ、どう変化したか、その原因は何かを見取れるような対策をとっておきましょう。

休み明けの人間関係に注目する

 長い夏休みの間に、人間関係が変化しているということはよくあることです。小学生のスマホ・携帯電話所持率が高まり、SNS利用者がこれだけ増えている現代。私たち(私が思い浮かべる「私たち」は昭和です(笑))が子どもの頃には想像もつかないほど、子どもたちは休み中でも四六時中つながっています。
 密室性が高く、文字だけでやり取りする危うさを孕んでいるSNSがいかに厄介かはご存知のことと思います。一部の人間の気紛れや誤解、ちょっとした行き違い等によって人間関係はあっという間に変わります。女子の序列、グループ化はただでさえ陰に隠れやすいのに、表に見えないSNSの世界で何が繰り広げられるかは計り知れません。1学期の仲良しグループが解体、2人だけが妙に親密になっている、グループ間抗争が起きている、グループが合体しているなど枚挙にいとまがありません。不登校や登校しぶりの奥にこうしたトラブルが潜んでいることも考えられます。
 こう考えると、学期初めに人間関係を把握することは、かなり重要なものであると認識しています。では、どこをどのように観察すればよいのでしょうか。

変化は記録から見えてくる

 「変化」は、AとBを比べて見えるものですから、1学期の状態がどうであったかを把握していることが前提です。できれば感覚的な記憶ではなく、観察や聞き取りを通した記録があることが望ましいです。「しまった。記録も記憶も曖昧だ」という方、遅くはありません。2学期初めの変化を見取るという機能は果たしにくいかもしれませんが、2学期中盤や後半の変化を見取る材料となります。ぜひ、現時点での人間関係を把握し、記録化していきましょう。

変化は登校メンバーから見取る

 登下校を共にするメンバーと日頃学校で一緒にいる者が違うことがあります。また、登校は一緒だけれど、学校生活や下校時は一緒にいないという場合もあります。
@登校だけが一緒という場合
 この場合、近所だから、保護者同士の仲が良いから、低学年の頃からの慣習だからなどの理由が考えられます。登校のみ一緒の場合は、ほぼ間違いなくこうした理由であると考えられます。本当に仲が良いわけではなく、惰性で一緒にいる可能性が高いでしょう。もしかすると、相手のことを疎ましく思っているにもかかわらず、保護者の目を気にして…ということもあるかもしれません。いずれにしても、この人間関係はさほど濃厚ではないと見ることができるでしょう。
A登校だけではなく下校も一緒だという場合
 前者に比べて親密度は高まります。学校生活でそれぞれ別な人と行動していたとしても、登下校時に互いの悩みを話せる仲なのかもしれません。あるいは、それぞれのグループでの愚痴を言い合ったり、ヘルプを出したりできる関係性も期待できますので、何かあった時には情報入手先として覚えておくとよいでしょう。

変化の本質は、下校メンバーにあり

 さて、これらを踏まえて、下校時の人間関係について考えていきます。下校時は、登校時に比べて集団化しやすい傾向にあります。校門まで一緒、2丁先の交差点まで一緒のように、わずかでも一緒に歩ける距離があれば、女子は比較的仲良しさんと帰りたがります。これは、女子の密着性によるものだと私は考えています。
 女子の友だち関係を、彼氏・彼女の関係に置き換えて考えてみましょう。付き合って四六時中一緒にいたいのは女子の割合が高くはないでしょうか。毎日LINE、即レスをしたがるのも女子ではないでしょうか(もちろん、全員がそうではなく、全体的にそうした傾向が強いということです)。こうした傾向から、女子は大好きな人を独占したい、ずっと一緒にいたいという思いが強いといえると思います。いえ、もしかすると、男子もそう変わらないのかもしれませんが、言動に現れるのは断然女子の方が多いのではないでしょうか。
 それは、「男は男らしく」「男子だから自立せよ」などのように、男であるがゆえに強くなければならないという社会的すりこみによってできあがっているものだと考えます。同じく、女子も社会的すり込みにより「女子は女子らしく」「女子はしとやかに」的な態度を求められ、結果一人で何かすることに自信をもてない、自分だけが独りぼっちになりたくないという思いが生じるのだと考えます。
 こうした社会的すりこみは、女子の攻撃性を裏へ裏へと追いやります。ですから、男子が怒りを暴力や暴言で表現するのに対し、女子は悪口や仲間外しといった、外からは分かりにくく陰険な方法で攻撃するのです。それにSNSという武器が加われば、女子の攻撃はどこまでも陰湿に巧妙になることは想像に難くありません。陰で攻撃されたくない、仲間外しにあいたくないという過剰な思いが、常にだれとでもいっしょ、グループへの依存や密着と言った体質を強めていくのです。よって、下校時というわずかな時間ですらグループから離れることが不安になり、できるだけ「みんな」と一緒にいようと躍起になるのです。

下校メンバーの観察のしかた

 学級の子どもたちは、どんなメンバーでどうやって下校するのでしょうか。帰りのあいさつの後の声に耳を傾けてみましょう。
@教室から「今日一緒に帰ろう」という声が聞こえてきた場合
 この場合、二つの可能性が考えられます。一つは、クラスの人間関係がフラットである可能性。緩やかなグループはあるものの、人間関係が固定されていないため、安心してグループ外の友達とも付き合えると言えるでしょう。
 もう一つは、グループに不満がある子がいて新しい人間関係を築こうとしている場合。この場合は、抜ける側と抜けられる側が対立していることがありますので、「一緒に帰ろう」と声が聞こえたとき、その子がいたグループのメンバーの表情をチェック。目配せしたり不満げな表情をしたりした場合は、トラブル発生中と見てとれます。
A教室から「今日一緒に帰れる?」という声が聞こえてきた場合
 一概には言えませんが、女子の中に序列がある可能性が考えられます。いつも一緒に帰っているのにこれが聞こえた場合は、その子が危うい立ち位置にいると推測できます。毎日一緒に帰っているのに、毎日お伺いを立てるということは「今日は一緒に帰ってもらえないかもしれない」と思っているか、置いてきぼりを食ったことがあるなどの経験があるのかもしれません。あるいは、すでに仲間外しになっていて必死にすがりつこうとしているのかもしれません。
B教室からひそひそ声と、逃げるような足音が聞こえた場合
 この場合、複数で誰かを仲間外しにしている可能性があります。「さようなら」の後、そっと複数が集まることで「一緒に帰れる?」といいにくい雰囲気を作り出し、声をかけられる前に走って玄関まで行く作戦です。教室から遠ざかった後、不自然な大笑いなどが聞こえることもあります。これは仲間外しをしていじめていることに罪悪感をもっておらず、むしろその子の反応を楽しんでいると見てとれます。この段階に来れば、かなり事態は深刻です。

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むやみやたらに立ち入らない

 トラブルを予見したからと言って、すぐに対応してはいけません。もちろん、早急な対応は必要ですが、「むやみやたら」は危険です。誰から話を聞くかによって、女子を敵に回すかどうかが決まるからです。
 けんかにしろ、仲間外しにしろ、どちらにも言い分があるものです。大人の目から見て「こっちが正しくてこっちがわがまま」と思っても、当人たちの見方は違う場合があります。その「理由」を無視して被害者っぽく見える子から先に事情を聞くと、「ひいきだ」「私だって我慢してるのに」「こっちの言い分無視された」となるわけです。ですから、ある程度の確信がもてたら双方の目に触れないように、こっそりと呼び出し事情を聴くことが肝要です。上手な聞き方については、次回詳しく述べたいと思います。

今月のまとめ

  • 変化があるという前提に立つ。
  • 登下校の変化を観察し、記録していく。
  • 人目に付かないようにこっそりと事情は聞く。

宇野 弘恵うの ひろえ

1969年、北海道生まれ。旭川市内小学校教諭。2002年より教育研修サークル・北の教育文化フェスティバル会員となり、思想信条にとらわれず、今日的課題や現場に必要なこと、教師人生を豊かにすることを学んできた。現在、理事を務める。

(構成:茅野)

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