スペシャリスト直伝! 高学年担任の指導の極意
「最高学年を最高のクラスにしたい!」そんな思いを実現するために必要な様々な指導の極意を伝授します。
スペシャリスト直伝! 高学年担任の指導の極意(3)
高学年の特性を理解する
北海道旭川市立啓明小学校宇野 弘恵
2018/8/10 掲載
  • 高学年担任の指導の極意
  • 学級経営

 

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高学年を語るときに、「思春期」という言葉を外すことはできません。しかし、思春期って、いったい何でしょうか。どんな特徴があるのでしょうか。それを知ることによって子ども理解の手数が増え、その子に応じた対応につなげることができるのです。

思春期の特性を知る

 思春期は小学校5年生頃から始まるというのが平均的な見方ですが、もちろん個人差もあります。高学年初期においては思春期が始まった子がちらほら。しかし高学年終了時期には、クラスの大部分の子が思春期であるという状態でしょう。
 思春期とは、心もからだも大きな変化を遂げる時期です。性的な特徴が顕著になり、異性への関心も高まります。この時期の大きな特徴として、反発的・反抗的な態度や言動があります。助言や指導を素直に受け止められずに、口答えや乱暴な言動で大人に接する姿は、古今東西よくみられます。
 こうした反発的・反抗的な言動をとるにはいくつか理由があります。性的エネルギーの増大、ホルモンバランスの変化といった身体的な影響ももちろんありますが、今回は、心理的な面からアプローチしてみます。

自立したい、でも不安だ

 1つ目は、思春期の子供たちが「自立したい」という思いと「でも不安」という思いの両方をもっているということです。動物たちが巣立ちのときを迎えるように、人間の子どもも本能的に親から自立することを知っています。それまでは親に甘え、守られることで安心感を抱いてきました。しかしいつしか、そこに安住していてはいけない、自分で自分の世界を切り拓きたいという思いが芽生えます。それが、「生意気なもの言い」だったり「大人っぽいファッション」であったりといった、態度や装いに現れることもあります。あるいは、反社会的なことに憧れたり、子どもっぽさを過度に嫌悪したりといった変化となることもあります。大人にとっては反発や反抗に見えても、これ自体が自立の現れととることもできるのです。
 一方で、思春期の子どもたちは、一人で生きることに不安も抱いています。親からの自立は、いうなら地図を捨てて旅に出るのと同じようなもの。これまで行き先を示してくれたナビゲーションがなくなり、すべて自分で歩かなくてはならないとするなら、その不安は想像するのにそう難くないでしょう。冒険したい、でも不安だ、その感情の揺れ動きの中で生きているのです。親に代わって不安を受け止めてくれるのが、友だちや仲間の存在。この時期、親よりも友だちの存在を優先したり、友だちの言うことにばかり耳を傾けたりするのはこのためなのです。高学年が低学年に比べて仲間で問題解決しようとするのも同じ理由であり、この時期の友だち関係が大事だといわれる所以もここにあります。
 こうした「自立への欲求と不安」の狭間で、子どもたちは不安定な精神状態にあります。急に泣いた、急に怒った、かと思えばゲラゲラ笑っているというという姿も、この不安定さから。しかも、この不安定な感情は自分で処理できないもどかしいもの。反発・反抗的な言動の奥にはこうした揺れがあることを知っておきましょう。

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生き直し、やり直し

 2つ目に挙げるのは、この時期は「生き直し、やり直し」であるということです。好ましくない言動も、これまでの成長過程で獲得してこられなかったものをやり直していると見ることができます。
 例えば、幼少期は素直で聞き分けもよく、親の言う通りに何でもやってきた子がいたとします。この姿は、本来獲得すべき時期に、自己主張をするとか、自分の好みにこだわるとか、自己開示をするとかといった自発性を獲得しなかったと捉えることもできます。よって思春期に見られる反発・反抗的態度は、自我の目覚めとともに自発性が獲得され始めたとみることができるのです。
 しかしながら、大人しかった子が聞き分けなくなると、多くの大人は心配したり嘆いたり、力づくで押さえつけようとしたりします。こうした変化に気持ちが追い付くのが難しいのは、大人だけではありません。当の本人たちも、自分の変化に戸惑いながら受け入れようともがいているのです。がらりと変化した子がいた場合は、その子の成育歴を知ることも重要なアイテムと言えるでしょう。

食べたい、でも痩せたい

 最後に挙げるのは、両価性についてです。両価性とは、「憎さ余ってかわいさ100倍」「食べたい、でも痩せたい」といった、相反する感情が同時に内在するものです。「分かるけど認めたくない」「大事だけど、大嫌い」といった感情もこれに当たります。
 高学年でよく見られる姿としては、大暴れした後に甘えてくる、というものがあります。ある保護者から聞いた話ですが、お子さんが「くそばばあ!」「馬鹿野郎!」と大暴れをするほどの反抗を見せる、しかしそのあと一緒に寝ようと布団に入ってくるのだそうです。その保護者は「うちの子はおかしいんじゃないか」と心配されていましたが、これも両価性の高まりのせいです。本人も、相反する感情をどうしていいかわからずに持て余しているのでしょう。そうしたジレンマが、新たなイライラにつなってもいることを心得ておきましょう。

頭ごなしに指導しない

 高学年指導の基本は、頭ごなし、決めつけ指導をしないことです。上で述べたような特徴に鑑みれば、頭ごなしの指導が却って反発心を招くことは容易に想像できます。あるいは、不安定さや感情の昂りを理解されないと感じ、自己肯定感を下げてしまう恐れもあります。反抗や反発は表層的なものです。その子が極悪だから、どうしようもないからそうするのではありません。「思春期」というフィルターを通して見ることで、その子の奥にある背景が見えてくるかもしれません。

【参考文献・HP】
・『思春期のこころ』清水将之、NHKブックス、1996年
思春期のこころの発達と問題行動の理解(厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト)
教職員のための子どもの健康相談及び保健指導の手引(PDF)(文部科学省、平成23年8月)
・『思春期にがんばってる子』明橋大二、一万年堂出版、2002年

今月のまとめ

  • 思春期の特性を心得ておく。
  • 頭ごなし、決めつけの指導はしない。
  • 思春期のフィルターを通して背景を探る

宇野 弘恵うの ひろえ

1969年、北海道生まれ。旭川市内小学校教諭。2002年より教育研修サークル・北の教育文化フェスティバル会員となり、思想信条にとらわれず、今日的課題や現場に必要なこと、教師人生を豊かにすることを学んできた。現在、理事を務める。

(構成:茅野)

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