「授業」は学校における教育活動の中心であり、子どもたちは「授業」に学校生活の時間を多く費やすため、学校での学びの質を大きく左右すると考えられます。従って、SCHOOL SHIFTという観点で「授業」というのは大変重要なことです。そこで、本作では今までの内容を踏まえつつ、学校での学びの核である「授業」に焦点を絞りました。
シリーズを通して貫かれている一貫したメッセージは、「機械の時代」から「人の時代」への移行における学校教育のパラダイム転換です。かつての工業社会では、知識を効率的に習得し「標準化」された人材を育てる教育が求められましたが、現代の情報革命下では、知識を土台に「知恵」を創造する力が不可欠です。3部作を通じて、私は学校を「知識の伝達場所」から、一人ひとりが自らのアイデンティティを豊かに形成する土台を形成し、個人・社会の未来を主体的に切り拓くエージェンシーを育む「創造の場」へとSHIFTさせることを主張してきました。学びを「与えられるもの」から「自ら創り出すもの」へ。この人間を中心に据える学びの高度化と、それに伴う学校教育のパラダイム転換こそが、全編を貫く一貫したメッセージだと言えます。
「マルチステージ型の人生」という概念は、先生方を「短期間で学びや教育を完結させなければならない」という重圧から解放すると言えるのではないでしょうか。これからの人生は、教育・仕事・引退という固定的な3ステージではなく、生涯を通じて学びと移行(トランジション)を繰り返す動的なプロセスに変容しています。この視点を持つことで、授業は「進級・進学や就職という目先の正解だけ」を教え込む場ではなく、将来どんな変化に直面しても自ら問いを立て、自己を更新し続けられる「探究的な生き方」の作法を学ぶ場へと変わります。目の前の子どもたちが、変化に適応するだけではなく、自ら主体的に未来を構想して、それを実現させながらより良い「マルチステージ型の人生」を歩む姿を想像してみてください。
また、「学習エコシステム」の視点は、先生が「先を生きる存在」として正解を提示するだけではなく、社会と教室をシームレスにつなぎ、子供たちと共に未知の課題に挑む「共創のパートナー」としての視点も持つことの重要性を教えてくれます。学校はもはや閉鎖的な空間ではなく、家庭、地域、企業、デジタル空間など多様な学びのリソースが交差する「ハブ」になっていくのではないでしょうか。学校教育や先生の役割は、自前主義に陥ることなく、様々なリソースに加えて、外部の知見やICTなどのツールを有効に活用して、学びやそれに必要な環境をプロデュースする「ファシリテーターやコーディネーター」、「伴走者」ということも担っていくと考えられます。
最も届けたいメッセージは「マルチステージがたの人生においては、先生自身も子どもと同様に学びの当事者である」ということです。UNESCOが提唱する「学習社会」において、学びとは社会全体を循環する公共財であり、生涯終わることのない営みです。子供たちに主体的な学びを求めるのであれば、まず先生自身が自らの教師観や授業観を「アンラーン(学びほぐし)」し、一人の人間として自己更新を続けるという在り方が、大きな教育的価値を持つと私は考えています。みなさんがこれまでの経験から培った知恵やアイデンティティを、ぜひ授業という創造的な活動に投影みてはいかがでしょうか。
本作のテーマである「授業SHIFT」が拓く未来とは、学校が知識を伝達するだけの場であることを超え、社会全体で学びを循環させる「学びのハブ(総合拠点)」へと進化を遂げた姿です。社会の構成員すべてが「学び続ける主体」となる「学習社会」の具現化へ学校教育が中心的な役割を果たすことになります。授業SHIFTによって教室の枠組みが社会へと広がるとき、学校は「学習エコシステム」を活性化させる起点となり、子どもたちは「終わりなき学びの循環」の中へと踏み出していきます。このプロセスを通じて、UNESCOの提唱する「自分になることを学ぶ」営みが行われ、個人の幸福(well-being)と社会の持続可能性が両立する新しい教育モデルが創り上げられるのではないでしょうか。「持続可能性(sustainability)」の語源が「下から支える」ことにあるように、この大きな転換を支えるのは、学校教育の中核である授業というシステムを、足元から問い直し、創り直していく先生方一人ひとりの実践です。変化に対応する受動的な姿勢ではなく、目の前の授業から「変化を創り出し、未来を創造する」主体的な歩みこそが、学校教育と社会の未来を形づくる原動力となるのではないでしょうか。その大切な一歩に、本書並びに本シリーズが寄り添えることを願ってやみません。

