教育オピニオン
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自由進度学習の「見取り」、どうする?
熊本市立託麻原小学校橋本 慎也
2025/12/1 掲載

なぜ、これから「子どもの見取り」が大切になるのか


 以前から「子どもの見取り」の大切さは指摘されてきましたが、計画的・継続的に行い、それを授業改善につなげる取組は十分でなかったように思います。近年、学力の捉え方が変化し、これまで中心だった「結果」による評価だけでなく、「どう考えたか」「どこでつまずいたか」といった学びのプロセスを重視する方向へとシフトしています。このプロセスを把握するためには、子どもの思考や行為を丁寧に見取る必要があります。さらに、「個別最適な学び」が求められるようになり、一人ひとりの到達度、つまずき、関心・意欲、習得スピードなどを把握し、必要な支援を適切に提供することが重要になりました。見取りは、まさに子どもの「思考の流れ」をつかむための重要な手立てなのです。

「見取り」とは何か


 『はじめに子どもありき』(平野朝久)では、子どもを理解する方法として「外からの理解」と「内からの理解」が示されています。

  • 外からの理解…子どもの具体的な事実を理解すること
  • 内からの理解…その人の立場に立ち、その気持ちを理解すること

 これらを踏まえ、『子どもの見方が変わる!「見取り」の技術』(若松俊介・宗實直樹)では、

子どもの外に現れる『表現』という事実を通して子どもの世界に近づき、内面を理解しようとすること

と整理されています。
 一人ひとりの個性や学びのペースを理解し、その成長を促すには、表面的な行動や発言を捉える「見る」だけでなく、その奥にある思いや思考、つまずきや可能性まで読み解く「見取る」という視点が欠かせません。
 日々の出来事を丹念に記録し、一人ひとりの個性や特性を踏まえた「子どものカルテ」を作成することで、ありのままの姿を深く理解するための確かな土台が築かれます。

カルテをどう使うのか


 カルテは単なる記録ではなく、子ども一人ひとりを長期的に見通すためのツールです。点在する事実を記録し続けることで、これまで見えにくかった傾向や変化が浮かび上がります。集めた事実を基に、子どもの思いや成長の方向性を考察していきます。

図1

 大切なのは、「自分の見方は常に仮説にすぎない」という姿勢を忘れないことです。
 カルテによって子どもの様子がより立体的に見えるようになると、新たな「あれ?」という気づきにも敏感になります。単発的な事実も、カルテと照らし合わせることで、意味のある情報として捉えられます。

「自由進度学習」での見取りをどうするか


 自由進度学習では、学習者が自分の学びをどのようにマネジメントしているかを見取ります。子どもが自分のペースで学習を進めるため、進度管理・課題選択・学習スタイルなどが多様になります。それらを観察し、

  • 見通す
  • 実行する
  • 振り返る

という各フェーズ(参考:木村明憲(2023))で、どのような力を見取るのかを意識して取り組むことが重要です。

 ここでは「見通す」フェーズに注目します。学習をどのように自己管理しようとしているのか、とくに「なぜその計画を立てたのか」という思考プロセスを見取ります。

図2

 例として、2年生の説明文「ビーバーの大工事」での実践をチェック表をもとに振り返ります。この児童は発表は多くないものの、友達との意見交流が活発で、自分の考えをまとめる力があります。初発の感想や学習の手引きを手がかりに、具体的な学習計画を立てていました。

図3

 前回「簡単なものから取り組み、難しいものを後にする」という計画でうまくいった経験が、今回の計画にも生かされていることが読み取れます。タスクの順番は、この児童なりに論理的です。ただし時間が足りなかった点から、今後は友達との相談の時間配分も考える必要があるでしょう。

 1時間で全員の見取りを行うことは難しいため、

  • 観点を絞る
  • 子どもを絞る
  • 学習方法を工夫する

といった手立てが必要になります。また、白紙座席表の活用も有効です。これらの具体的な方法については、新著『35人を教えながら見取る方法』に詳しくまとめています。ぜひご覧いただき、実践にお役立てください。

平野朝久(2017)『はじめに子どもありき【教育実践の基本】』東洋館出版社
若松俊介・宗實直樹(2023)『子どもの見方が変わる!「見取り」の技術』学陽書房
木村明憲(2023)『自己調整学習』明治図書

橋本 慎也はしもと しんや

1961年、熊本県生まれ。熊本市立託麻原小学校勤務。国語の実践を中心に、生活・総合的な学習の実践、学級づくりの実践を進めている。

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