「それ、先生が言わないとわからない?」
こんな一言をきっかけに、学級経営が難しくなることがあります。
夏休み明けの学級経営で「自主性」を意識する先生は少なくないと思います。4月から7月までの間は、学級の仕組みやルールが定着するように教師主導で学級を動かした分、これからは子どもに任せる場面を増やそうと考える気持ちは、よくわかります。種をまいてきた分、芽を出す期待はふくらみます。
しかし、教師としては子どもの自主性に期待しているのに、子どもが「先生、〜ってどうしたら良いですか?」と、たずねてくることがあります。今更確認しなくてもわかる内容です。
そんな時に、冒頭の「それ、先生が言わないとわからない?」と返してしまうことがありませんか?
教師としては、何の悪気もありません。しかし、この一言が子どもとの信頼関係にヒビを入れる危険性があります。その理由は、次のように2つあります。
- 言葉のキャッチボールが終わる
- 子どもの困り感が解消しない
1つ目に、対話になっていません。子どもの質問に対して教師が答えずに、問いで返しています。しかも、「わからない?」と問いの形をとりつつも、実際は「わかるだろ!」と言いたい気持ちがにじみ出ています。こんな風に言われた子どもは、固まってしまいます。せっかくの対話の機会が台無しです。
2つ目に、子どもは何か困っていて質問しているのに、原因が解消されていません。子どもは「なんだよ、聞いたのに教えてくれないなんて、先生は冷たい」と内心で思います。次に同じように困った時には、教師には聞かなくなります。他の子どもに聞いて解決できれば良いのですが、黙って抱え込んでしまうかもしれません。
担任としては、子どもの成長を期待して口にしたのに、その願いは残念ながら伝わりません。逆に、子どもは教師への不信感を抱きます。教室で口にした場合は、やりとりを聞いていた他の子どもも、良い気分はしません。1人の子どもが抱いた不信感は、その子の中に染み込んでいくと同時に、じわじわと学級へ広がります。
子どもたちが自主的に動くことを期待していたはずが、「子どもたちが担任に相談はしない。でも自主的にも動かない」という冷めた学級になってしまいます。
代わりの一言
それでは、「それ、先生が言わないとわからない?」の代わりに、どんな言葉を返せば良かったのでしょうか。1つの案として、私ならこう返します。
「それは〜すれば良いよ。確認ありがとうね。今回は○○さんを困らせちゃったね。次に困らない方法を考えよう。」
この言葉の意図は2つです。1つは、困り感を受け止めて改善する手立てを示すことです。もう1つは、次の行動に目を向けることです。振り返りを通して、今後の展望をもてるようにします。
振り返りの際には、次の3つの質問を使いましょう。
- 「どういう状況だった?」
- 「どう判断したの?」
- 「どういう行動をしたら、もっとうまくいくかな?」
最初に「どういう状況だった?」と現状を分析;r;}します。次に「どう判断したの?」と子どもの判断基準を問います。最後に「どういう行動をしたら、もっとうまくいくかな?」と改善案を問います。子どもの困り感を解消しつつ、自主性を育む効果があります。
子どもは、同じ失敗を繰り返すかもしれません。その時は、「わかっているけれど行動できない時は、どんな工夫をすれば良いかな?」と問います。子どもが自身の弱点を理解して改善する意識を高めるように、辛抱強く対話を続けましょう。すぐには結果が出なくても、必ず少しずつ成長します。
最初に紹介した「それ、先生が言わないとわからない?」という言葉には、担任としての苛立ちが隠れています。しかし、子どもがいちいち確認するのは、悪いことなのでしょうか? そもそも、子どもに原因があるのでしょうか? 担任としてのこれまでの学級経営や生徒指導の積み重ねが、子どもにそういう行動をとらせてしまっているかもしれません。
子どものせいにするのは簡単です。しかし、「担任として、もっとできることはなかっただろうか」と反省した方が、学級経営を改善できます。
「教師の言葉」を見直すための4つの意識
言葉についても同じです。言葉を扱うプロとして、「この一言で子どもを伸ばす!」という気持ちが大事です。普段忙しい中で言葉を練る余裕はないかもしれません。そんな時は、次の4つを意識しましょう。
- 言葉にする前の感情と向き合う
- 言おうとしたことを頭の中で文字にしてみる
- 本当に伝えたいことを考える
- 本当に伝えたいことに合わせて、言おうとしたことを修正する
頭の中で、この流れで言葉を練ります。慣れてくると数秒で済みます。子どもに対して咄嗟に何かを言わなければいけない場面でも、十分に間に合います。子どもたちに思いが伝わるように、一言一言を大切にしましょう。夏休み明けから、ぜひお試しください。