教育オピニオン
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ChatGPTに教師はどう向き合うか
滋賀県公立高等学校南部 久貴
2023/8/1 掲載

ChatGPTは教育現場を変える


 2022年11月末に登場して以来、注目を集めているChatGPT。
 私は、ChatGPTを初めて試したとき、「きっと教育現場を変える」と強く感じました。このように感じたのは、次のような可能性を実感したからでした。

@ 教師・生徒が最新のAIを簡単に操れる
A 日本語でプログラミングができる
B 「時間・人手不足解消」により、これまでできなかった指導ができる

教師・生徒が最新のAIを簡単に操れる
 これまで、私たち教師がAI技術を利用するのは、費用面や技術面でかなりハードルが高いものでした。これに対して、ChatGPTは無料で利用することができます。さらに、私たちが普段話している言葉で操ることができるので、教師だけでなく、生徒も、簡単に最新のAI技術を利用することができるようになりました。

ChatGPTに「何ができるの?」と聞いてみた例

ChatGPTに「何ができるの?」と聞いてみた例

 このように人間とメッセージをやり取りするように質問や指示を出すだけで、ChatGPTは文章を生成してくれます。
 ChatGPTへの指示文のことを、プロンプトと言います。ChatGPTを使いこなすには、このプロンプトをいかに工夫するかが鍵となっています。普段、私は次のようなテンプレートを使って、プロンプトを書いています。

# 命令書:
あなたは優秀な〇〇です。
以下の制約条件と入力文をもとに最高の出力をしてください。
# 制約条件:
・△△すること
# 入力文:
■■■■■■■

 まず役割を与えることで、出力の質が高くなると言われています。そして、制約条件で具体的に出力に制限を加えることで、求めている出力を生成しやすくなります。
 また、英語でプロンプトを書いた方がよいと言われていますが、私はあえて日本語を使っています。それは、同僚などとプロンプトを共有しやすく、出力が思い通りに生成されなかったときに改良がしやすいからです。

日本語でプログラミングができる
 現状、ChatGPT上でできることは「テキストのやり取り」だけに限られています。しかし、ChatGPTにプログラムのコードを書いてもらうことで、ファイルを操作することができ、できることが無限に広がります。
 例えば、Wordで作った穴埋め問題の解答を消して、生徒用のプリントを作るといった作業もマクロを書いてもらうことで、一瞬で終わらせることができます。

マクロを書いてもらった例

マクロを書いてもらった例

※画像をクリックすると操作方法の動画をご確認いただけます。

 さらに発展させて、一度にすべてのコードを書いてもらうことは現状できませんが、授業や校務に役立つソフトウェアを開発することですら可能です。私はプログラミング初心者ですが、ChatGPTに相談しながら、1ヶ月ほどで採点支援ソフトウェアを開発しました。(ただし、大量の答案を読み込むと、動作が重たくなり、落ちてしまうため、まだまだ安心して使えるレベルではありません。)しかし、このように教師のアイディアさえあれば、ChatGPTが形にしてくれる時代が、もうすぐそこまで来ているのです。今後、授業や校務を支援する画期的なソフトウェアが生まれるかもしれません。

「時間・人手不足解消」により、これまでできなかった指導ができる
 このように、誰でも扱うことができ、かつ、なんでもできるAIは、教育現場で大きな助けになると期待しています。現在の学習指導要領や『令和の日本型学校教育』の答申では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現が目指されています。私は、これらを実現していくために、ChatGPTなどのAIが活用できないかと考えています。
 これまでは、40人の生徒を教師1人が見ていたため、どうしても生徒一人ひとりを意識した指導には限界がありました。ChatGPTの助けを借りれば、生徒一人ひとりへフィードバックを返したり、生徒一人ひとりに合わせた問題を作成したりできそうです。
 例えば、私はワークシート上で ChatGPTと対話することができる『喋るワークシート』というものを試しに作ってみました。これはChatGPTのAPIとExcelのOffice スクリプトを使用して実現しています。プロンプトの工夫次第で、さまざまな応用ができるので、生徒の学びをサポートする新しい教材が作れるのではないかと考えています。

『喋るワークシート』の試作品

『喋るワークシート』の試作品

※画像をクリックすると操作方法の動画をご確認いただけます。

ChatGPTを使う際の注意点


ChatGPTを使っていく際には、注意点もあります。

ハルシネーションに注意
 まず、間違った情報を出力する「ハルシネーション」と呼ばれる現象には注意が必要です(ハルシネーションとは、「幻覚」の英訳)。ChatGPTは、膨大な量の文章を学習し、次に来る可能性が高い語を繋げて文章を生成しています。そのため、文章としては自然だけど、内容が間違っている出力をすることが多々あります。
 このハルシネーションに対する対策としては、「ChatGPTの出力をそのまま使わない」ということが挙げられます。ChatGPTの出力はあくまでも「一つの考え」として補助的に扱うことが大切です。また、その出力を使用する際には、他の情報源と照らし合わせて、ファクトチェックを行うことが必要です。
 さらに、学習に使用したデータの影響で、性別、国籍、宗教など、さまざまな点において偏りのある文章が生成されるおそれもあります。学校にも多様な背景をもつ生徒がいます。私たち教師は、ChatGPTの出力によって、生徒が傷つく場合があるということも押さえておく必要があります。

個人情報・機密情報の取り扱いに注意
 ChatGPTを使う際には、文章を「送信する」必要があります。これはChatGPTに限った話ではありませんが、送信した情報は、流出する可能性があると思って使用すべきです。そのため、個人を特定できる情報や機密情報は絶対にプロンプトの中に入れてはいけません。
 例えば、漢字で表記された名簿を「ひらがな」や「ローマ字」に変換することもChatGPTなら簡単にできます。しかし、このような使い方は避けるべきです。この他にも、音声から文字起こしした会議のデータを、ChatGPTに要約してもらうといった使い方も、会議の内容に応じて使用を控えた方がよい場合があります。

著作権に注意
 ChatGPTが出力する文章は、著作権を侵害するおそれがあります。基本的には、類似性(類似しているか)と依拠性(既存の著作物をもとにしたか)で著作権侵害と判断されるおそれがあります。文科省のガイドラインでは、著作権法第35条により、授業の範囲内であれば、既存の著作物と同一又は類似であったとしても使用が可能とされています。一方で、HPへの掲載や外部コンテストへの出品の際には、著作権を侵害していないか確認をすることが求められています。

最新の情報を確認する
 2022年11月にChatGPTがリリースされてから、まだ1年も経っていませんが、さまざまな新しい機能が追加されたり、利用規約の改定が行われたりしてきました。また、都道府県レベルでその使用についてルールを出したり、2023年7月には、文部科学省もガイドラインを出したりと、日々状況が変化しています。使用にあたっては、常に最新の情報を確認しながら使用していきましょう。

「禁止」ではなく、臨機応変な対応が求められる


 生徒のChatGPTの利用については議論が割れているように感じています。例えば、「生徒がChatGPTを使うと思考停止状態になって、生徒のためにならない」といった意見を聞いたことがあります。
 私は、この意見には反対の立場です。なぜなら、ChatGPTを使って自分の考えを深める「思考の壁打ち」などで活用することにより、自分の考えをさらに深められる可能性が十分あると考えているからです。
 ChatGPTは何度同じ質問を聞いても、丁寧に答えてくれます。もちろん、私も「何度聞かれても理解できるまで教えたい」という思いをもっており、生徒から質問されるとむしろうれしいものです。一方で、生徒の立場からすると、「何度も聞いたら申し訳ないな」と思ったり、「理解できていないと思われたくない」と思ったりすることも少なからずあるのではないでしょうか。このような場合、生徒にとって、ChatGPTは一緒に学習を進めていく、よき仲間になってくれる可能性も十分あると感じています。
 現在、私たちは、仕事でわからないことがあれば、インターネットで検索をして、それを元に仕事をしています。生徒が卒業する頃には、AIに聞きながら仕事をするというのが当たり前になっているかもしれません。
 なによりも大事なのは、将来を見据えて生徒にとって何がプラスになるのか、しっかりと検討することです。その際には、これまでの当たり前を疑っていくことが必要です。
 また、AIの使用を禁止しても、これからはあらゆるソフトウェアに埋め込まれていきます。知らず知らずのうちに使っていた機能が、実はAIを使ったものだったということも十分にありうると考えられます。そのため、基本的には「禁止できないもの」として考えていった方がよいでしょう。

まずは使ってみることから始めてみましょう


 ChatGPTは、これまでの教育の在り方を変える無視することができない存在です。まだ使ったことがないという先生方はぜひ一度使ってみてください。自分が生徒に課している課題をChatGPTに解かせてみたり、自身の校務で活用するところから始めてはいかがでしょうか。

記事内容は、あくまでも個人としての見解です。

南部 久貴なんぶ ひさき

1994年滋賀県生まれ。
2018年より滋賀県公立高校教師として勤務。
ICTを活用した教育に関心があり、2022年度には、滋賀県のICTコアティーチャーを勤めた。また、「総合的な探究の時間」の担当として、地域と連携した探究活動の実践にも取り組んでいる。

コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2023/8/7 7:35:53
    南部先生の製作されたサイテンギリNの大ファンです。先生のアイディアとそれを実現する技術力の高さには脱帽です!!!!
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