- 教育オピニオン
- 特別支援教育
1 医療ミスと同じくらい重大な“教育ミス”
「教科書36ページの問題の4番をやります」と指示すると、「先生、何て言ったのー!」と問い返す子どもがいる。聞く記憶の箱が小さく、一度に2つの指示(36ページを開く+4番を見る)が入りにくい。さて、努力しても聞き逃しやすい子どもを叱責すれば、その子どもは意欲を失うか反発する。視覚障害の子どもに「なぜ読めないんだ!」と叱責する教師はいない。本人の努力では見えないことを教師が理解しているからだ。だとすれば、努力をしても聞き逃す子どもへの叱責は、おそらく、医療ミスと同じくらい重大な“教育ミス”になるだろう。
これは、“努力不足”として誤解される典型であり、“できない”要因とその配慮の検討を強く求める。すなわち、“見方を変えて、支援を変える”必要があるのだ。
2 通常学級ユニバーサルデザインは学力を向上させる!
特別支援教育の研究指定校の学力は向上する。なぜならば、「36ページを開きます」「問題4番です」と“一文一動詞”の指示を心がけるからだ。その指示の仕方は、聞く記憶の箱が小さい子どもには「ないと困る支援」である。しかし、“一文一動詞”の指示にはメリハリがあり、どの子どもにも聞き取りやすい「あると便利で・役に立つ支援」になる。
○発達障害等を含む配慮を要する子どもに「ないと困る支援」であり
○どの子どもにも「あると便利で・役に立つ支援」を増やす
○その結果として、すべての子どもの過ごしやすさと学びやすさが向上する。
“特別”で“個別”な支援教育の前にまず、日常の学級経営・授業づくりで実践できる支援教育―しかも、学力向上に寄与する支援教育―が求められている。それが通常学級ユニバーサルデザイン(以下、UDと記す)である。
3 授業UDの視点
基盤は学級経営のUDであるが、小論では授業に焦点を当てる。
(1)聴覚的焦点化―子どもが聞く活動を高める
「長い説明や指示は外国語のようであった」(当事者)―発達障害の有無にかかわりなく、聞く活動は難しい。教師の話し言葉は削り、ポイントに焦点化する。当然、一文一動詞も心がける。また、“友達の発表を聞く活動”に留意したい。そのため、発表の仕方・聞き方の確認は学級づくりの要点となる。合わせて、「大事な話をします」などの聞く姿勢をつくる前置きの指示の重要性を強く確認したい。
(2)視覚的焦点化―子どもが見る活動を高める
「書き言葉が第一言語で、話し言葉は第二言語」(当事者)―視覚情報は自閉症の子どもに「ないと困る支援」の象徴である。一方で、大人でも約80%の情報を視覚から得る。書かれたものは、何度でも確認でき、色の違いなどによって、焦点化を図りやすい。どの子どもにも「あると便利な支援」になる。しかし、多すぎればウォーリーをさがせの感覚になり、見てほしい情報が不鮮明になる。視覚的焦点化を図るために、教室正面・黒板はきれいにする。チョークの色やマグネットツールを統一し、ポイントに焦点化する。
(3)一時一作業の原則―スタートラインを揃える
「聞きながら、メモをする電話応対は苦手」(当事者)―説明を聞くときに子どもはノートを書いている…などはありがちな授業風景である。仮に、車の運転中にスマホを操作すれば罪を問われる。一度に2つの作業は大人でも困難を伴う。聞くときは聞く、書くときは書く…1つの作業に集中できる環境にする。一時一作業を徹底するだけで、授業は一変する。
(4)動作化
「どこか動かしていないと集中できない」(当事者)―多動性の強い子どもにとって、授業中の動きは「ないと困る」必須の支援となる。一方で、私たちもわずか30分ほどの講演で、睡魔に襲われる…。“聞くだけ・見るだけの活動”で集中力を維持するのは困難がある。授業中の動きは―聴覚・視覚をはるかに凌駕しうる―集中力を高める効果がある。
音読、グループ学習、ペア活動等の動く(話す)時間は、多動性の強い子どもには「ないと困る支援」だが、すべての子どもの集中力を高める「あると便利な支援」になる。
(5)複線化―すべての感覚器官を活用する
その象徴は、漢字指導の“空書き・指書き・なぞり書き”である。ここでは、視覚、動作、触覚という3つの覚えるルートを示している。子どもの得意・不得意は様々であり、学び方・覚え方・イメージの仕方も多様である。多感覚ルートを複線的・同時的に提示する方法は、今後、さらに深める必要がある。
UDの展開により、共生社会に向けての歩みを確かにしたい。
〈参考文献〉
・佐藤愼二『実践 通常学級ユニバーサルデザインU―授業づくりのポイントと保護者との連携』(東洋館出版社)
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読めた!書けた!1年生の<教科書の漢字>学び支援!
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「わくわく」「うきうき」が「できた!」につながるプリント集
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どの子もできた!につながる教材のユニバーサルデザイン!