教育オピニオン
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感動エピソードの「語り」で子どもたちを勇気づけよう!
栃木県小山市立小山城北小学校教諭山中 伸之
2016/1/15 掲載

1 新年にエピソードを語る

 4月、9月、1月は子どもたちにとっても教師にとっても特別な意味があります。それは、学校生活が新しく始まるからです。いくつになってもどこにいても、人は新しく始まる場面では、将来への希望に胸をふくらませ、夢を達成する自分、大きく成長する自分を思い描いて、星雲の志を強くするものです。
 中でも1月は、新しい学期の始まりであると同時に、また新しい1年の始まりでもあります。夢を大きく掲げてスタートするこの日に、子どもたちを勇気づけ励ますエピソードを語って聞かせれば、それは子どもたちの胸の中に長く留まって、折に触れて子どもたちを勇気づけ励ましてくれるでしょう。
 語ることはまた、語り手の心にも響きます。教師が心から感動したエピソードを、教師の感動と共に子どもたちに伝えれば、子どもたちを励まし勇気づけるとともに、語る教師自身をも励まし勇気づけるでしょう。そうして子弟がひとつの感動エピソードを通して一体となり、これからの生活に希望をもってスタートすることができるのです。

2 語りの例:まずは小さいNO1を目指そう! 栃木県のカメラ屋さんの話

 佐藤勝人さんは、栃木県のカメラ屋さんの子どもでした。24歳の時に、大きなカメラ専門店をつくればお金がどんどん儲かるのではないかと思い、銀行からお金を借りて大型カメラ店をつくりました。その頃は、日本もすごく景気がよくて、銀行もどんどんお金を貸してくれたそうです。
 3日間の開店セールはものすごく売れました。佐藤さんはこの調子で儲かれば、銀行から借りたお金はすぐに返せるだろうと思っていました。ところが、3日間の開店セールが終わって、佐藤さんはあることに気付きました。何と、お店の従業員を雇っていなかったのです。開店セールの時は、カメラのメーカーからたくさんのお手伝いの人が来て、説明したり売ったりしてくれたのです。でも、その人たちがいなくなって気付くと、大型店なのに佐藤さんとお兄さんの2人しか働く人がいなかったそうです。
 それくらい商売には素人の佐藤さんですから、開店セールが終わるとどんどんお客さんが減ってしまいました。ひどい時には1日にカメラ1台しか売れません。大型店ですから電気代だってとてもかかります。赤字がどんどん大きくなってしまい、このままでは商売をやめるしかないと思ったそうです。
 そんなある日、佐藤さんは近くの電気製品の量販店に行きました。その店の中にも小さいカメラコーナーがあったそうです。佐藤さんがそのコーナーに行ってみると、小さいカメラコーナーなのに、お客さんはたくさんいるのだそうです。それを見て佐藤さんは、「こんな小さな店なのに、お客さんが来るのはなぜなのだろう」と考えました。そして、自分の大型店とのある違いに気付きます。
 佐藤さんのお店はあまり売れないので、メーカーさんが、カメラの他にも人気のある商品をいろいろと勧めていくのだそうです。その結果、佐藤さんの店はカメラ専門店なのに冷蔵庫や洗濯機やコンピュータなども置いてあったのだそうです。佐藤さんは、いったい自分の店は何屋さんなんだ、自分は何が売りたかったんだと、あらためて考えました。そして、自分はやっぱりカメラが売りたいんだという思いを新たにします。そこで、カメラ以外の製品をメーカーに引き取ってもらい、引き取ってもらえない商品は本当に安く売り、もう一度カメラ専門店としてやり直します。
 結論を先に言いましょう。佐藤勝人さんは名前の通り、勝った人になります。当時のデータですが、栃木県内で一眼レフカメラ販売シェア70%、コンパクトカメラ販売シェア55%、ビデオカメラ販売シェア45%、カメラ売上げ5年連続近県NO1、従業員も130名となりました。売り上げNO1は、その後13年連続まで伸び、従業員も現在は150名、栃木県内に18店舗を構える「サトーカメラ」となります。
 さて、佐藤さんはいったいどのようにして「勝つ人」になったのでしょうか。
 佐藤さんがやったこと。それは売り込む商品をしぼりにしぼったということでした。当時は家でもビデオが撮れる時代が来たということで、ソニーのハンディカムというホームビデオが大人気でした。そこで佐藤さんはソニーのハンディカムだけを徹底的に売ることにしました。すると、ソニーのハンディカムだけ(!)は、栃木県内で売り上げNO1になったそうです。これくらいしぼりにしぼると、地域でNO1になるのはそんなに難しくないのだそうです。
 佐藤さんはここで勝負に出ます。新聞に折り込み広告を入れたのです。「栃木県で、ソニーのハンディカムを1番売る店 サトーカメラ」と。ソニーのハンディカムが欲しいと思っている人は、「1番売る店」という言葉にひかれて来店します。すると、サトーカメラにはハンディカムがものすごく揃っています。さらに、従業員はハンディカムにはものすごく詳しいのです。まさに飛ぶように売れたそうです。こうして佐藤さんは「勝つ人」になったのです。
 さて、3学期の始まり、また新しい年の始まりにあたって、この佐藤さんの話から、皆さんにぜひ伝えたいことがあります。佐藤さんは、お店をやめようと思うほどの失敗をしました。しかし、そこから見事に立ち直りました。それは、売りたい商品をソニーのハンディカムだけにしぼりにしぼって、「小さいNO1」を取ったことから始まりました。こうやってしぼってしぼってうんとしぼった狭い範囲なら案外簡単にNO1になれるものです。みなさんにもそういう「小さいNO1」になる力がきっと備わっています。だめだとあきらめる前にしぼってしぼってホントに「小さなNO1」でいいですからそこを目指してみましょう。そのNO1が、皆さんにたくさんの自信をつけてくれます。その自信が次の自信を生みその自信がまた次の自信を生み、そうして成功するのです。まず、小さいNO1を目指してみましょう。

山中 伸之やまなか のぶゆき

1958年栃木県生まれ。宇都宮大学教育学部卒業。栃木県公立小中学校に勤務。
●研究分野
国語教育、道徳教育、学級経営、語りの教育
日本教育技術学会会員、日本言語技術教育学会会員
日本群読教育の会常任委員、実感道徳研究会会長

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