長瀬拓也プロデュース エキスパートが教える!とっておきの授業スキル
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エキスパートが教える!とっておきの授業スキル(5)
伊藤流 子どもが夢中になる! 「うまみ」の見極め方
岐阜県公立小学校教諭長瀬 拓也
2014/10/5 掲載
  • とっておきの授業スキル
  • 算数・数学

長瀬:今回は算数科です。立命館小学校の伊藤先生です。どうぞよろしくお願いします。

算数子どもを惹きつける授業展開のポイント
伊藤邦人先生

 主体的学習を意識しすぎるがあまり、子どもに任せすぎると…。
・授業の流れが堂々巡りになり、結局ポイントを押さえられない
・空気が停滞して、子どもたちの集中力が切れる
といったことが起こります。授業のポイントを押さえ、なおかつ子どもたちが生き生きと学べる空間を作るためには、その授業の「うまみ」の見極めが肝心です。

スキル1「うまみ」の探し方(1)〜自己との「ずれ」〜

 6年生の単元「場合を順序よく整理して」を既習後の発展学習では、こんな活動を仕組みます。(「場合の数」は6年生の単元ですが、5年生くらいから十分取り組めます。)

〈問題1〉
 0368の4枚のカードから3枚のカードを使って、3けたの整数を作ります。
 全部で何通りできますか。

 この問題の「うまみ」は2点あります。
・百の位に0は入らないこと。
・百の位に3が入った場合だけ考えれば、後は計算で処理できること。
 このおもしろさに気づかせるために、例えば答えが6×4=24(通り)になっている子や、答えの18通りすべてを樹形図で考えている子を探し、検討させます。
 もしくは、「まずは百の位に0を入れて…」とか、「百の位に68が入ったときにも樹形図をかいてみたら…」などのように、教師がとぼけます。
 素直にそのように考えていた子は、自己認識との「ずれ」が生じるわけです。

スキル2「うまみ」の探し方(2)〜他者との「ずれ」〜

〈問題2〉
 先ほどの3けたの整数のうち、偶数は何通りできますか。

 一の位に068のいずれかが入ればよいのですから、樹形図をかいて14通りとわかります。
 ところが、ある子が発言します。
「別の方法でしました。18−4=14(通り)です。」
 ここで、自分と他者との「ずれ」が生じます。
 全体でその考え方を検討すると、その子は先に一の位に3が入る奇数の場合を考え、全体の18通りから奇数の場合をひいて求めたことがわかりました。いわゆる「余事象」の考え方です。
 教室からは歓声が上がります。

スキル3「おいしくない」ところは流そう!

 つまり、「うまみ」のあるところとは、「ずれ」が生じるところです。もう少しわかりやすく言えば、子どもたちが引っ掛かりそうなところです。子どもが引っ掛かるところこそ、「うまみ」とも言えます。
 では逆に、「おいしくない」ところはどこか。それは、子どもたちがすでに理解しているところです。この活動であれば、〈問題1〉で百の位に3が入った場合の数をていねいに考えたり、〈問題2〉で偶数の14通りをていねいに考えたりするところです。
 それらは、演習授業や宿題で反復をすればよいからです。
例 「おいしくない」ところまで子どもに食べさせようとすると、授業がぐちゃぐちゃになってしまいます。
 「おいしくない」ところは教師が食べ(あるいはさっと流し)、「うまみ」のあるところを子どもにじっくり食べてもらうという視点をもつと、授業にリズムができ、子どもたちが生き生きとしてきます。
 我々教師は、常に「うまみ」を見極める眼を磨かなくてはいけません。

成功に導くポイント
  • 「ずれ」は授業の「うまみ」になる。
  • 「おいしくない」ところは教師が、「うまみ」のあるところは子どもに。

長瀬:ありがとうございました。次回は西尾環先生の図画工作科です。どうぞお楽しみに。

伊藤 邦人いとう くにと

1980年生まれ。学習塾勤務を経て、現在立命館小学校教諭。クリエイティブシンキング・ロジカルシンキングを融合させた授業づくりの研究を進めている。
共著に、『文章題プリント』(学研出版、2010年)『図形プリント』(学研出版、2011年)『学級経営・授業に生かす!教師のための「マネジメント」』(明治図書、2013年)など多数。
単著に、『マニュアル授業から脱却する!算数のクリエイティブ授業』(明治図書、2013年)がある。
メール:ki1108_th@yahoo.co.jp
ブログ:http://1109210.blog.fc2.com/(自分磨きノート)

長瀬 拓也ながせ たくや

1981年岐阜県生まれ。岐阜県立中津高等学校、佛教大学教育学部教育学科卒業。横浜市立小学校教諭、岐阜県公立中学校教諭を経て、現在、岐阜県公立小学校教諭。専門は、学級組織論、教育方法学、社会科教育。NPO法人授業づくりネットワーク理事、教育サークル「未来の扉」代表代行、クラス・マネジメント研究会代表。
主な著書に『新版 若い教師のための読書術』(学事出版)、『教師のための時間術』『誰でもうまくいく!普段の楽しい社会科授業のつくり方』(黎明書房)、『学級経営・授業に生かす!教師のための「マネジメント」』『THE学級マネジメント』(明治図書、編著)『THE教師力〜若手教師編〜』(明治図書、共著)『ゼロから学べる学級経営―若い教師のためのクラスづくり入門―』『ゼロから学べる授業づくり―若い教師のための授業デザイン入門―』(明治図書)などがある。

(構成:林)
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