教師なら必ずマスターしたい《指導技術集》
「指導技術」を意識するかしないかで、ここまで変わる!教師なら絶対に身につけておきたい知識や技能を、具体的なエピソードをまじえて紹介。
マスターしたい指導技術集(22)
教師の熱を移す
京都文教大学准教授大前 暁政
2015/1/15 掲載
  • マスターしたい指導技術集
  • 教師力・仕事術

活動を始めても、一生懸命やってくれない。

何となく子どものやる気が感じられない。

 教師の「熱意」と、子どもの「やる気」が異なっていることはよくあることです。せっかく価値ある活動を用意したのに、子どもはなかなかやる気になってくれないわけです。
 こういうとき、一体どうすればよいのでしょうか。

大切なのは、「納得」です。

 子どもが自分で、この活動は価値があることだと納得できていたら、やる気を出してくれるものなのです。
 子どもを納得させるには、教師の「語り」が大切になります。
 大切な活動をしているのなら、この活動がいかに大切なのかを、最初に説明しておくとよいのです。

 失敗例として、ある年、こんなことがありました。
 6年生が地域や学校に貢献する、ボランティア学習をしているときのことです。
 お世話になった学校に貢献する目的で、運動場の壁にペイントをすることになりました。運動場の壁が、真っ黒に汚れていたので、ペンキできれいな色をつけようというのです。
 100名を超える6年生は、一生懸命、汚くなっている壁をきれいに磨きました。下地処理が終わってから、慎重に、丁寧に、ペンキを塗っていきました。
 ところが、全部終わるという頃になって、騒ぎが起きました。
 一部の集団がふざけて、落書きをしてしまったことが分かったのです。
 それを見つけた子どもも、教師も、ガックリきてしまいました。
 せっかく、お世話になった学校への恩返しの意味で、貢献活動を行っているのに、落書きが残ってしまったのです。
 
 落書きをした子は、ばつの悪そうな顔をしています。
 このとき、学年全員に次のような話をしました。

「この活動は、お世話になった学校に恩返しの意味で行っているはずです。それが、ふざけて、落書きを残してしまうようでいいのでしょうか。しかも、みんなは、高学年に上がってから、前向きに頑張るようになってきました。お家の人も、みんなは変わってきた。頑張るようになってきた、とほめてくれていたところだったのです。先生は残念です。みんなが、実は、ふざけた気持ちで活動をしていたということに。」

 運動場に集まった全員が、声一つ立てず、シーンと静まり返りました。
 実は、この学年は入学してから荒れが続いていました。ですが、高学年になってから、前向きに頑張るようになっていたのです。

 活動が終わり、それぞれの学級で、「活動の意味をもう一度考え直してみよう」という話が、各担任からなされました。
 この出来事があってから、もう一度、子どもたちは活動の意味を考えました。
 それぞれの子どもが、活動の意味を自分なりに考え、その目的を共有しました。そして、その後の貢献活動では、ふざける子はいなくなり、一生懸命心を込めてやるようになったというわけです。

教師の思いや願いが子どもと違っている場合は、どうしてこの活動が大切なのか、どういう意味があってこの活動をしているかを、語らなくてはなりません。

 そして、その語りは、できれば「活動の前」にしなくてはならないのです。
 それも、教師の熱意を移すつもりで、心を込めて語るのです。
 前もって、活動の意味を語り、教師の熱を移していれば、子どもは頑張るものなのです。
 反対に、子ども自身が活動に納得できていないと、せっかくの活動が台無しになってしまうこともあるのです。

大前 暁政おおまえ あきまさ

昭和52年生まれ。岡山県の公立小学校教諭を経て、京都文教大学の准教授(理科教育)として赴任。理科の授業研究が認められ「ソニー子ども科学教育プログラム」に入賞。著書に、『子どもを自立へ導く学級経営ピラミッド』『プロ教師の「折れない心」の秘密〜悩める教師への50のアドバイス〜』『プロ教師直伝! 授業成功のゴールデンルール』『プロ教師の「子どもを伸ばす」極意―学級&授業づくりマスターBOOK―』『スペシャリスト直伝!板書づくり成功の極意』『スペシャリスト直伝!理科授業成功の極意』(以上、明治図書)、『必ず成功する!授業づくりスタートダッシュ』(学陽書房)、『NHKおじゃる丸 クイズでおじゃる 目指せ小学校クイズ王』(執筆協力、NHK出版)などがある。
著者HP:『大前暁政の教育』

(構成:及川)

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