著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
「モラルスキル」で道徳教育に新風を!
上越教育大学大学院教授林 泰成
2008/4/11 掲載

林 泰成はやし やすなり

1959年 福井県生まれ
1991年 同志社大学大学院文学研究科博士課程後期課程満期退学
1996年 上越教育大学助教授
2007年 上越教育大学大学院教授(現在に至る)
 主な著書に、『ケアする心を育む道徳教育』(編著)北大路書房、『道徳教育論:対話による対話への教育』(共著)ナカニシヤ出版、『道徳教育論』(共著)放送大学教育振興会などがある。

―モラルスキルトレーニングとはずばり一言でいうと何でしょうか。

 「道徳場面を想定したスキルトレーニング」です。スキルトレーニングの代表格にはソーシャルスキルトレーニングがありますが、私たちはスキルを身に付けるだけでなく、道徳性をも育てることが大切だと考えており、その2つを取り入れた教育プログラムとしてモラルスキルトレーニングを開発しました。
 例えば、本書でとりあげた実践に「あいさつスキル」がありますが、「あいさつは45度体を傾けて…」というのではありません。資料から「いつもは元気な野球選手(今日はしょんぼりしている)に会ったときどんなあいさつをするのがよいか」と相手の気持ちに配慮したあいさつの仕方を考え、ロールプレイを通して実際の行動を身に付けていくのです。

―学習指導要領の改訂で道徳教育の重視が強く打ち出されていますが、モラルスキルトレーニングは、そうした教育政策の中でどのような役割を果たすことができるのでしょうか。

 道徳的価値の自覚ということについてはこれまでも多くの先生方が熱心に取り組んでこられました。にもかかわらず規範意識が低下しているとの認識が一般に広がっており、今回の指導要領の改訂でも道徳教育の強化が謳われています。道徳教育を強化するには、私は、道徳的価値を自覚させるだけでなく、その前に、たとえば自尊感情を育てるとか、精神的健康を維持するとか、また価値の自覚の後に、体験と結びつけるなどの工夫が必要だと考えています。モラルスキルトレーニングはそうした工夫のひとつです。
 本書では、例えば、「自己主張のスキル」をとりあげていて、「なわとびを貸して!」と頼まれても自分も使いたかったら断ってもいいんだ、ただ優しく丁寧にね、と教えています。ロールプレイやペアインタビューなどのエクササイズも授業中の随所で活用しています。
 道徳教育の強化が謳われているとはいえ、具体的にどうすればよいのかは現場の先生方に任されているところもありますので、先生方の道具箱の中にモラルスキルトレーニングも入れておいていただきたいと思います。

―学校現場でモラルスキルトレーニングはどのように実施されているのでしょうか。

 多くの場合、道徳の時間に実施されています。本書も道徳の時間にすぐ実践いただけるよう授業のねらい、内容項目、目標スキル、資料(主に自作)、ワークシート、授業展開、授業の様子などを掲載しています。スキルごとに低・中・高学年用の実践をそろえています。とりあげたスキルは「あいさつ」「自己主張」「お礼・謝り方」「親切」「友達づくり」「思いやり」「正義」です。
 クラスの状況をみて合うものからぜひ取り組んでみてください。本書中「思いやりのスキル」の節でも班長の6年生が掃除をしない下学年生にどう注意するのがよいか、をとりあげています。6年生児童の一番多かった悩みを元にした実践で、学級の直面する問題を取り上げる大切さがわかります。
 道徳の他には、学級活動の時間に取り入れてくださる先生もいますし、人権・同和教育の一環として活用してくださる先生もいます。さらには、コミュニケーション能力を育てるために使ってくださる先生もあり、モラルスキルトレーニングには広がりがあります。

―モラルスキルトレーニングの開発はどのように行われたのですか。

 この本の執筆者の多くは、小学校教員の身分のままで、私の勤務する上越教育大学大学院に派遣されてきました。彼らは、平成20年からスタートする教職大学院が目指すところの、学校現場で実践しながら課題解決に取り組み自らの教育技術のスキルアップをはかるというスタイルで、実践研究に取り組んできました。そうした中からモラルスキルトレーニングが生まれてきたのです。学校現場での実践と専門家の研究がひとつになってつくりあげられた実効性のあるプログラムなのです!

―最後に、日々道徳教育に取り組まれている小学校の先生方に一言お願いします。

 ぜひ一度モラルスキルトレーニングを実践してみてください。そして、不十分だと思われる点に工夫を加えてみてください。私たちは、提示したものが完璧なものだなどとは思っていません。モラルスキルトレーニングは、学校現場での工夫によってよりよいもとなるのです。先生方とともによりよいものへと作り上げていきたいと思っています。

(構成:佐藤)

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