著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
「考える足場」をつくる算数科授業事例集
横浜国立大学教育人間科学部教授石田 淳一
2007/11/9 掲載
 今回は石田淳一先生に、新刊『「考える足場」をつくる算数科授業事例集』について伺いました。

石田 淳一いしだ じゅんいち

1954年,神奈川県小田原市生まれ,京都大学教育学部卒,筑波大学大学院教育研究科修了,同教育学研究科中退後,愛知教育大学助教授,筑波大学講師を経て,現在横浜国立大学教育人間科学部教授。学術博士。2002年度英国オックスフォード・ブルックス大にて在外研究。全国各地の小学校で指導講演を行っている。主著に『「考える足場」をつくる算数科授業の創造』などがある。

―「考える足場」とは何ですか。また、具体的にはどのように授業で取り入れ、どのような学習効果を期待できるのでしょうか。

 「考える足場」とは、本時問題の解決に役立つ基礎・基本となる知識・技能・考え方です。算数科の特徴は学習内容の系統性が強いことから、既習事項であっても繰り返し、本時の学習内容に関連する「考える足場」をつくる段階を毎時間の導入場面で5分程度設定するとよいのです。このことにより、基礎・基本の確実な定着につながり、さらに既習事項と関連付けた本時の学習が可能になります。
 中教審教育課程部会の審議のまとめでもスパイラルな学習の重要性が指摘されています。足場は意図的に学年を超えて基礎基本の繰り返し学習の場にもなっています。

―前著に「考える足場」の理論と実践をまとめた『「考える足場」をつくる算数科授業の創造』がありますが、続編としての本書のねらいをお教えください。

 続編では、「考える足場」をつくる授業がめざす「論理的に考える力」「発展的に考える力」「読み取ったり、表現したりする力」の3つの視点から、全国で実践されている「考える足場」の授業事例を収録しています。事例数は1学年から6学年まで28事例あり、これから「足場」の授業を実践する場合の手引き書となるように、1事例4ページ構成で、本時の足場、指導展開や板書計画、授業設計のポイントが記されています。

―「考える足場」は全国的にどの程度実践されているのでしょうか。

 私が関わっていた、あるいは現在関わっている小学校には、青森県八戸市長者小、長野県千曲市東小、東京都葛飾区堀切小、千葉県船橋市小栗原小、神奈川県横浜市本町小、大曽根小、綾瀬市早園小、綾西小、伊勢原市石田小、厚木市愛甲小、平塚市勝原小、愛知県岡崎市常磐東小、幸田町幸田小、静岡県静岡市サレジオ小、石川県小松市第一小、荒屋小、波佐谷小、京都府京都市音羽小、大宅小、藤ノ森小、兵庫県姫路市香呂小などがあります。このほかにも多くの小学校で実践されているようです。

―先日、全国学力調査の結果が公表され、B問題(「活用」に関する問題)を解く力に課題が残りましたが、「考える足場」でそのような活用力を伸ばすことも可能なのでしょうか。

 そうです。「考える足場」は意図的に主として既習事項の確認を授業導入時に行い、これらをいかに本時の学習に用いるかの工夫を考えさせます。このことは算数の学習を、「既習」を「活用」する学習に焦点化することにほかなりません。また適宜、本時学習の終末に発展問題を与え、学びを「活用」する機会を与えます。このように「活用する力」を育てるのに、「考える足場」をつくる算数授業は役立ちます。

―最後に、小学校で算数を教える全国の先生に向けてメッセージをお願いします。

 これまでの算数学習は、「自力解決」が最初にあることが前提になっており、自力解決できなければ、それに続く「集団解決」でも友達の考えを聞いて理解するだけになります。発想を転換して、新しい学習内容について、既習事項をベースにクラス全体が考えながら学び、その学びの理解や発展を授業後半に「自力解決」で試すような授業がもっと必要ではないかと考えます。ぜひ新刊『「考える足場」をつくる算数科授業事例集』を参考に、「足場の授業」を実践してみてください。

(構成:五十嵐)

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