フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり
インクルーシブ教育の最先端の研究を担う,東京大学大学院教育学研究科と大阪市立大空小学校の取り組みを紹介。
フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり(1)
フル・インクルーシブ教育とは何か
東京大学大学院教育学研究科教授小玉 重夫
2018/6/21 掲載

 インクルーシブ教育は、障害のあるなしにかかわらずすべての子どもたちが同じ教室で共に学び、共に生活することをめざす教育です。大空小学校と東京大学の協定締結を紹介しながら、だれ一人として見捨てられることのない学校とは何かを、一年間共に考えていきたいと思います。

大空小学校と東京大学の協定

 昨年(2017年)の9月21日に、大阪市立大空小学校と東京大学大学院教育学研究科は、教育・研究交流連携事業に関する協定を締結しました。これによって、両校は、インクルーシブ教育に関する教育と研究の発展に共同で取り組むことになりました。
 インクルーシブ教育は、障害のあるなしにかかわらずすべての子どもたちが同じ教室で共に学び、共に生活することをめざす教育です。インクルーシブ(包摂)という言葉が示すように、だれ一人として排除されることのない、見捨てられることのない学校をつくることが意味されています。
 大阪市立大空小学校は、映画「みんなの学校」でも紹介されているように、これまで一貫して、すべての時間を、すべての子どもが普通学級で共に学ぶフル・インクルーシブの教育に取り組んできました。2016年から障害者差別解消法が施行されたことによって、普通学校や普通学級の中ですべての子どもたちが共に学ぶインクルーシブ教育の実現が待ったなしの課題となっています。そのような状況のもとで、大空小学校と東京大学が教育・研究交流連携事業に関する協定を締結することは、重要な意義を持つものです。

なぜ協定を結んだか

 東京大学は「ビジョン2020」のなかで、インクルーシブな社会づくりを中心理念の一つに掲げています。それをふまえて教育学研究科でも、初等・中等教育のカリキュラムを市民性(シティズンシップ)やバリアフリーの立場から抜本的に組みかえる「カリキュラム・イノベーション」を重視する立場から、インクルーシブ教育の研究の発展とその担い手の育成を重視しており、バリアフリー教育開発研究センターの拡充に取り組んできました。今回の協定はその一環です。
 この協定によって、両校は、普通学校・普通学級をよりインクルーシブな空間へと再編成し、インクルーシブな学校づくりを進め、ひいてはインクルーシブな社会をつくっていくための研究とその担い手の育成事業に共同で取り組むことになりました。教育学研究科としては、協定で得られた共同の機会を最大限に活用して、学部での教員養成に加えて、全国の現職教育で指導的立場に立つ人材を育成し、教育現場を変えていく知の架け橋としての役割を積極的に担っていきたいと考えています。

今後の連載の予定

 この連載もまた、そうした私たちの活動の一環です。一緒に、フル・インクルーシブな教育とは何かを考えていきましょう。連載の予定は以下の通りです。

6月号(本号) フル・インクルーシブ教育とは何か 
 …小玉 重夫
7月号 障害の社会モデルからみた大空小学校 
 …星加 良司(東京大学准教授)
8月号 みんなの学校の前進と大空小学校への期待
 …木村 泰子(大空小学校元校長)
9月号 大阪市のインクルーシブ教育・大空小の取り組み 
 …岩本 由紀(大空小学校校長) 
10月号 校長室・職員室の再定義 
 …日野 善文(大空小学校教頭)
11月号 チームで動く1 担任ではなく担当 
 …徳岡 佑紀(大空小学校教諭) 
12月号 チームで動く2 支援チームの役割 
 …上田 美穂(大空小学校教諭)
1月号 養護教諭の役割を問い直す 
 …高橋 沙希(東京大学特任研究員)
2月号 なぜPTAではなくSEAなのか 
 …吉田 昌二(大空小学校SEAキャプテン)
3月号 学校協議会の役割 
 …小国 喜弘(東京大学教授)
4月号 包摂を可能にする学校文化 
 …二羽 泰子(東京大学特任助教)
5月号 「何であれかまわない」学校をつくるために 
 …小玉 重夫

まとめ

  • フル・インクルーシブな教育はいわゆる特別支援教育だけに限定されない、すべての子どもたち、すべての市民たちに開かれた文字通り「みんなの学校」をつくる教育です。それが何なのかをこれから一年間の連載で、明らかにしていく予定です。

〈参考文献〉
・東京大学教育学部カリキュラム・イノベーション研究会編『カリキュラム・イノベーション』(東京大学出版会、2015年)

小玉 重夫こだま しげお

 東京大学教授。現在、同大学院教育学研究科長・教育学部長をつとめる。教育の公共性の思想を研究し、シティズンシップ教育のあり方について提言を行っている。著書に『教育政治学を拓く』(勁草書房)など。

(構成:赤木)

好評シリーズ
コメントの一覧
4件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2018/6/22 14:58:58
    大空小学校の取組みは本当にフル・インクルージョンと言えるのでしょうか。
    映画などを見せてもらっても、決してそうとは思えません。障害のある子どもたちは排除はされないけれど、ただそこにいるだけの存在にはなっていないのでしょうか。むしろ健常の子どもたちの学ぶ手段になっていると感じました。多様な学びの場を設定するのが文部科学省が提唱するインクルーシブ教育。支援学級が設置されていないのは、これに違反しているのではないでしょうか。本当に大空小学校の取組みがフル・インクルージョンなのか、私は決してそう思いません。むしろ、昔に逆行しているようにも感じます。
    • 2
    • 一読者
    • 2018/8/1 16:14:33
     映画「みんなの学校」に感銘を受け、大空小学校の実践に注目していました。東大との協定も応援しています。これからの連載を、とても楽しみにしています。
    • 3
    • 木村泰子スーツケース
    • 2018/11/22 0:37:34
    “だれ一人として排除されることのない、見捨てられることのない学校”なんて言葉は、信用できません。
    こういう言葉を使う人は、「豊中市第十五中学校集団暴行致死事件(1991年)」については隠します。この事件について真摯に向き合って「フル・インクルーシブ」が語られたことが、これまでにあるとは思えません。
    • 4
    • 名無しさん
    • 2019/1/29 19:14:46
    大空小学校の教育方針の是非については判りかねますが、初代校長が新設校で異例の長期間の就任により独自の教育方針を披露するには恵まれすぎる状況だったのは確かです。風通しが悪すぎて校長色一色の学校になった気がします。退職後も全国で「みんなの学校」の講演をされていますが、大空の実情はバランスを欠く特別支援学級の増加で苦慮されていること、学力テストでは平均を下回っていることなど、講演される際は、特に大阪市は学校選択制なので最新の情報を正しく伝えていただきたいと思います。これが正しい教育と思いこまず、絶えず手探りで目の前の児童に合う教育を模索していく姿勢が大切なのではないでしょうか。
コメントの受付は終了しました。