世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座 対話でつくる道徳の学び
いよいよスタート目前の「特別の教科 道徳」。身構えなくても大丈夫。考え、議論する道徳にはもやもや・ワクワクがたくさん!対話的な子どもを育てる道徳の授業づくりを始めましょう。
世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座(9)
道徳の教科書における読み物教材とどう向き合うか
立命館大学大学院准教授荒木 寿友
2018/2/25 掲載

 教科書にはどういった教材(資料)が掲載されているのでしょう。現時点ではまだ教科書の一般発売はされていませんので、私もすべてを確認することができないのですが、今回は教科書に掲載されている一般的な教材の特徴を明らかにした上で、どのような道徳の授業が求められているのか考えていきたいと思います。

道徳教科書の役割とは?

 そもそも道徳の教科書には何が掲載されているのでしょうか。各教科書出版社がオリジナリティを発揮しながら編集を行っていますので(道徳の場合は全部で8社)、教科書編纂のコンセプトや、扱っている読み物教材、教材ごとの発問、話のトーン、色使い、レイアウト、教科書の中でのキャラクターなどは異なってきます。
 ただ、少なくともいえることは、内容項目(「正直、誠実」、「相互理解、寛容」、「公正、公平、社会正義」といったもの)と情報モラル、現代的な課題がすべて網羅されていることは間違いありません。これらに基づいた読み物教材などが教科書には多数準備されています。
 では、この内容項目を、読み物教材を通じて、子どもたちに教えていけばいいのでしょうか? でもそうなってしまうと、なんだか、道徳的価値の押しつけになってしまいそうですよね。ちょっと長い文章になりますが、小学校の「学習指導要領解説」では次のように記されています。

 道徳科の内容項目は、道徳科の指導の内容を構成するものであるが、内容項目について単に知識として観念的に理解させるだけの指導や、特定の考え方に無批判に従わせるような指導であってはならない。 内容項目は、道徳性を養う手掛かりとなるものであり、内容項目に含まれる道徳的諸価値の理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して、「道徳性を養う」ことが道徳科の目標である。(太字は筆者)

 なるほど、道徳科の目標はあくまで、「道徳性を養う」ことにあって、内容項目(道徳的価値)や、価値に対する考え方(価値観)を教え込みしていくわけではないということです。道徳性を養っていくために、内容項目を扱ってくださいねというのが道徳科の基本的な考え方になります。
 となると、内容項目が描かれている読み物教材(手段)を通じて、道徳性を育んでいくこと(目的)が、読み物教材を用いた場合の授業づくりの基本的な考え方となります。

価値伝達型の読み物教材

 でも、なぜ道徳の教科書には、多数の読み物教材が掲載されているのでしょうか。歴史を紐解けば長くなってしまうので(修身科とか戦後の取り組みとかね)、今回は直近の出来事から見ていきましょう。
 2016年7月に「道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議」が「『特別の教科 道徳』の指導方法・評価等について(報告)」の中で、質の高い多様な指導方法の一つとして、「@読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習」を取り上げました(二つ目が「問題解決的な学習」、三つ目が「道徳的行為に関する体験的な学習」でした)。おそらくこの「報告」が、道徳教科書の大部分が読み物教材で占められることになった大きな要因(あるいは後押し)の一つといえるでしょう。「読む道徳」から「考え、議論する道徳」への転換が求められているときに、読み物教材を扱う道徳の指導法が一番目に取り上げられたことへの議論や賛否はここではひとまず置いておくとして、読み物教材にはどんな特徴が隠されているのでしょうか。
 多くの読み物教材は、先程示したように、内容項目が盛り込まれています。もうちょっと詳しく書くと、「正直、誠実」という内容項目が生活場面などでどのように現れてくるのか、あるいは過去の偉人はどう取り組んでいたのかなど、特定の具体的な場面に落とし込んで描かれているのが読み物教材になります。そしてこれがもっとも一般的な道徳の読み物教材の型であるといえます。
 道徳の読み物教材として定番となっている「はしのうえのおおかみ」、「二通の手紙」、「泣いた赤鬼」、「フィンガーボール」、「手品師」、「ブラッドレーのせい求書」、「雨のバス停留所で」などの教材は、望ましい形での道徳的価値の実現が描かれているのが特徴としてあげられます。このような教材を「価値伝達型の読み物教材」と名付けておきましょう。
 実はここに悩ましさが隠れているんですよね。つまり、教材に望ましい道徳的価値(あるいは価値観)の姿が描かれているからそれを教えたくなる衝動と、いやいや道徳的価値(価値観)は教え込みたくないよというもう一つの声。「道徳的価値を教えこんだり、特定の考え方に無批判に従わせたりしてはいけない」と注意されているにもかかわらず、教材そのものが道徳的価値を教え込むような形で描かれてしまっているんですよね。
 たとえば、「はしのうえのおおかみ」では、暗黙的にも明示的にも「他人にやさしくしましょう」というメッセージが込められていますし、「手品師」には「誠実に生きることや約束を守ること」がメッセージとして込められています。おそらくこの背後には「教育とは伝達である」という昔からの教育観があるのでしょう。
 となると、読み物教材を授業でどう扱っていくのか、それが私たちの大きな課題となってきそうです。

読み物教材は道徳性を育む一つの手段に過ぎない

 やはり、価値伝達型の読み物教材を扱う際には、「教材はあくまで手段の一つである」ことに留意する必要がありそうです。そして、これがもっとも大変な点でもあります。なぜなら、教材をそのまま授業で用いることができないということを意味するからです。そのまま用いると、それこそ「読む道徳」になってしまい、現在の道徳授業の流れ(「考え、議論する道徳」)に逆行してしまいますよね。
 道徳的価値の一方的な伝達を逃れる方法として、以下の工夫が考えられます。それは、教材を通じて描かれている内容項目(主題あるいはテーマ)そのものを子どもたちと考えていくことです。東京学芸大学の永田繁雄先生が「テーマ発問」と呼んでいるもの、それからKTO道徳を提唱している筑波大学附属小学校の加藤宣行先生が用いる「深く考える発問」「問い返し」などがそれに該当しますが、要は道徳的価値そのものを改めて問うということです。「優しさとはなんだろうか」「親切にすることは必ず相手に喜ばれることなのだろうか」「そもそも誠実に生きるとはどういう意味だろう」といった発問は、教材の中に「答え」が書いてあるわけではありません。書いていない以上、子どもたちは自分の経験に基づきながら必死で「答え」を考えようとします。そして他人がどう考えているか、よりよいアイデアを求めるようになります。つまり、自分で考え、他人に学ぶ、これが「考え、議論する道徳」につながってくるのです。
 道徳の読み物教材に描かれているのは、特定の具体的な状況下における道徳的価値の一つの姿です。つまり、これをそのまま教えたとしても、子どもたちがそのような状況に遭遇する可能性は極めて低いことになります。道徳の教科書はハウツー本ではありません(そのように描かれているものもあるかもしれませんが)。それよりも、道徳的価値の本質を捉えながら、さまざまな側面から道徳的価値の理解を進めることで、道徳性を育成していくことがより大切なことです。

新しい教材の形を目指して

 とすると、読み物教材そのものを変えていくということもこれからの課題になってくるでしょう(むしろこちらの方が大切であると考えています)。そもそも価値伝達型で描かれているものを、現場教師の裁量に依存して(教材分析をちゃんとやらないと道徳の授業はうまくいかないよという隠れたメッセージの元で)、「考え、議論する道徳」を実施してもらおうというのは、ちょっと虫がよすぎる気がします。価値伝達型の教材だけでは、これからの道徳授業を担う教材としてすべてをカバーしているものとはいえないでしょう。一方、モラルジレンマを扱う教材は、価値伝達型とは明らかに異なるので、これはこれで「道徳性を養う」ための教材の一つとして考えられるでしょう。

 むむむ……。教科書ができたら、それに沿って教えればいいのかなと思っていたのですが、他の教科と同じで教材分析をしっかりしないと「考え、議論する道徳」にはならないんですね…(当たり前か…)。価値伝達型の教材も、モラルジレンマ教材も、あくまでも教材の一つとして考えるということが、まずは大切ですね。

 そうですね、道徳的価値を知っているだけではなく、その価値を自分の、そして私たちの人生にどう活かしていくのか、それが今後求められている道徳科の役割だと思います。となると、「資質・能力育成型教材」が今後必要になってくるのではないでしょうか(新しい教科書にはそのような教材がもしかしたら準備されているかもしれません)。資質・能力と一言で言っても、そこには知識や思考力といった認知的能力だけではなく、学びに向かっていく力などの非認知的な能力も含まれています。こういった視点を踏まえて、新しい教材が作成されていく必要があるでしょう。資質・能力育成型教材の開発を、私自身も今後、考えていきたいと思っています。

※今回の講義の理論的な背景などについては、荒木寿友「これからの道徳教材の方向性:資質・能力を育成するための道徳教材開発」日本道徳教育学会『道徳と教育』336号、2018年に掲載される予定です。

第9講のまとめ

  • 読み物教材はあくまで道徳性を育んでいくためにあるのであって、その内容を教え込むためにあるわけではない。
  • 価値伝達型の読み物教材を用いた道徳の授業には、テーマに関する問いを準備しておく必要がある。
  • 今後は資質・能力育成型教材を開発していくことも大切になってくる。

【参考文献】
加藤宣行著『考え、議論する道徳に変える指導の鉄則50』明治図書、2017年
加藤宣行著『道徳授業を変える 教師の発問力』東洋館出版社、2012年
永田繁雄著「道徳授業の発問を変える『テーマ発問』とは」『道徳教育』8月号、明治図書、2014年

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学大学院教職研究科准教授。NPO法人EN Lab.代表理事。元セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン,アドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)など。

(構成:林)
特集 「特別の教科 道徳」
コメントの受付は終了しました。