世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座 対話でつくる道徳の学び
いよいよスタート目前の「特別の教科 道徳」。身構えなくても大丈夫。考え、議論する道徳にはもやもや・ワクワクがたくさん!対話的な子どもを育てる道徳の授業づくりを始めましょう。
世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座(10)
道徳科、ついにスタート!考え、議論する土台をつくる道徳の授業開き
立命館大学大学院准教授荒木 寿友
2018/3/25 掲載

 さて、まもなく新学期が始まりますね。特に小学校の先生にとっては、特別の教科道徳、完全実施の年になります。
 「いつも通りの新学期でさえ、やらなきゃいけないことがたくさんあるのに、道徳も!」というお気持ちは重々承知していますが、でもせっかくなので「もやもやワクワクする授業」にしていきましょう。

楽しく始める!道徳の授業開き

 読者の先生は、毎年どのような道徳の授業開きをしていましたか? 特にやってない? 2018年度は、いつもとはちょっと違った形で道徳の授業開きをしてみませんか?

 授業開きには、当然国語なら国語、社会なら社会といった、各教科固有の目的があります。では、道徳の授業開きでは、何をねらって実践すればいいのでしょうか?
 すでにいろいろな先生が工夫された実践をされているので、あくまで「私(荒木)個人がするなら」という前提で話をしますが、やはりこれからの新しい道徳を考えた場合、年間を通じて子どもたちに取り組んでもらいたい学習活動は、「考えること」「議論(話し合い、対話)すること」で、その活動を通じて「どうすることが正しいことなのか、よいことなのか」を子どもたちが見極めていけるようになることです。つまり、個人でしっかりと考えるということ、協働でアイデアを出し合って考えていくという学習活動を通じて、「よりよく生きる」ということを探っていくことですね。
 となると、授業開きではこれらのポイントを子どもたちにしっかりと伝えていくことが大切になります。
 でも、このメッセージを伝えるだけなら5分で終わってしまいます! 何より、教師のメッセージを伝達するのみで、子どもたちにとってはまったくおもしろくありません。そこで、簡単なミニワークを準備しました(道徳の教科書と併用することもできます)。小学校中高学年以上のものを2つ提示しますので、学級の実態に合わせてアレンジして使ってみてください。(実は私も、大学での道徳教育の講義の初回に以下のようなミニワークを行っています!)

★みんなで絵を描こう

対  象:小学校中学年以上 
所要時間:20〜30分程度 
形  態:4人程度のグループ 
準 備 物:各グループにA4サイズの紙1枚、ストップウォッチ(なければ時計で代用)、ふりかえり用のワークシート(あるいは道徳ノート)

進 め 方
1. これからあるお題に従って、一人20秒間だけ絵を描いてもらいます。一人が描けたら、次の人に紙と鉛筆を渡してください。Aさんが描けたら次はBさん、そしてCさん、最後にDさん。これを2回繰り返します(2周くらいがいいかなと思いますが、子どもたちの描いている量を見て、もし少なければ3周してもかまいません)。前の人が描いた絵に書き足して構いません。全員で一つの絵を完成させてください。最後に4人で考えてその絵に題名をつけてください。
2. ルールは簡単です。決して相談しないこと、黙って描くことです。(ここが大事なポイントです。相談しちゃうと盛り上がらなくなってしまいます!)『自分の前に描いた人は一体何を描いたんだろう?』って想像しながら、自分の絵を描き加えていってください。
3. ではお題の発表です!(お題には固有名詞は避け、たとえば、「新学期」「未来の乗り物」「休み時間」など、具体的すぎず、いろいろなイメージが浮かび上がるようなものがいいです。)
4. ではやってみましょう。
5. ユニークな絵ができあがりましたね。では4人で考えてその絵に題名をつけてみましょう。題名は紙のどこかに書いておきましょう。制限時間は1分です。
6. どんな絵ができあがったのか、みんなで見てみましょう。

 さて、ここで終わっては単なるレクリエーション。道徳の授業開きとしては、絵をみんなで見てからが大事な時間です。「今日の活動、みんなはどんなことを考えましたか?」という感想交流をしてみましょう。すると、

  • 黙っておくのがおもしろかった(むずかしかった)
  • 前の人が何を書いているのか想像するのがおもしろかった(むずかしかった)
  • だんだんとバラバラな絵がまとまっていった!
  • ○○さんの発想がすごかった!

などといった、多様な感想が出てくるはずです。要は、協働して何かを創り上げるという作業のおもしろさに気づいてもらうのが一番のポイントです。
 最後のまとめには次のようなことを話します。これらが、これからの道徳の授業で学んでいく大事なポイントになります。それは

  • これからの道徳の授業でも、誰かの発言に付け加えたりしながら、新しい考え方をたくさん創り出していってほしいということ。
  • そのためには、自分以外の人が話していることや考えていることをしっかりと理解すること。
  • どうすることがみんなを幸せにするんだろうと考えること。

 最後は、個人で今日の活動をワークシートなどにふりかえって終了です。

★おはなしをつくろう

対  象:小学校中学年以上 
所要時間:20〜30分程度
形  態:4人程度のグループ 
準 備 物:付箋紙一人10枚程度(なければ一人一枚のA4の紙)、ストップウォッチ(なければ時計で代用)、各グループにホワイトボード一つ(なければA4の紙)
*基本的には<みんなで絵を描こう>と同じです。アイデアを出し合っておはなしをつくるという点で、若干難易度が高くなります。

進 め 方
1. これから、“あるお題から連想する言葉”をできるだけたくさん出してもらいます。付箋紙(もしくは紙)に思いつくまま書いていってください。
2. ではお題の発表です。(お題は「学校」「友達」「地球」など、<みんなで絵を描こう>と同じようなお題にしてください。連想する言葉を書くときには、「友達」といえば○○ちゃんなど、具体的な固有名詞は書かないようにしましょう。)まずは一人で考えてみましょう。制限時間は3分です。
3. 4人組で出てきた言葉を机の上に並べてみましょう。同じような言葉があったり、ぜんぜん違う言葉があったりしますね。
4. では、その言葉をできるだけ使って「ハッピーな○○」(○○は最初に選んだお題を使う)というタイトルで一つのおはなしをつくります。おはなしはホワイトボードに書いていってください。制限時間は10分です。
5. では、どんなおはなしができあがったのか、発表してみましょう。

 これ以降の流れは、<みんなで絵を描こう>と同じです。協働して何かを作り上げるということ、他人のアイデアに耳を傾けるということを子どもたちに伝えてください。

「考え、議論する道徳」って、やっぱりちょっと小難しいのかな…と思っていたのですが、これならできそうです。クラス替えをしたばかりの学級であっても、<みんなで絵を描こう>なら全員参加で楽しく取り組めそうです!

 ここに示したものは、あくまで一例です。「考えること」「議論(話し合い、対話)すること」が含まれているワークであれば、なんでも構いません。

道徳の授業で学んでいくこととは?

 学校教育を通じて、特に道徳の授業で子どもたちに学んでいってほしいことは、次の4点にまとめられます。それは

  • 一人でも必死に考えること
  • 他人の意見をしっかりと聞く(聴く)こと
  • もっとよい考え方はないか、必死で探ること
  • 多くの人たちと一緒に幸せに生きていくためにはどうすればいいのか、どうすることが正しいことなのか、よいことなのかを探ること

 こういったねらいを達成していくためには、

  • 考える時間が確保されていること(自分の時間)
  • 交流があること(他者との関わりの時間)

が大切なポイントになります。

 どの授業においてもそうですが、授業開きで大事にしたいことは、その教科が「楽しい!」「なんだかワクワクする」「学ぶことに意味があるかも!」と子どもたちが感じることです。どれだけ子どもたちの知的好奇心を引き出せるか、それにかかってきます(知的好奇心については第2講を参照してください)。
 そして、何よりも先生が楽しんで授業をしてくださいね!

第10講のまとめ

  • 道徳の授業開きにミニワーク(アクティビティ)を入れよう。
  • 一人でも必死に考えること、他人の意見をしっかりと聞く(聴く)こと、もっとよい考え方はないか必死で探ること、といったメッセージを伝えよう。
  • 多くの人と幸せに生きることためにどうすればいいか、正しく生きるとはどういうことなのか、それを考えていくのが道徳の授業であることを伝えよう。
  • 先生が授業を楽しもう。

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学大学院教職研究科准教授。NPO法人EN Lab.代表理事。元セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン,アドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)など。

(構成:林)
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