著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
10年後の自分をイメージした生き方を
北海道公立中学校堀 裕嗣
2016/1/25 掲載
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  • 教師力・仕事術
 今回は堀 裕嗣先生に、新刊『教師が20代で身につけたい24のこと』について伺いました。

堀 裕嗣ほり ひろつぐ

1966年北海道湧別町生。北海道教育大学札幌校・岩見沢校修士課程国語教育専修修了。1991年札幌市中学校教員として採用。学生時代,森田茂之氏に師事し文学教育に傾倒。1991年「実践研究水輪」入会。1992年「研究集団ことのは」設立。著書に『よくわかる学校現場の教育原理 教師生活を生き抜く10講』『スペシャリスト直伝! 教師力アップ成功の極意』『国語科授業づくり入門』『必ず成功する「学級開き」魔法の90日間システム』『必ず成功する「学校行事」魔法の30日間システム』『教師力ピラミッド 毎日の仕事を劇的に変える40の鉄則』『堀 裕嗣―エピソードで語る教師力の極意』(以上、明治図書)などがある。

―本書は『20代』『30代』『40代』と続く3冊シリーズの第1弾として、「教師が20代で身につけたいこと」がテーマの書籍となっています。まず、本書のねらい(と読み方)について、教えて下さい。

 教師の力量形成の在り方は、20代・30代・40代でそれぞれ違いがあるものです。世代によって学校での役割に違いが出て来ますから、それは当然のことと言えます。もちろん、個人の特性もありますから、一概に20代はこう、30代はこう……とは言えないところもありますが、最大公約数的にはこういうことが言えるというものはやはりあるものです。本書は僕の経験からこれだけは言えるなという事柄を幾つか取り出して、最大公約数的にまとめた、というのが正直なところです。ただ、日々の忙しさに埋没しがちな先生方がなかなか気付けない、そんな視点を提示できたのではないかという自負はあります。
 この3冊はどれも8章から成りますが、各世代のそれぞれの章には関連性があります。例えば、20代、30代、40代それぞれの第1章同士、それぞれの第2章同士……が関連性をもって発展していく、そういう構成を採っています。3冊すべてが刊行されたときに、それぞれの章ごとに世代を追って読み直してみますと、教師の力量形成の方向性が見えてくる、そんな構成になるよう配慮してあるわけです。

『エピソードで語る教師力の極意』で語られている堀先生の20代は、その読書量・勉強量などなかなか真似出来ない部分もあると思うのですが、堀先生はそれぞれの先生の良いところを伸ばす、「自分らしい教師」でよいとおっしゃっておられます。「教師としての理想像」に悩む若い先生方に、メッセージをお願い致します。

 教師の力量形成の在り方には、「これが絶対!」という決まったものがあるわけではありません。むしろ教師が100人いれば100通りの力量形成の在り方があるというのが本質なのだろうと思います。ただ、若いうちはやはり、中堅・ベテランよりも失敗が許されますから思い切った取り組みが人を伸ばすでしょうし、ベテランに近づいていくに従って自分のことばかりではなく、同僚の若手の先生へのフォローや学校運営への参画が重要な仕事として立ち上がってくるものです。そういう意味では、年齢や経験を重ねるにつれて、教師のメンタリティの在り方が変わっていくわけですね。この3冊のシリーズはそのあたりにも重点的に配慮して書いたつもりです。
 この3冊を参考にしていただきながら、読者の皆さんが自分なりの力量形成の在り方を開発してくれたら……そんな願いをもっています。

―表紙にも「10年後の自分を考える!」と入っていますが、先生は本書の中で「10年後を考える」視点について述べられています。本書でも詳しく紹介されていますが、この点について教えて下さい。

 その年月を進んでいるときには、10年というのはかなり長い時間です。でも、実際に10年が経って振り返ってみるときには、ある種のひとまとまりとして意識されるような時間、ある種のひとまとまりとして意味づけられるような単位でもあります。そうした10年という単位をある目標をもって目的的に積み重ねた場合と、日々の忙しさのなかに埋没しながら無意図的に過ごした場合とでは、取り返しのつかないような差が出てしまうものです。
 日々を目的的に生きるためには、1週間後や、1ヶ月後や、1年後や、そういう近いところをイメージしていてもなかなか大きな成果を上げることはできません。そもそも、1週間なら一つの生徒指導事案にてんてこ舞いということもありますし、1ヵ月では一つの行事に夢中で取り組んでいるうちに過ぎてしまった……なんてこともよくあります。1年間という単位は、たまたま学級がうまく行かなくて悩んでいるうちに過ぎてしまうことさえないことではありません。そう考えていくと、10年くらいを基本単位として、常に10年後を夢見ながら、それもできるだけ具体的にイメージしながら生きて行くと、目的的な力量形成につながるのではないか、僕にはそんな想いがあります。

―本書の大きなテーマの一つに「自分の世界観を疑え」というものがあります。自分の世界観・価値観から踏み出したり、客観的に見ることはなかなか難しいものがありますが、そのような意識はどのように身につけていけばよいでしょうか。

 これも「これが正しい」という王道はないというのが正直なところですが、それでも、現在自分が持っている世界観、自分が正しいと思っている価値観というものは、それが最善であるとは思うべきではありません。現在の世界観よりももっと広い世界観はないか、もっと多様な価値観を内包した高次の価値観はないか、そういう構えをもって子どもたちにも保護者にも仕事にも向き合うと、毎日見えているものがまた違った形をもって目の前に現れてくるものです。いまの自分の世界観に満足するのではなく、もっと広いもの、もっと深いもの、そんな視野・視座を探し求めながら生きて行く、そんな生き方が教師生活を充実させるのだと僕は信じています。
 若いときだけでなく、30になっても40になっても50になっても60になっても、自分を成長の過程として意識する、そんな生き方ができたら幸せなのではないでしょうか。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願い致します。

 もちろん、自分の現在の年齢に合致した本を読むというのも良いですが、できればこのシリーズは3冊セットで目を通してもらって、自分のこれからを想像しながら、自分のこれまでと重ね合わせながら、教師生活をより充実させるために活用していただけたら……そんなことを願って書きました。どうぞよろしくお願い致します。

(構成:及川)

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