教育オピニオン
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「書くこと」×ICTのすゝめ GIGAスクール構想に対応した国語授業
新潟大学附属新潟小学校桑原 浩二
2021/2/1 掲載

 1人1台のタブレット端末の導入により、「書くこと」の学習は今、大きな転換期を迎えています。当校では、全校児童が1人1台のタブレット端末を所有するBYOD(Bring Your Own Device)を数年前に導入しました。当初は、教師も子供も不慣れで、課題がありました。しかし、現在では、様々な学習場面において子供がタブレット端末を駆使し、課題解決を図ることができています。このことから、タブレット端末に期待される学習効果は、非常に大きいといえます。とりわけ、「書くこと」の学習において、タブレット端末の活用を図ることにより、子供の表現の幅を格段に広げることができるのです。

1 1人1台のタブレット端末の導入で「書くこと」はこう変わる


 「原稿用紙に鉛筆で書いてこそ書く力が伸びる」といった考えもあるかと思います。私は、このような考えを否定しているわけではありません。現在受けもつ1年生の学級では、「原稿用紙、鉛筆での手書き」と「タブレット端末での文字入力」との両輪で「書くこと」の学習を進めています。つまり、アナログもデジタルも、どちらにもよさがあり、そのよさの違いを生かして指導していくことが大切なのです。
 では、1人1台のタブレット端末の導入で、「書くこと」の学習は、どのように変わるのでしょうか。これまでの実践から、タブレット端末を活用するよさを次のように考えています。

「書くこと」の学習において1人1台のタブレット端末を活用するよさ


○段落の入れ替え、誤字脱字等の修正などが容易にできる。
→文章を書き直す負担が減るため、よりよく書き表すことにつながる。
○整った文字で表示されることによりどの子も同じ土俵で学習できる。
→文字に不安を抱える子供でも、見やすく読みやすいため、自分の文章に自信がもてる。
○すべての文章を1台のタブレット端末に蓄積することができる。
→タブレット端末のよさは蓄積できる点にある。ファイル等に閉じる手間が省け、散逸しない。
○ローマ字を習得するきっかけになる。
→実生活・実社会に役立つ情報活用能力が向上する。

2 1年生におけるタブレット端末を活用した「書くこと」の実際


 「1年生にタブレット端末での文字入力は難しいのでは?」「平仮名や片仮名の習得が疎かになるのでは?」などと、感じている方もいらっしゃると思います。しかし、実際に使用している子供の姿から、早過ぎることはないと断言できます。入門期の子供がタブレット端末を活用していくために必要なことは、次の2点です。

@タイピングの練習〜平仮名入力からローマ字入力へ〜
 1年生は、1学期に平仮名、2学期に片仮名や漢字を習得します。どの子供も文字を一つひとつ覚える喜びを味わいます。そのような子供にとって、タブレット端末での文字入力は、さらに刺激的な学習になります。まずは、タイピングの練習から始めましょう。タイピングの練習には、タイピングアプリを使うなど様々ありますが、私が普段行っているトレーニングは、以下のとおりです。

○国語授業における3分間タイピングの継続
→国語授業の冒頭3分間を使い、教科書の説明文や物語文をどこまで文字入力できるか競います。
○日記タイピングの継続
手書きの日記を読み返しながらタイピングします。よりよい表現に書き直せるようになります。

 このようなトレーニングを2学期前半から繰り返します。すると、2学期後半には、1回の授業(45分)で、原稿用紙1枚(400字)程度の文章を文字入力できる子供が現れます。中には、家庭でもタイピング練習を行い、ローマ字入力ができる子供も見られるようになりました。子供の吸収というは、大人が思っている以上です。このような子供は、次のような文集作りにもチャレンジできます。

Aタブレット端末を活用した文集作り


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 これは、2学期末に1年生がタブレット端末を活用して書き表した文章です。題材は、「1年間で心に残ったこと」としました。始めに書くために必要な情報を集め、文章の構成を考えた後、原稿用紙に記述しました。次に、タブレット端末を用いて文字入力をしました。このとき、文章を読み返して文字入力をすることで不備に気付き、表現を変えたり加えたりして練り上げていきます。おうちの方からも目を通してもらうことで、さらに整った文章へと仕上がります。このような書き表し方ができる子供であれば、どのような題材においても、自分の思いや考えを書き表すことができるのです。

3 4年生におけるタブレット端末を活用した「書くこと」の実際
〜「東京2020オリンピック丸分かりガイドブック」を作ろう(全8時間)〜


 次に、昨年度に実施した4年生の実践です。本実践では、自分の考えと調べて分かったこととを分かりやすく書き表すことをねらいとし、東京2020オリンピックを家族で楽しむために、「東京2020オリンピック丸分かりガイドブック」を作りました。子供は、オリンピックで行われる全33競技のうち、いずれか一つの競技を担当し、E-REPORTアプリを使用してデジタル新聞に仕上げました。出来上がった全員の新聞を一冊でまとめることで、ガイドブックが完成します。子供は、完成したガイドブックを家庭に持ち帰り、家族とともに読み味わいました。以下のような指導計画で行いました。

<指導計画(全8時間)>


第1次(4時間)
○本単元の言語活動及び新聞の特徴を確認する。
○必要な情報を収集する。
○新聞の構成や割り付けを考える。
○新聞(初稿)を記述する。

第2次(3時間)
○互いの新聞を読み比べ、記事に着目した問いをもつ。
○教材文から課題解決の見通しをもち、新聞(二稿)を記述する。
○新聞(最終稿)を記述する。

第3次(1時間)
○完成したガイドブックを読み、互いのよいところを伝え合う。

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 以上、2つの実践をご紹介しました。タブレット端末を使用すればよいというわけではなく、「書くこと」の学習であれば、自分の思いや考えをよりよく伝えるための一助として1人1台のタブレット端末を活用していくことが求められています。GIGAスクールの導入を目前に、ICTを活用した「書くこと」の学習指導が全国各地でさらに広がりを見せていくことを確信しています。

桑原 浩二くわばら こうじ

1982年新潟県生まれ。新潟大学大学院卒業。修士(教育学)。
県内小学校の勤務を経て、現在は、新潟大学附属新潟小学校教諭。
毎年2月に新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会において授業を公開している。
主な論文等に、「自分の意見を確かなものにし、説得力のある意見文を書くことの指導-再取材・再構成のプロセスを重視して-」(第129回全国大学国語教育学会)、「タブレットのソフトウェアキーボードを日常的に活用している学級への外付けキーボード導入時における実態調査」(日本教育情報学会第36回年会論文集)、「文章化過程を往還させた意見文指導-再取材・再構成のプロセスを重視して-」(国語教育2016年9月号)などがある。
全国大学国語教育学会会員。

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