教育オピニオン
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授業を変えれば子どもが変わる
千葉県千葉市立こてはし台小学校教諭河野 健一
2014/12/12 掲載

 「クラスに気になる子がいる、クラスが少し落ち着かない、そんな時にどうすればよいのか」と、質問をされることがある。
 ・甘えているだけだから、厳しく指導すべきだ。
 ・レクをたくさん行って楽しい活動を多くすればよい。
など、いろいろなアドバイスが考えられる。
 私は迷わず次のようにアドバイスをする。
 「授業を変えること。授業で子どもたちに成功体験をさせること」
 自分の体験を伴った実感である。

1 数年前の2年生のクラス

 数年前に2年生を担任した。
 そのクラスにAさんがいた。2年生の4月の時点で書ける漢字は一、二、三のみで、1年生の時はテスト放棄をしていたという子だ。
 その頃の私は本当に無知だった。例えば、漢字指導。教科書の新出漢字を一気に板書し、「書きなさい」と言う。今思うと信じられないようなことをしていた。
 Aさんは「やだ」と言って机に突っ伏した。なだめても脅しても怒鳴ってもダメである。算数。2桁のたし算の筆算で「やり方を考えなさい」と言った。Aさんは「わからん」と言って机に突っ伏した。また、私は怒鳴ってしまった。もちろん事態は何も改善されなかった。
 そして、自分では気づかないうちに、教室はもちろん、学校のいろいろな所に物を落としていた。普段の生活がそんなであったから周りの子からは小馬鹿にされることが多く、「幼稚園に帰りたい」ということをしばしば口にしていた。
 私の指導と言えば、「落としたらちゃんと拾ってきなさい」と「幼稚園に帰りたいなんて言わないんだよ」と言うだけだった。当然であるが、様子が好転することはなかった。
 もう1人、気になる子がいた。B君。嫌なことがあるとその場で座り込み、全く動かない。びくともしなくなる。最初に座り込んだのは学級がスタートして2日目。鬼ごっこでタッチされた時だった。運動が苦手で、前年度は体育でもよく座り込んでいたらしい。もしくは、どこかに脱走していたということだった。私が担任になってからは、脱走こそなかったが座り込みはしばしばあった。
 こんな雰囲気のクラスだったため全体的に落ち着かなかった。サポートに入ってくださった先生が「大変なクラスだね」とおっしゃっていた。叱り飛ばしても、楽しい活動を入れても、その場しのぎにしかならなかった。

2 成功体験が子どもを変えた

 その年の夏休み、セミナーに参加した。また、たくさんの本を読んだ。そこで得た授業を9月になって追試した。
 例えば、3桁のたし算の筆算である。ノートに筆算を書かせた後、「このように言います」と言って、計算手順を読ませた。
 「234+153は、4+3=7、3+5=8、2+1=3、答え、387です」
 まずは私が唱え、子どもたちに続けて読ませた。変化のある繰り返しで何度も読ませ、1人ずつテストもした。Aさんも言えた。
 そして、練習問題を解かせる場面になった。Aさんは、最初は黒板を写していた。すると、黒板に書かれた筆算を写していたAさんが、突然「あ、わかった!」と声をあげた。
 不遜ながらも「え、本当か?」と思ってしまったが、その声に嘘はなかった。その日、残っていた練習問題を自力で解くことができた。授業の最後の計算ドリルの問題も、すべて自力で解き、正解することができた。
 翌日はくり上がりのある筆算である。前日よりも難しくなっている。しかし、Aさんはこの日の練習問題は最初から自力で解くことができた。それだけではない、なんと一番に練習問題を解き終えて、ノートを持って来た。そして板書したのだ。
 これは単元中ずっと続いた。すると、今までAさんを小馬鹿にしていた男子が「すげえなあ」と言うようになった。この単元テストでAさんは90点以上をとり、クラス平均点も90点を超えた。Aさんは、その後、ノートをきれいに書くようになり、テストの点数も上昇していった。算数だけではない。他の教科にもやる気を見せ出した。めちゃくちゃだった生活態度も激変した。宿題を提出するようになり、物が落ちていることは激減した。そして、「幼稚園に帰りたい」とも言わなくなった。
 B君を変えたのは跳び箱だった。向山式跳び箱指導法で私が跳び箱を跳べるようにした。前年は、跳び箱の時はその場にいなかったというB君。脱走するなんてとんでもない。B君はその日「もう終わりにしよう」と私が声をかけるまで、跳び続けていた。それ以後も、跳び箱の学習の間、脱走の気配すら感じなかった。夢中になって跳んでいた。変化があったのは跳び箱だけではない。跳び箱以外の苦手な運動にも取り組むようになった。いつの間にかB君の座り込みはなくなった。

3 授業を変えれば子どもが変わる

 私が変えたのは授業である。それまでの私はいい加減な授業をやっていたわけではない。前日には授業の流れを考え、ノートにプランを書いたりしていた。プリント等の自作教材も作っていた。しかし、それは所詮、我流の授業。思いつきにすぎないものだったのだ。もちろん、子どもが「楽しい!」と言うこともなかったし、「できた!」と言うこともなかった。そんな授業をいつまでも続けても意味がない。うまくいっていないのだからすっぱりやめることだ。
 それとは逆に、本を読んだり、セミナーに参加したりしてよい授業をひたすら追試していった。これが子どもを変えていったのだ。正しい方向で努力することによってクラスの子どもたちに力をつけることができ、子どもの自尊感情を高めることができたのである。授業を変えれば子どもは必ず変えられる。

河野 健一こうの けんいち

千葉県千葉市立こてはし台小学校教諭

1978年生まれ。NPO法人TOSS千葉子ども教育プロジェクト。千葉向山型算数研究会、法則化サークル千葉Shining代表。

【主な編著書】『クラス平均90点をとる算数授業の原則 低学年』(2010)(明治図書)、『小学校の算数 つまずきのポイントを一日で攻略』(育鵬社)

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