教育オピニオン
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「教師のイロハ」の学び方
京都府文化政策課越智敏洋
2014/9/16 掲載

1 「教師のイロハ」がわからない

 遊び倒した学生時代。先生になりたくて入った教育大だったが、学ぶ間もなく終わってしまった。
 それでも4月はやって来て、4年生担任となった。「先生、先生」と子どもたちは寄ってくる。しかし、私には先生になったという自覚がなかった。大学生の延長で先生をやっていた。見かねた先輩先生が1つ1つ教えてくださった。

 子どもを呼び捨てにしない。
 どんなに急いでいても廊下は走らず、歩くようにする。
 すぐに使えるように鉛筆は削っておく。

 まるで子どもに教える内容だ。私はこんな当たり前のことができていなかった。教師としての技術はもっとなかった。

 クラス全員がノートに書いているかチェックする。
 子どもには常に笑顔で接する。
 教科書は先生が読み聞かせてから子どもに読ませる。

 これらは教師のイロハの一部だ。このようなところから丁寧に指導してもらい、何とかはじめの1年を過ごすことができた。

2 「わかる」と「できる」はまったく違う

 教師のイロハがおぼろげながらわかってきた2年目。憧れの先輩ができた。佐藤正孝氏だ。「いちばん星」という学級通信を出されていて、その内容はすばらしかった。あるとき、宿題で、子どもたちから100点の漢字ノートばかりが出てきた。そのとき、次のようなコメントを書かれている。

 先生は、みんなに100点ばっかりのこぎれいなノートを出してほしいなんて思っていません。むしろ、×がたくさんあってそれを1つ1つクリアーしているような、そんなノートがいちばん美しいノートだと思います。いつも言っているように、間違いの数だけパワーアップのチャンスがあるのです。

 私の学級通信は、「○月○日漢字テストをします」といった連絡のみだった。読んでうれしい学級通信がどちらかは歴然としていた。しかし、私にはこのような学級通信は書けなかった。子どもたちを見とる技量もなく、量と質両面から材料を集めることができなかったのだ。頭ではわかっていてもしんどくてできなかった。
 そんな折、佐藤氏たちが本屋に連れて行ってくださった。紹介してくださった本は、『授業の腕をあげる法則』(向山洋一著、明治図書)だった。まだこのときは、一読して「なるほどな」程度で本棚にしまっていた。

3 授業の腕をあげる熱中期

 TOSSのサークルを紹介してもらった。しかし、「休みの日にまで勉強するのは嫌だ」と考え、1年ほどは行かなかった。
 しかしあるとき、暇つぶしのつもりで参加した。驚きだった。授業がうまいのだ。それも1人ではなく全員がうまいのだ。立ち居振る舞いだけでも全然違っていた。体がふらふらしない。「えー」「あのー」のような口癖がない。笑顔で私のことを見てくれている。授業まで一気に持っていく。私はすぐに虜になった。
 それから様々なサークルに参加し、模擬授業をさせてもらうようになった。中でも、TOSSアチャラの井上好文氏のサークルへは数多く通った。私の模擬授業が始まると5秒もしないうちにストップがかかる。背中に汗が浮き出て、来なきゃよかったと弱気な思いが頭をよぎる。「疲れている? 背中が丸まっているよ。先生は、どんなときでも子どもの前に立ったらかっこよくないと」とアドバイスをいただく。
 指導を受け、その通りにやってみる。姿勢が変わると言葉も変わるのだ。不思議だった。自覚できるほど授業がスッとできる。これが快感になって、毎週末のようにセミナーに出かけるようになった。
 100人近い先生方の前で模擬授業をすることもあった。今までの私だったら絶対にやらないことだった。しかし、それをすることで教室の子どもたちに提供できる授業がぐんぐんと変わっていくのを感じていた。野球やサッカー、剣道や茶道、囲碁や将棋などと同じように、1つのことにある期間熱中すると上達する、と教えてもらった。まさにその通りだということを体感した。

4 「教師のイロハ」のお返し

 佐藤正孝氏から名前をいただき、「TOSSいちばん星」というサークルを行っている。9年目となった。サークルに来られる方は必ず何か悩みをもっている。日々の授業に困っている、学級経営が難しい、もっと授業がうまくなりたい、など人それぞれだが、教師であればだれもが一度は悩むことばかりだ。はじめての方は暗い顔や不安な顔で席に着く。しかし、サークル員の表情は明るい。それは、毎回楽しく学べることがわかっているからだ。
 例えば、「学級通信」のレポートについて検討すると、次のようなコメントがいただける。

 「たくさんの人が発表しました」と書くよりも、「A君とBさんとCさんが発表しました」と名前を入れて書く。そうすると、「その中でもBさんの発表には驚きました。背筋をまっすぐに伸ばして話していたからです。緊張すると背中が丸まってしまいますが、Bさんは堂々としていました」などと後につなげられる。

 具体的なコメントだ。
 また、模擬授業もある。スムースな音読のさせ方。立ち歩く児童への対応。授業を組み立てる順序。次から次にコメントが出される。サークルが終了して、参加された先生に感想をうかがう。はじめて参加された方がおっしゃるのは「勉強になりました」だけではない。「元気をもらいました」とおっしゃる方が最も多い。聞きたくても聞けなかったこと、知りたくてもわからなかったことを学べる場では、元気をもらえるのだ。

 2学期が本格的にスタートした。
 教師としてのレベルアップを目指して、本を読んだりサークルに出かけたりして「教師のイロハ」を見直してみるのもよいのではないだろうか。

越智 敏洋おち としひろ

京都府文化政策課勤務

1978年東京都生まれ。2011年3月京都教育大学教職大学院授業力高度化コース修了。現在、京都府文化政策課勤務。TOSS関西中央事務局、TOSSいちばん星代表。

【主な編著書】『『学校のお仕事・毎日すること365日大全 1.校務知識を味方に!教師習慣のツボ』(2014)、『同2.学級経営・授業づくりが上手くいく教室習慣のツボ』(2014)、『同3.モノの言い方・伝え方―チクチク語・スマイル語使い分け辞典』(2014)(以上、明治図書)

コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2015/1/18 15:13:21
    教師のイロハ。とても大切ですね。
    剣道やピアノと同じですね。修業して上達していくこと。たったそれだけ。
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