- 教育オピニオン
多くの新人教師は、教育現場でさまざまな困難に遭遇し、理想としていた授業を展開することができず、「リアリティ・ショック」を受けるといわれています。リアリティ・ショックとは、夢に描いていた教育現場と現実のそれとのギャップの大きさから受ける衝撃のことです。しかしながら、新人教師はそのようなネガティブな体験だけをするのではありません。リアリティ・ショックを克服し、力量を備え、大きく成長していく者が多数存在していることもまた、たのもしい事実なのです。
ただ最近では、「職員室はどうやら新人も、中堅も、年配も思いや悩みをなかなか打ち明けられない場所になっている」ということが指摘されており、新人教師が同僚の教師にアドバイスをもらえる機会が減ってきていることも事実のようです。このような状況をふまえると、新人教師がさまざまな困難を克服して力量を高めることができるような提言をすることは、緊要な実践的課題であるといっても過言ではないでしょう。
そこで、わずかではありますが、新人教師の教師力アップのヒントをご紹介することとします。
1 ひとりよがりの授業にしないためにも、まずは子どもの状況を把握しよう!
授業中、目の前の子どもの状況を把握して、それに適した教授行為(子どもに対する教師の多様な働きかけ)を即時に生み出すことはとても重要なことです。そのため教師には、次のような鑑識力が要求されます。
- どこまで子どもの技能が定着したかを瞬間的に判断する能力
- 子どもが活動に対して心を開き没頭しているか否かを見きわめる能力
- A児とB児の意見を瞬時に関連づける等、授業に現れるさまざまな事象をつなぐ能力
この他にも多様な鑑識力が要求されますが、このような能力を身につけるためには、授業において刻々と変化する子どもの瞬間的な状況を一つたりとも見逃すまいとする姿勢が重要となります。すなわち、授業を進めながらも子どもの状況の細部までを捉えられるような、いわば観察者としての授業者になれるような訓練を積むことが大切でしょう。この前提として、子ども全員の能力、興味・関心の対象など、多くの情報を事前に把握しておくことも重要です。
2 「困難」を「成長のためのレッスン」と捉えよう!
先にも述べたように、リアリティ・ショックを経験しても、それを乗り越えようと試行錯誤し、何らかの気づきを得て自らを成長させる新人教師は多数存在します。このような若者たちの姿を目のあたりにする時、遭遇する「困難」の正体は、実は「困難」などではなく、「成長のための大切なレッスン」であると確信できるのです。私の知っている伸びる新人教師の共通点は、たとえ「困難」に遭遇しようとも、それを「大切なレッスン」に変換し乗り越えようとする若さゆえのたくましさを感じさせることです。
すなわち、教師力アップの成否は、「困難」を「大切なレッスン」に変換して考えられるような、プラス思考を伴った精神状態が鍵を握っているといえるのです。
今回は字数の制約上、以上の2点しか提言できませんでしたが、他にももっと知ってみたいという方は拙著をご参照ください。
引用・参考文献
・高見仁志「新人教師は熟練教師の音楽科授業の『何』を観ているのか ─小学校教員養成への提言─」『音楽教育実践ジャーナル』Vol.5 No.2 pp.63-72. 2008.
・村山士郎・氏岡真弓『失敗だらけの新人教師』大月書店. 2005.
・藤岡信勝「教材を見直す」『岩波講座 教育の方法3 子どもと授業』岩波書店. 1987.