教育オピニオン
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スマートフォン時代の「子どもとケータイ」
千葉大学教育学部教授藤川 大祐
2012/4/20 掲載

 2005年頃から、「子どもとケータイ」にかかわって、ネット上のいじめ、「出会い系サイト」等を介した児童買春等の事件、ケータイ依存等の問題が生じてきた。学校では情報モラル教育の充実がはかられ、業界ではフィルタリング(有害情報にアクセスさせないしくみ)の普及やサイトパトロールの充実が進められ、おおむね必要な対策はそろってきたと言える。

 だが、昨年(2011年)あたりから、状況が大きく変わりつつある。スマートフォンを利用する子どもが、急増しているのである。
 スマートフォンとは、言わば超小型のパソコンに通話機能をつけた端末である。パソコンと同様にさまざまなアプリケーション・ソフト(アプリ)を使い、利用者が多様な機能を自由に利用することができる。メール、サイト閲覧はもちろん、スケジュール管理、文書の作成や閲覧、写真や動画の撮影・視聴・公開、映像編集、各種ゲーム、音楽再生、音声録音、作曲、ナビゲーション等、できることを挙げればきりがない。
 このスマートフォンを持つ子どもが増えている。各種調査を見ると、2012年春現在、中高生の携帯電話利用者の3割程度はスマートフォンを使っていて、今後も利用率が上昇していくことが予想される。
 スマートフォンが売れているのは、機能が選択されているというよりは(見た目の)価格が安いことが大きな要因と考えられる。最新のスマートフォンは「実質0円」などと表示され、初期費用なしに購入可能であり、月額費用にも「学割」が適用されたりする。各社の主力商品がスマートフォンとなっていることもあり、新しい携帯電話を買うならスマートフォンになりがちだ。
 だが、スマートフォンに関しては、青少年保護のしくみが整備途上である。
 従来型の携帯電話は、商品開発から販売までを携帯電話会社が中心となって行っていたので、携帯電話会社を中心とした青少年保護策を進めやすかった。携帯電話会社がフィルタリング機能を提供すれば、どの端末でも問題なくフィルタリングを使うことができた。
 しかし、スマートフォンには、携帯電話会社だけでなく、端末メーカー、基本ソフト事業者、アプリ事業者等が国境を越えて関わっており、携帯電話会社を中心とした青少年保護策を進めることが難しい。次のような問題が生じている。

・携帯電話回線にフィルタリングをかけても、無線LAN接続時にフィルタリングが機能しない。
・利用者が自分で入れたアプリを使う場合には、フィルタリングが機能しないことがある。
・携帯電話回線のフィルタリング、端末側でのフィルタリング、アプリの利用制限等が別々に提供されており、利用者側で一括した管理が難しい。
・無数に提供されているアプリの中には、電話番号やメールアドレス等の個人情報を端末から利用者に無断で抜き出すものがあることが指摘されているが、抜本的な対策が難しい。

 民間の団体である安心ネットづくり促進協議会は、スマートフォン作業部会(主査:藤川)を設置し、関連の事業者、市民、保護者等が一同に会して、スマートフォンをめぐる状況の共有につとめ、事業者が連携して自主的に問題の解決につとめることを促している。今年度の早い時期に、報告書を公表する予定なので注目してほしい。
 
 これまでは子どもたちに新しいメディアが普及すると、教育現場では後追いで対策を進めざるをえなかった。しかし、本来は新しいサービスが提供される際には、青少年保護も視野に入れた提供がなされるべきである(「青少年保護・バイ・デザイン」という考え方)。日本だけでなく世界の産業界でこの考え方が常識となるよう、私たちは教育の立場から働きかけていく必要がある。

藤川 大祐ふじかわ だいすけ

千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)
1965年、東京生まれ。2001年より千葉大学勤務、2010年より現職。メディアリテラシー、数学、ディベート、キャリア教育等、さまざまな教科・領域の授業づくりに取り組む。文部科学省「ネット安全安心全国推進会議」委員、安心ネットづくり促進協議会スマートフォン作業部会主査、NHK「メディアのめ」番組委員等をつとめる。
著書『学校・家庭でできるメディアリテラシー教育』(金子書房)、『ケータイ世界の子どもたち』(講談社現代新書)他。
ホームページ藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

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