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一 自分の考えを明確にする指導を
説得力のある表現法を指導する重点の一つは、相手(聞き手や読み手)に伝えるべき考えを明確にさせることである。そのためには、次のような点に留意して指導をしたい。
1 疑問や問題意識を喚起しよう
スピーチやディベート、意見文や批評文などの言語表現活動において、まずは、何についてどのような考えを伝えたいかを明らかにさせたい。そのためには、学習者一人ひとりに潜在している意識に働きかけることから始める。「現在、どんな事柄や事件に関心があるか」「今、友達や大人に何を言いたいか」「不思議に感じていることは何か」等々について問いかけるのである。これは、話題や課題の設定や取材の選択力へと連動していく。
2 主題文を短くまとめさせよう
自分が最も伝えたいことを短くまとめさせる。これまでも多く実践されているが、スピーチや意見文の主題や要旨をまずは一文か二文で簡潔にメモさせるのがよい。これがないと、話したり書いたりしていく過程で焦点がぼけたり、拡散したりすることがある。中心文(キーセンテンス)をいくつかメモさせておいてまとめるのである。小学生であれば、「私がいちばん伝えたいことは、○○○です。」という一文を提示して、○○○に自分の考えを入れさせてみる。中学生であれば、「私の主張は、○○○ということです。」という方法でもよい。
3 発想や連想の訓練を重ねよう
自分の考えを明確にするためには、様々な発想や連想の訓練が必要である。特に、説得力のある表現法を身につけさせるためには、繰り返し指導をすることが大切となる。「電車やバスの優先席は必要でない」という考えを主張する場合でも、優先席が設けられた背景や自分の経験や友達の考えなど、様々な発想や連想などを取り入れて指導していきたい。論題に対する多様な価値にも気づかせることが大切である。
二 考えを支える理由を挙げる指導を
自分の考えを明確にすることができたら、その考えを支える理由を挙げなければ、説得力のある表現とはならない。そのためには、次のようなことに重点をおいて指導したい。
1 なぜならばと考えさせよう
前述した「電車やバスの優先席は必要でない」という論題でディベートをしたり、意見文を書いたりする場合、その理由を挙げさせる。例えば、肯定(賛成)の立場であれば、「お年寄りや体の不自由な人たちに席を譲るのは当然のマナーであるから」といった理由を挙げる。否定(反対)の立場であれば、「弱い立場の人たちの席を確保しておくのは当然のルールであるから」といった理由を考える。
2 違う考え方の理由も挙げさせよう
説得力のある表現を身につけさせるためには、自分の考えを支える理由だけではなく、違う考え方や異った意見の理由も考えさせることが大切である。これは、恣意的で片寄った考え方を避けるためでもある。一つの論題や課題に対して多様なものの見方や考え方があることを理解していくことにもなる。右の「優先席」についても、賛成と反対の理由を挙げて考えさせるのである。この理由については、ペアやグループを活用して様々な観点から話し合わせると有効である。
三 考えを支える事例を挙げる指導を
自分の考えを支える理由を説得力のある表現にするためには、具体的な事例や経験などを明示する必要がある。そのためには、次のようなことに重点をおいて指導したい。
1 具体的な数値を挙げさせよう
前述の「優先席」の場合、新聞や雑誌、インターネット、アンケートやインタビューなどの多様な方法によって事例を収集することができる。そして、「優先席があっても座らないという人が七〇パーセントいる」「優先席には座らないというお年寄りも六〇パーセントいる」「優先席があったほうがよいという人が六〇パーセントを越えている」「優先席があれば若い人たちは座りにくい」などといったアンケート結果を挙げて示すのである。具体的な数値を事例として明示することで説得力は増す。
2 たとえばと考えさせよう
自分が見聞したり、経験したりしたことを、たとえばという用語を使って考えさせることである。「優先席」に関する事例は、新聞の投書欄などにもよく掲載されている。また、通学途中の経験や友達の話や校外学習の折りなどにも児童・生徒は「優先席」にまつわる経験をしている。したがって、この前電車の中でこのような光景を目にした、お年寄りの方が優先席に座るように導かれていたなど「たとえば」といった事例を具体的に挙げて表現できるように指導することである。
以上、説得力のある表現を指導する際の重点について、自分の考えを明確にさせること、考えを支える理由を挙げさせること、考えを支える事例を挙げさせることの三点を強調した。この指導とともに、価値ある情報や資料などを効果的に引用すること、目的や相手を考えた明確で論理的な展開法を工夫すること、適切な接続語を使い段落相互の関連を考えること、文末表現(推定か断定か)を工夫すること、表現内容にふさわしい語句や文を効果的に使うことなども手堅く身につけさせたい。この指導については、拙稿「説得力のある表現のために―資料の引用法と明確な展開法と根拠の示し方を―」(本誌『実践国語研究』二〇一一年一二―一月号・bR04・pp.7―8)を参照いただければ幸いである。説得力のある表現法の知識・技能の活用を図りたい。
実践国語研究6-7月号より転載