事例で学ぶ!授業で行う「合理的配慮」の実際
クラスに苦手さのある子がいたら…どんな配慮・支援ができるのか? 事例に学び、明日からできる工夫のすべて
事例で学ぶ!授業で行う「合理的配慮」の実際(10)
短期記憶が苦手で、こだわりがある高等学校生徒の合理的配慮
国立特別支援教育総合研究所インクルーシブ教育システム推進センター
2018/1/18 掲載
  • 「合理的配慮」の実際
  • 特別支援教育

今回紹介する事例

インクル先生

 Jさんは、アスペルガー症候群の診断を受け、学習面や集団生活に困難さを示す高等学校1年生の生徒です。この事例は短期記憶が苦手で、こだわりがあることから学習上の困難さがあるJさんに、可能な限り見通しをもたせて活動に参加できるようにしたり、適宜、円滑な対人関係を形成できるよう丁寧に教えたりすることで、高等学校の学習活動に参加できるように支援しているものです。

Jさんについて

Jさん

 Jさんは、学習面において書くことが困難で、板書をノートに写す事に苦手意識があります。また、こだわりの強さから、自分の思い通りの結果にならないとパニックになる事もあります。絵を描くことが好きで、強い思い入れがありますが、興味・関心のない学習の際には、授業に集中する事ができずに、絵を描いていることもあります。
 生活面では、コミュニケーションが苦手なため、友達との関わりが難しく孤立している様子も見られます。特に、行事などへの参加は難しい面があります。

生徒の特性に対応した合理的配慮の実際

 学校では、Jさんに、下記のような取り組みを行いました。

1 忘れ物をしないための配慮

 Jさんは教員の指示や説明を聞き取って覚えることが苦手なため、学級担任が全体に対する指示の後に、個別に指示内容をメモに書いて渡しています。例えば、「○曜日に○○を提出する。」などと具体的に表記したメモを渡すことで、Jさんが視覚的に確認し、忘れ物が減るような配慮をしています。

イラスト

2 見通しがもてるための配慮

 週に1度、その週の学校での活動内容や提出物に関する内容を記した学級通信を作成し全生徒に配付しています。学級通信を配付し、Jさんの家族もその内容を読むことで、協力を得ることができました。

3 授業や行事等に関する配慮

 Jさんは、興味のない授業の際には他のことを考えて集中できない様子が見られるため、全体への指示や説明の後に、再度、個別に具体的な指示や説明を行うように配慮しています。

4 書くことの困難さに対する配慮

 Jさんは、国語の時間に板書された内容をノートに写すことに時間を要し、内容の理解まで至りません。そのため、学級担任は授業内容をプリントにして渡し、ポイントだけをノートに書かせるように配慮しています。書く量の調整によって、授業内容の理解が進むようになりました。
 数学の学習では、問題の量の調整ではなく書く時間を長めに設定し、書き取れるように時間の調整を行っています。

5 安心して学習できるようにするための配慮

 家庭科の調理実習では、Jさんの安全面での配慮のため、家庭科の教科担任の指導だけでなく、学級担任が支援者として授業に入り適宜サポートをしています。学級担任がいることで、Jさんも落ち着いて実習に取り組むことができています。

まとめ

 高等学校での学習活動は、教科担任制のため、教員が時間毎に替わったり、教室を移動して学習する機会が多かったりするため、発達障害のある生徒にとって見通しがもちにくく、状況の変化が多いことから落ち着かない環境になりがちです。生徒が安心して充実した学校生活を送るためには、学校の全ての教員が、生徒の実態を把握し、どのような場面に困難さがあるのか、どういう配慮が必要なのかを理解をする必要があります。また、教員のみならず、他の生徒も発達障害のある生徒の障害特性を理解したり、関わり方について知っていたりすることが重要です。
 そのため、進路や社会参加に向けた人格形成など、青年期における課題を踏まえ、全校的な協力体制を築き、生徒に必要な支援や環境の調整を行うことが大切です。こうした、十分な支援ができる体制の構築には、特別支援教育体制の整備や管理職のリーダーシップが必要です。

 インクル先生

 参考になりましたでしょうか?
 本コーナーでは、インクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)の事例を紹介しています。
 もっと詳しく知りたい先生は、さらに詳しい情報をファイル名のH26 0176HS1-Auで検索する事でダウンロードできます。→実践事例データベース

国立特別支援教育総合研究所インクルーシブ教育システム推進センターこくりつとくべつしえんきょういくそうごうけんきゅうしょいんくるーしぶきょういくしすてむすいしんせんたー

平成28年4月地域や学校現場におけるインクルーシブ教育システムの構築を強力に支援することを目的に特別支援教育総合研究所内に開設された。インクルーシブ教育システム推進センターが中心となり、「教育委員会や学校が直面する課題の解決に資する研究」、「国内外の最新情報の発信」、「地域や学校に役立つ情報提供や支援」に取り組んでいる。
国立特別支援教育総合研究所
インクルーシブ教育システム推進センター

好評シリーズ
コメントの受付は終了しました。