事例で学ぶ!授業で行う「合理的配慮」の実際
クラスに苦手さのある子がいたら…どんな配慮・支援ができるのか? 事例に学び、明日からできる工夫のすべて
事例で学ぶ!授業で行う「合理的配慮」の実際(5)
感情をコントロールすることが苦手な中学生への合理的配慮
国立特別支援教育総合研究所インクルーシブ教育システム推進センター
2017/8/18 掲載
  • 「合理的配慮」の実際
  • 特別支援教育

今回紹介する事例

インクル先生

 今回、紹介する事例は、自分で感情をコントロールすることが苦手で、授業中にパニックになったり、気持ちの切り替えが難しかったりする中学2年生のEさんの事例です。Eさんは、集会や行事などの集団活動の時にパニックを起こすことがあります。そこで、Eさんがクールダウンできる場所を校内に複数設けたり、急な予定変更を避ける工夫をしたり、解決策を自己決定させたりする実践を行いました。その結果、Eさんは自分で感情をコントロールすることができるようになり、パニックになる回数も減ってきました。

Eさんについて

Eさん

 Eさんは、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)の可能性が指摘されている中学校2年生です。専門機関からは、年齢相応の発達であるものの、言語理解に対して情報を関連付けて理解したり、全体をまとめて推測したりすることが苦手であると言われています。学力は高いのですが、興味のあることとないことがはっきりしており、気に入らないことがあると大声を出したり、泣いたりして離席することがあります。また、感情をコントロールできない自分自身にイライラしている様子も見られます。

子どもの特性に対応した合理的配慮の実際

 学校では、Eさんに、下記のような取り組みを行いました。

1 Eさんの気持ちを理解し、見通しを持たせる

 授業中、些細なことでもパニックになったり、イライラしたりしますが、そこにはEさんなりの理由があるので、まずは、Eさんの訴えを聞いて気持ちを落ち着かせてから状況を説明したり、その後の見通しを持たせたりするようにしています。

イラスト

2 クールダウンできる場所を設ける

 校内に、Eさんがクールダウンできる場所を複数設けるようにしました。例えば、相談室や学習室、会議室です。Eさんの状況に応じて、部屋を選択して使用しています。また、Eさんがクールダウンすることが必要なことを、全教職員で共通理解しています。

3 急な予定変更を避ける

 担任から予定の変更が明らかになった時点でEさんに丁寧に説明し、直前での変更とならないように配慮しています。また同時に、担任からEさんに対して、予定は変更の可能性があることも伝えます。

4 自己決定させる

 Eさんがパニックになったりイライラしたりしたときに、一方的に指示を出しても聞き入れることができないので、ある程度、気持ちが落ち着いた段階で、Eさんが「どうしたいのか」「できる事は何か」など、本人に聞き、自分で決めたことはやり通すように約束をするようにしています。

まとめ

 感情のコントロールが難しく、パニックを起こしてしまう生徒に対しては、環境調整と本人への教育的な働きかけの両方が重要となります。この事例では、(1)各教科担任がクールダウンの時間を持たせ、(2)他の教職員もその必要性を理解しています。また、パニックを回避したり落ち着かせたりするための個別の配慮をする一方で、守るべきルールや行わなければならない事を、確実に理解できるように指導しています。このような合理的配慮を提供することで、生徒が自分のイライラに気づいてクールダウンを自己申請したり、生徒が見通しを持ち、パニックに至ったりすることが少なくなっています。
 このように、インクルーシブ教育システムでは、全教員が意思疎通しながら、学校全体で指導方針を共有することが重要となります。

 インクル先生

 参考になりましたでしょうか?
 本コーナーでは、インクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)の事例を紹介しています。
 もっと詳しく知りたい先生は、さらに詳しい情報をファイル名のH26 0263JC2-Auで検索する事でダウンロードできます。→実践事例データベース

国立特別支援教育総合研究所インクルーシブ教育システム推進センターこくりつとくべつしえんきょういくそうごうけんきゅうしょいんくるーしぶきょういくしすてむすいしんせんたー

平成28年4月地域や学校現場におけるインクルーシブ教育システムの構築を強力に支援することを目的に特別支援教育総合研究所内に開設された。インクルーシブ教育システム推進センターが中心となり、「教育委員会や学校が直面する課題の解決に資する研究」、「国内外の最新情報の発信」、「地域や学校に役立つ情報提供や支援」に取り組んでいる。
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インクルーシブ教育システム推進センター

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