先日、文部科学省が次の学習指導要領改訂に向け,「教育課程企画特別部会 論点整理」を公表しました。高校での新科目「公共」の設定や、英語教育を小学校3年生から開始することなどが話題になっています。ゆとり教育からの転換を図った2010年度の改訂から、今回の改訂では児童生徒が「主体的に学ぶ」という学習方法の方針が示されました。知識を詰め込むだけでなく、自ら学ぶ力、そして主体的に社会で生きる力を育む方向性を文部科学省が示したと言えるでしょう。今後、「主体的に生きる」という言葉をテーマの一つに議論がなされていくと思われます。
さて、ここでご紹介するのは,この夏新潟県十日町市にできました「主体的に」得意なことを発見するための「学校」です。
大地の芸術祭の取り組み
今、新潟県の越後妻有を舞台に大地の芸術祭が開かれています。この大地の芸術祭とは2000年から3年に一度のペースで開かれ、今年6回目を迎えるアートイベントで、自然の中にアート作品を点在させ、アートを道しるべに里山をめぐるコンセプトが高く評価されています。この中の廃校プロジェクトでは、学校を単なる建物と見なさず、地域コミュニティの精神的灯台として捉え、廃校になった後もアート作品やホテル等に変える取り組みをしています。絵本作家の田島征三氏が旧真田小学校の校舎にたくさんのオブジェを設置し、アーティスティックな空間を作り出した「絵本と木の実の美術館」はその代表的な例と言えるでしょう。
2015年 奴奈川キャンパスの開校
この廃校プロジェクトの一環として、2015年に新たに公開されたのが奴奈川キャンパスです。2014年3月に廃校となった奴奈川小学校の校舎を活用し、美術館のように美術品を展示するだけでなく、農業をベースに美術や体育、音楽といった授業が行われる施設に生まれ変わらせたのです。
奴奈川キャンパスの中や周りには、学校や越後妻有をテーマにしたアート作品が設置されています。校舎横にたたずむ不思議な塔は2階から見下ろすことで奴奈川小学校の校章から作られたオブジェと分かります。
理科室のようになった教室には、くもりガラスを張られた棚の中に実験器具が置かれ、子どものころ取り組んだ実験や授業を思い起こさせます。黒板の向こうにもつけられた曇りガラスの向こうに、うっすらと「レミニッセンス おぼろげな記憶」と作品名が書かれているのが見えます。
一人ひとりの得意を掘り起こす学校
他にも魅力的なアート作品がありますが、この場所を特別なものとするもう一つの特徴は、ここが「学校」であり、授業が行われるということです。大地の芸術祭の総合ディレクターである北川フラム氏を総合チューターに、他にも多数の専門家が美術、家庭科、音楽、体育、ダンスといった科目を担当しワークショップ形式の授業を開講されました。ワークショップとは体験的活動を通して参加者自身が主体的に学習していく講習や授業の仕方です。体験を通し、児童生徒が主体的に学習することを目指すこれからの教育と重なる部分があるのではないでしょうか。
少し具体的なワークショップをあげてみましょう。
- 美術
大地の芸術祭らしく、アート関係の授業は大変豊富です。3Dプリンタを使って生活用品や道具をカスタマイズしたり、アニメーションを作ったり、デジタルカメラの撮影技術を磨いたりと様々な授業が用意されています。 - 家庭科×音楽
「おいしいものは人類の奇跡だ!」をモットーに活動されるミュージシャンDJみそしるとMCごはんさんが料理と音楽をコラボレーションし、ライブを行います。 - 体育
なでしこJAPANのOGチーム、なでしこレジェンドとともにサッカーを楽しむサッカー教室です。 - ダンス
ユニークなコンテンポラリーダンスで有名な珍しいキノコ舞踊団さんが、ワークショップとパフォーマンスを行います。珍しいキノコ舞踊団さんたちは、ワークショップ以外でも奴奈川キャンパス内でダンスパフォーマンスを公開していらっしゃり、十日町の棚田をモチーフに作られた「タナダンス」は必見です。
上に挙げたワークショップは全て体験的な授業であり、また主要5教科と呼ばれる国数英理社以外の科目をテーマに行われています。奴奈川キャンパスは学校教育法上に定められた学校ではありません。しかし、生徒が主体的に学ぶ、体験的に授業を行うという考えを奴奈川キャンパスは示しているように思えます。
※大地の芸術祭は9月13日まで。
- 大地の芸術祭の里公式HP
http://www.echigo-tsumari.jp/ - 奴奈川キャンパス公式HP
http://www.nunagawa.jp/
文章間違っています。
執筆者の浜田です。
誤った情報を記載してしまい,誠に申し訳ございませんでした。
修正をさせていただきます。
ご指摘誠にありがとうございました。