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運動習慣改善で体力向上をめざす―全国各地の取組
教育zine編集部城野
2013/4/30 掲載

 16日、文部科学省は、平成24年度 全国体力・運動能力,運動習慣等調査の結果を公表しました。これは、近年体力が低下傾向にある小中学生を対象に、その実態の把握のため、平成21年度より実施されているものです。

運動する・しないの二極化が進む傾向

 同調査開始以来、運動する・しないの二極化が進んでいることが明らかとなり、とくに女子においてはその傾向が顕著です。平成24年度の結果では、小学校女子の23パーセント・中学校女子の30パーセントが1週間の総運動時間が60分未満であること答えました。こうした児童生徒は、運動部や地域のスポーツクラブに所属していないことが特徴です。総運動時間と同調査における体力総合得点には明らかな相関関係があり、総運動時間が短い児童生徒ほど、体力総合得点も低いという結果が出ています。つまり、運動する・しないの二極化が進んでいるということは、同時に、体力総合得点にも二極化の傾向があるといえるのです。

 こうした現状が進むことによって、生活習慣病の増加や、ストレスによる抵抗力の低下など、様々なトラブルの増加に繋がることが懸念され、二極化の現状を本来の正規分布に戻すことが目下の課題です。まずは運動を習慣づけ、運動への学習意欲を高める必要があります。具体的には,児童生徒の体力合計点の水準を、過去の数値でもっとも高かった昭和60年時の水準に2020年までに回復することが目標です。 

 この四年間で、全国の小中学校では体力回復に向けた取組が実践されています。保健体育の授業で意識を高めるもの、学校や地域で連携をとって行うもの、家庭でもできる運動を実践するものなど、取組内容やその規模は地域・学校によって異なります。いずれの取組でもここ数年で少しずつ効果が出ており、運動習慣・体力の向上に繋がった例も少なくありません。では、そのうちのいくつかをご紹介しましょう。

伝統文化に触れ・動く

 北海道滝川市江部乙中学校では、新学習指導要領で必修化となったダンスの授業を通し、運動への意識付けをはかる取組を実践しました。ダンスといっても激しい動きのものではなく、それとは対極の日本舞踊の動きを取り入れました。運動の苦手な生徒でも抵抗感が少なく、実践しやすいことが結果に繋がった一因と言えるでしょう。日本舞踊の指導においては地域の学校支援事業を活用し、地域・学校が一体となった取組でもあります。1つ1つの動きの意味を理解することは、伝統文化に触れることにも繋がります。

 この取組の前には、女子の50パーセントが1週間の運動総時間が60分未満だった同校では、38パーセントに減少。体力総合得点も7.7点向上し、結果として体力の向上を図ることにも繋がっています。この学校の日本舞踊の授業は、第一学年のダンスの時間に取り入れられました。運動の機会の少ない生徒に、まずは学習意欲を高められる環境を整え、自ら進んで運動に取り組むことを習慣づけていくことが、第一段階として大切なことだと感じます。

学校・家庭・地域で連携して

 島根県では、地域と連携した支援事業として、県全体で小学生の体力向上に向けた取組を行っています。学校単位ではなく、県全体での大きな枠組みで1つのプロジェクトを動かしていることが特徴的です。

 まず、取組の1つに「スポーツ教室の開講」が挙げられます。地域の体育館を放課後や休日に開放し、月に4回程度実施しました。マット運動やスポンジテニス、卓球やバトミントン、サッカー、バスケットボールなど。内容は実に様々です。地域の特色を活かし、夏休みにはヨット・カヌーなどの海洋性スポーツ教室も開講しました。これらのスポーツ教室の指導には,地域のスポーツ事業団体の協力を得て、それぞれの専門分野の人を講師に招いています。様々なジャンルのスポーツを体験できるだけでなく、地域単位の取組であることから、自分の通う学校以外の児童とも触れあえるという利点もあります。

 また、島根県の取組には、もうひとつ大きな企画がありました。それは、ICカードを導入した「しまねっ子元気アップマラソン」の実施です。このICカードは、児童一人一人に配布し、運動実績・走行距離に応じてポイントを入力することができます。個人一人ひとりが家の周りにマラソンコースを設定し、大会期間中に走行した距離の分、ポイントが加算されるという仕組みです。大会実施期間1カ月の間に3回、HP上で途中経過を集計し、順位を発表しました。学年・学校を超えたランキングに児童のやる気も向上し、意欲的に取り組むことができました。

 H21より開始した体力向上に向けたこのプロジェクトは、年々規模を拡大しながら事業も変化し続けています。学級から学校全体へ、学校から地域へ、地域から県全体へと活動の範囲を広げていくことで、多くの人との関わりあいがうまれ、活動自体が大きく動いていきます。全国的に運動する・しないの二極化が進む現状を改善していくには、学校と地域が連携した規模の大きな活動も必要なのかもしれません。

コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2013/5/1 14:32:09
    確かに、近年の体力低下はすさまじく、同時に集中力も、思考力も若干低下に関係があるように思います。
    身体を動かすということは、同時に頭も動かすと私は思います。身体を動かすことで子供たちに携わっている仕事をしていますが、身体を動かすことに慣れ、体力もついてくると、同時に頭も使うようになってくる傾向にあるような気がします。
    これらの取り組みをみて、子供たちの重たくなっている身体と心をどういう風にまずは興味を持たせるか、ということにそれぞれ試行錯誤していることを知り、私自身も勉強になりました。運動する、身体を動かすことに対して受け身の子供たちが減ることも、向上策の1つの目標なのですね。
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