QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり
教科化時代が来た! 新しい道徳授業の創り方を解説します。
QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり(15)
特別の教科 道徳の評価(2)
筑波大学附属小学校教諭加藤 宣行
2016/8/19 掲載
  • 「特別の教科 道徳」の授業づくり
  • 道徳

B先生

 ようやく道徳教育の評価専門家会議の方向性も明らかになってきたようですね。具体的に教えてください。

加藤先生からのアドバイス

 「道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議」での議論は難航し、当初3月に発表される予定だった報告が8月まで伸びました。質問者の先生がおっしゃるように、ようやく統一見解が出される見通しとなりましたね。
 前回は、授業レベルでねらいと関連させながら評価の観点を設定していくという内容をお伝えしましたが、今回は専門家会議の報告(特別の教科 道徳」の指導方法・評価等について)をどのように捉えるかを考えていきましょう。

解説

道徳科における評価の基本的な考え方
 報告では、評価の基本的な考え方について、次のように示されています。

児童生徒の側から見れば、自らの成長を実感し、意欲の向上につなげていくものであり、教師の側から見れば、教師が目標や計画、指導方法の改善・充実に取り組むための資料。

 なんといっても、児童生徒の学び、成長につながるものでなければ意味がありません。よりよくあろうとする子どもたちの背中を押してあげるような前向きな評価をしましょう。この基本的な理念を忘れてはいけませんね。教科になると、そんなつもりはなくても、いつの間にか「評価のための評価」になってしまいがちです。これまでは「児童理解と評価」は並列でしたが、こらからは評価だけが一人歩きしないように心がけたいものです。

 また、評価の在り方について、以下のような内容が示されています(筆者が要約・抜粋)。

道徳科の特質を踏まえ、評価に当たっては、
・数値などによる評価ではなく、記述式とすること
・個々の内容項目ごとではなく、大くくりなまとまりを踏まえた評価とすること
・他の児童生徒との比較による評価ではなく、児童生徒がいかに成長したかを積極的に受け止めて認め、励ます個人内評価として行うこと
・学習活動において児童生徒がより多面的・多角的な見方へと発展しているか、道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているかといった点を重視すること
・道徳科の学習活動における児童生徒の具体的な取組状況を、一定のまとまりの中で見取ること

 「大くくりな」「一定のまとまりの中で」といった表記が見られます。これはどのように考えたらよいでしょう。「個々の内容項目ごと」に「Aさんは親切・思いやりについて○○○」という評価はなじまないということですね。つまり、1時間授業をしただけで、子どもの道徳性が育つということはないし、そのような即効性のある教育を求めているというわけでもないということでしょう。また、内容項目をひとつずつインプットしていくことで子どもたちの道徳的な成長は望めません。ですから、そのような評価は子どもの育ちになじまないのです。

道徳科の評価の方向性
 評価の方向性や工夫については、以下のような内容が読み取れます(筆者が要約・抜粋)。

 指導要録においては当面、一人一人の児童生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子について、発言や会話、作文・感想文やノートなどを通じて、
・他者の考え方や議論に触れ、自律的に思考する中で、一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展しているか。
・多面的・多角的な思考の中で、道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか
 といった点に注目して見取り、特に顕著と認められる具体的な状況を記述する、といった改善を図ることが妥当。

 評価に当たっては、児童生徒が1年間書きためた感想文をファイルしたり、1回1回の授業の中で全ての児童生徒について評価を意識して変容を見取るのは難しいため、年間35時間の授業という長い期間で見取ったりするなどの工夫が必要。

 このような「評価の方向性」を踏まえて、子どもを見取っていくために重要なツールとなるのが「道徳ノート」です。ノートに言語化することで、「ああ、自分が言いたいことはこういうことだった」と思考を整理することができ、最終的には自律的な思考につながることになります。  
 また、子どもたちにノート交換をさせることにより、多面的・多角的な見方が増えます。加えて、子どもたちの記述が蓄積され、授業中、授業後、日常生活など、教育活動全体のみならず、子どもの生活基盤全般での道徳的な学び、成長を見取ることができます。
 ここで確認しておきたいのは、道徳ノートを評価の道具にしないということです。道徳ノートは、あくまでも子どもたちの成長を促すという目的のために使われるべきです。ノートに書かれるコメントは、子どもの気づきを促すものであるべきです。教師は、子どもたちの道徳ノートの記述を見ながら、授業の手立てが効果的だったかどうかという授業評価をすることができます。また、授業後の意識の継続も把握することができ、長い期間での見取りが可能となるのです。

  • ねらいを設定するときに、なるべく具体的に複数で書くようにする。
  • ねらいの項目一つ一つに対応する形で、そのねらいが達成できたかどうかの評価を行う。
  • 達成するための手立てが有効であったかどうかの授業評価も併せて行う。

加藤 宣行かとう のぶゆき

東京生まれ。
神奈川県津久井地区公立小学校教諭を経て、現在、筑波大学附属小学校(道徳部)教諭。
筑波大学・淑徳大学講師。

(構成:茅野)
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