- 著者インタビュー
平成29年告示の学習指導要領では、「学力」という言葉は使われず、「資質・能力」が使われています。「学力」は学校に通う中で培われるもので、「資質・能力」は学校を卒業した後も、生涯にわたって必要なものです。今日、学校教育においても、この「資質・能力」の育成を図ることが求められるようになりました。
これまで学校教育で培われてきた学力は、主として〔知識及び技能〕としてのコンテンツ・ベースの学力の育成に重点が置かれていました。そこでは、〔知識及び技能〕の習得量と暗記による再生の正確性とを、主たる学力としてきました。
コンテンツ・ベースの学力は、学力の基礎・基本として重要です。しかし、IOT(Internet of Things)により、覚えていなくても調べることにより、獲得することができる時代となりました。これからの時代に求められる資質・能力は、コンテンツ・ベースの学力のみではなく、〔思考力、判断力、表現力等〕のコンピテンシー・ベースの資質・能力も同時に求められる時代となりました。
コンテンツ・ベースとコンピテンシー・ベースの資質・能力は、それぞれが分離されるのではなく、相補的に機能することが重要となります。
学習指導要領国語が求めている〔知識及び技能〕としての「何を理解しているか、何ができるか」だけではなく、〔思考力、判断力、表現力等〕の「理解していること・できることをどう使うか」を両輪として、子供たちの未来につながる資質・能力の育成を図ることが、求められているのです。
本書では、育成すべき資質・能力を学習指導要領国語の内容に沿って、各単元でどのように示したら良いかの具体を示しています。本書で取り上げている事例を参考に、各学校の児童の実態に即して、活用されることを期待いたしております。
1.3観点の学習評価
国語は、平成22年からの児童指導要録で、学習評価の対象を「国語への関心・意欲・態度」「話す・聞く能力」「書く能力」「読む能力」「言語についての知識・理解・技能」の5観点で行ってきました。
平成31年の児童指導要録からは、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に変わりました。
国語のこの改善は、それまでの活動領域としての「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」を中心とした観点の学習評価から、各教科等の学習評価に合わせ、国語でも資質・能力としての「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点の学習評価になりました。
この3観点は、平成29年告示の学習指導要領は、平成19年6月に改正された「学校教育法」の第三十条2項に学力の三つの要素として、定義されたものです。
学校教育法第三十第2項は、以下のものです。(緑字は、引用者)
2 前項の場合においては、生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない。
国語でこれまで学習評価の対象となっていた「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」は、「思考・判断・表現」の学習評価として行うことになりました。
「思考・判断・表現」の学習評価を行うための学習活動として、学習指導要領国語の「2 内容」の〔思考力、判断力、表現力等〕には、言語活動例が示され、言語活動を通して〔思考力、判断力、表現力等〕の育成を図り、「思考・判断・表現」として学習評価を行うことを求めています。
2.いつ学習評価を行うか
国語における「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の学習評価を行う際、単元においては、学習評価を行う内容と回数を絞り込むことが重要となります。当該単元の学習指導に対して、育成すべき資質・能力の内容を明確にし、毎時間学習評価を行うのではなく、単元の中で、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の学習評価を各1回程度とするようにします。従って、毎時間学習評価を行う必要はありません。学習評価を行わない時間があっても良いのです。
学習評価を行う回数を少なくすることにより、当該単元で育成すべき資質・能力が、明確になります。
とはいうものの、学習評価は、学習指導を行う以上、常に意識することが求められます。上記で述べている学習評価は、単元の評価規準として設定している当該単元で育成すべき資質・能力を対象として行う学習評価についてのものです。
授業を行うことの中で、指導として行う学習評価も重要です。学習評価は、指導すれば必ず伴って行うことも確認しておきます。
本書では、コンテンツ・ベースの〔知識及び技能〕と、コンピテンシー・ベースの〔思考力、判断力、表現力等〕の育成の具体を、Chapter4で、国語の教材に即して示しています。
平成29年告示の学習指導要領国語で求めている、学習者としての子供たちが、単元の授業の見通しと振り返りを具体的に行えるよう、「学びのプラン」を示しています。
授業には、教師が意図的・計画的に行うことによって、子供たちに国語としての資質・能力の育成を図ることが求められています。授業の主体としての子供たちに、それぞれの単元でどのような資質・能力を身に付けるかを、子供の視座から、身に付けるべき資質・能力を示すことが、これからの国語の授業では、求められているのです。
これまでの国語の授業では、教材の内容を取り上げて授業が行われることが多くありました。例えば、「ごんぎつね」を読むことに象徴されます。物語や説明的な文章を読むことが授業であり、そこで、学習指導要領に示されている資質・能力の育成を子供たちに図ることには、あまり注視することがなかったのではないでしょうか。
今回の学習指導要領改訂では、各単元において、一人一人の子供に、それぞれの国語の資質・能力の育成を図ることが求められています。
これまでの国語の授業では、学習指導案に教師側からの育成すべき資質・能力が示されてきました。
これからの時代、学習指導案という指導者側からの授業づくりだけではなく、「学びのプラン」に象徴される子供たちの視座からの授業づくりが、求められているのです。
子供たち自身も、当該単元の国語の授業を通して、どのような資質・能力の育成を図るかを、意識し、自覚することが重要となります。
「学びのプラン」は、子供たちに、単元のはじめに、当該単元の授業を通してどのような資質・能力を身に付けるかを自覚するため、さらに、授業の終わりに、その単元でどのような資質・能力を身に付けたのかを振り返るために、用いられます。
指導と評価の一体化の意味は、そこにあるのです。
本書では、教師の側からの授業づくりとともに、学校の主語である子供たちの視座からの国語の授業づくりについて、提案をしています。その具体が「学びのプラン」です。
「学びのプラン」では、単元全体を通して育成すべき資質・能力を俯瞰することが求められます。これまで教師のみが理解していた単元で育成する資質・能力を、学習主体である子供たちも理解しておくことが重要となります。したがって、「学びのプラン」は、授業を受ける子供たちが理解し、実現を図ることのできる内容と表現を行うことが必要です。そこには、単元での国語の学習で子供たちが「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」の明示が求められます。
学校の主語を子供におくとき、これまで学習指導案として授業の計画を立てていたことから、子供主体としての子供たちがいかに学ぶかという視座からの「学びのプラン」への転換を図ることも考えられます。
学習指導案を作成するのではなく、「学びのプラン」のみの作成を行い、それを使用して授業を行うことも可能です。それによって、これまで当たり前とされてきた、1時間単位の学習指導案は、必要なくなります。
学習指導案を書き、その後に「学びのプラン」を書くという二度手間もなくせます。教師の働き方改革です。
学校を卒業して社会に出たとき、学校の国語の授業を通してどのような学力(資質・能力)を身に付けたか、答えられるでしょうか。
小学校で「ごんぎつね」や「大造じいさんとガン」を習った。中学校で「トロッコ」や「少年の日の思い出」を習った。高等学校で「羅生門」や「こゝろ」をならった、と、言う方が多いのではないでしょうか。それらは、全て教材名です。
国語の資質・能力とは、どのようなものでしょうか。国語の資質・能力は、学習指導要領に示されている内容なのです。その内容の育成を図ることが、基礎学力の育成となります。
日本の学校教育では、全国の津々浦々で、子供たちが大人になって必要とされる基礎学力の育成を図ることが求められます。そこで育成すべき内容を示し、育成の機会均等を図っているのが、学習指導要領です。
学習指導要領国語に示された資質・能力の育成のために、その内容を具体化したものが教科書です。
これまでも「教科書を」と、「教科書で」が言われてきました。
「教科書を」と「教科書で」は、先生方は、既にご理解をされていると思います。しかし、国語の授業はどうでしょうか。「教科書を」に、なっていないでしょうか。
「教科書を」教えるでは、教材の内容や教材の解釈・理解にとどまってしまいます。
国語の資質・能力を育成するには、学習指導要領に示されている「2 内容」を、子供たち一人一人に身に付けることが重要となります。
「教科書で」子供たち一人一人に、それぞれの子供の違いや個性を認めつつ、未来を生きるために必要な資質・能力の育成を図ることが求められています。
そのための資質・能力の育成は、「教科書を」のみでは、深まりや広がり、高まりを実現することは難しいのです。
教科書を用いつつ、そこで育成する資質・能力を、学校のみではなく、社会と関わりつつ、他でも生かすことのできる資質・能力として育成することが求められているのです。
学校の国語の授業では、教科書を用いつつ、教科書に直接的に示されている内容を、学習指導要領国語に示されている「内容」と比較したり参考にしたりして、どのような資質・能力を、教科書を通して育成を図るかを、明確にして授業に臨むことが重要となります。
教科書を、目次の順に扱う時代ではなくなっているのです。それぞれの学校の子供たちの実態に合わせた国語の資質・能力の育成が求められる時代になったのです。そのためには、カリキュラム・マネジメントが重要となります。それぞれの学校の子供たちの実態に即して、いつ、何を、どのように国語の授業として行うかの、教育課程の編成や学習計画が必要です。
国語の授業づくりのためのカリキュラム・マネジメントを一人の教師が行うことは、大変です。そこで、チーム学校として、教員みんなで関わり作成すると、負担がかなり楽になります。1年目は、少し時間がかかりますが、一度作成すれば、翌年からは修正してバージョンアップするだけになります。
また、先に取り上げた「学びのプラン」を作成し、それを蓄積することで、年間のカリキュラム・マネジメントになります。
今、学校教育が大きく変わろうとしています。これまで行われてきた日本の学校教育は、世界の中でも優れていたといえましょう。例えば、OECDが行っているPISA調査においても、これまで優れた結果が報告されています。
しかし、IOTの発達等により、日本においてもGIGAスクール構想等、教育が大きく変わろうとしています。さらに、COVID-19の影響もあり、これまでの学校教育の在り方だけでは、立ち行かない状況も生まれています。
これまで当たり前とされてきた学校教育が、変わらざるを得ない状況も出現してきました。これまで学力とされてきた知識の習得と再生の正確性というコンテンツ・ベースの学力(資質・能力)のみでなく、思考力、判断力、表現力等といったコンピテンシー・ベースの資質・能力(学力)も、同時に求められるようになってきました。
教育に関わるツールも、毛筆から鉛筆やポールペンに変わったように、鉛筆からPCやタブレット端末に変わろうとしています。
松尾芭蕉は「不易流行」を以下のように言いました。
いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくこと。また、新味を求めて変化を重ねていく流行性こそが不易の本質であること。(「新明解四字熟語辞典」三省堂)
学校教育は、時代の中に存在するものであり、学校教育によって、子供たちの未来を創ります。それ故、時代が求める内容に、変わり続けることが学校教育には求められているのです。学習指導要領が、ほぼ10年ごとに改訂されるのもそのためです。
教育は、文化の継承と伝承も担っています。そのため、「不易」と言われるように、同じことを繰り返すこともあります。同じことを繰り返すことは、ある意味、安定しており安心感もあります。しかし、時代は進化し、変化します。だからこそ、次代が求める資質・能力を、未来に生きる子供たちに、「流行」として育成しなければならないのです。
これからの次代に生きる子供たちに、これからの次代に必要な国語の資質・能力の育成を図る国語の授業を期待しております。