著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
社会科は「暗記科目」じゃない!変化に対応した教材研究・授業づくりを
北海道札幌市公立小学校朝倉 一民
2018/4/9 掲載
 今回は朝倉一民先生に、新刊『板書&展開例でよくわかる 社会科授業づくりの教科書 5年』について伺いました。

朝倉 一民あさくら かずひと

北海道札幌市公立小学校教諭。
月刊誌『社会科教育』で、「社会科ICT授業 はじめの一歩―明日の社会科が楽しくなるICT講座」を連載中。

【所属・資格】北海道社会科教育連盟、北海道雪プロジェクト、北海道NIE研究会、IntelMasterTeacher、NIEアドバイザー

―本書は、『社会科授業づくりの教科書』シリーズの第2弾として5年の板書&展開例をまとめていただいています。5年生では、昨今の領土問題を意識する内容や、食料生産における輸送方法や販売の工夫の明示、産業における情報活用の仕組みなどの改訂点がありますが、朝倉先生はこの改訂をどのように捉えていらっしゃいますか?

 社会科の目標には「我が国の国土と歴史に対する愛情」とあります。自分の国に愛情をもつためには、自分たちの国の現在や過去を正しく理解することは非常に重要だと感じます。竹島や北方領土が韓国やロシアに不法占拠されていることや、尖閣諸島について中国や台湾が領有権を主張していることに対して、日本の冷静に話し合いを通じて解決しようとしている立場を理解することで、民主国家としての誇りを自覚させることが大切だと感じます。
 「輸送方法や販売の工夫」については、これまでの5年生では生産者の工夫が授業の中心になることが多かったと思います。しかし、生産された商品は季節に関係なく、今は様々な工夫によってあっと間に消費者に届くようになっています。この「届く」という社会的事象の意味を見いだすためにも輸送や販売の工夫を学ぶことが必要であり、点だけではなく社会のつながりを学ぶことで社会を立体視することが可能です。また「産業における情報活用の仕組み」については言うまでもなく、今やインターネットが生活の中心となりつつあり、産業もこれまでの「通信」としての活用だけでなく「人口知能(AI)」を生かした取組による発展が予測されます。
 例えば農業においては的確な温度設定、水の管理、生育状況の分析、効率的な肥料散布、機械の自動化など、これからの発展を見据えた授業が必要となってきます。つまり、自国の成り立ちを知り、つながりを知り、未来への視点をもつことで社会の形成者としての自覚をもつための改訂だと感じています。

―トピックとなっている「日本の領土の範囲」を教える際には、歴史的な背景に触れながらも、地図帳や地球儀を活用した活動が不可欠です。3年、4年から取り組んで来ていることを生かす形にもなりますが、「地図」を活用し、「地理的な見方・考え方」を鍛えるには、どのような取組が有効でしょうか。

 社会科が未だに「暗記科目」のように捉えられてしまうのは、わたしは地図や地球儀をうまく活用できていないことが問題だと思っています。例えば、4年生では「都道府県の名称と位置」が明記されていますが単に暗記をしなさいということではありません。知識として都道府県を覚えることは大切ですが、知識と思考力等を切り離すような学びとなってはいけないのです。
 例えば愛知県は自動車の産地として有名ですが、地図帳で確認すると高速道路が貼り巡らされ、様々な港とつながっているのがわかります。しかも木曽三川の流域は海抜0メートル地帯であり、広く田園地帯が広がっていることも地図から学ぶことができます。つまり地図を活用することで「空間的な見方・考え方」を鍛え「工場のまわりは田んぼがあるんだな」とか「田んぼに影響はないのかな?」と考えたり、地球儀をつかって「港からアメリカまでどれくらいの距離があるのかな」などと問いを見いだすことができます。地図を確認することで俯瞰的に知識を活用することが大切なのです。今はGoogle Earthなどのアプリも充実しているので衛星画像を提示しながら具体的なイメージをもたせることもできます。

―月刊『社会科教育』誌では「ICT授業 はじめの一歩」をテーマに連載いただいております。携帯電話(スマホ)の普及などもあり、情報モラル教育の大切さも指摘されているところですが、5年の学習内容で、ICTを活用した取組でオススメの実践を教えてください。

 ICTの普及と「情報モラル指導」は表裏一体であり同時に進歩していくことが必要です。スマホ禁止、LINE禁止という「モラル指導」は「情報活用能力」を低下させるだけです。また、保護者に「スマホの使い方を決めてください」と丸投げするのも無責任で、学校で「情報カリキュラム」を作成し、発達段階に応じた「情報モラル」の指導を体験的に行うことが重要だと考えています。
 例えば、コンピュータ室のPCのネットワーク機能をつかって、学級の仲間にメールを送る活動をするとします。耳元で内緒話をする「伝言ゲーム」のように、「ある情報」を1人の子に伝えてどんどんメールを送信していくことをします。テキストだけで伝わっていく情報がどのように変化していくかを擬似的に学べるおすすめの実践です。「情報」がいとも簡単に、品質低下することを理解できるのです。

― 今回の社会の改訂で重視されているものの一つに、「防災学習」があります。本書でも情報の扱いと絡めて取り上げていただいていますが、被害防止だけでなく、被災からの復旧も含めて、どのように伝え、考える取組が大切でしょうか。

 今回の改訂では4年生では都道府県レベルでの「防災」の学習することになっています。そして5年生では国土の特色としての「災害」を学ぶことになっています。これはやはり3・11の東日本大震災を受けての学習内容となるはずです。そういう意味で社会科では今後も起こりうる大きな自然災害に自ら対処できる国民を育てていきたいという思いがあるのだと思います。そこで4年生での防災学習で大切なことは各地域における災害の「教材化」です。
 例えばわたしが住む札幌市では「雪害」に対する自治体の取組(公助)を学び、自分たちがどのように災害に対処していくこと(自助・共助)が大切かを学び、選択・判断する一連の防災教育が必要となってきます。これは、どちらかというとこれまでの5年生の災害の学習に近いところがあります。一方、5年生では国土の特色としての「災害」を捉え、日本が台風の通り道であることや、プレートの境界に国土が存在し、軟弱な地盤であること、地震大国であること、火山大国であることを国民として理解する必要があります。また、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など、大変な被害を受けた地域がどのように復興し、今なお復旧のために大変な時間と努力とお金がかかっていることを日本人として自覚し、それらにどのように関わっていけるかを考えることができる国民としての自覚を育てることが重要だと思います。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願い致します。

 5年生社会といえば日本の国土や産業を学び、我が国の特色を知る重要な位置付けになっています。一方で人工知能(AI)の発達やグルーバル化、諸外国との関係は日を追うごとに進歩・変化し学習内容もどんどん変わっていくことでしょう。4年に一度の教科書の改訂だけでは学習指導要領の目標達成には追いつかなくなっていくものもあることでしょう。現に農業などはIT技術が目まぐるしく進歩し、稲作に関わる機械は自動運転になり、TPPによって貿易の形態もどんどん変わっていくことでしょう。そんな中、われわれ教師は社会の変化に敏感に反応できるアンテナをもち、その都度、社会の情勢にあった教材研究・教材化を行っていくことができる資質・能力が必要だと強く感じています。そこにプロ意識をもてる教師となることを願っています。

(構成:及川)
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