著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
生徒のつまずきやこだわりに寄り添ってみよう
元千葉市立葛城中学校長五十嵐 一博
2016/10/5 掲載
 今回は五十嵐一博先生に、新刊『中学校数学50の難所 ストンと落ちる教え方』について伺いました。

五十嵐 一博いがらし かずひろ

1949年生まれ 千葉大学大学院教育研究科数学教育専攻修了
千葉市教育委員会、千葉市教育センター
非常勤講師・職員 千葉市科学館、共立女子大学、淑徳大学
現在、NPO法人ちば算数・数学を楽しむ会理事長
1995年・2002年・2004年 文部科学省・国立教育政策研究所教育課程実施状況調査協力委員
1998年 中学校学習指導要領数学科作成協力者
1999年 国際数学・理科教育調査(TIMSS-R)国内専門委員

―数学の学習で生徒がつまずいたとき、先生の説明だけで納得できる生徒ばかりではないと思います。そのような生徒に有効な指導方法はないでしょうか。

 先生がいくら一生懸命に説明しても、なかなか理解を得られない場面はいくらでもあります。しかし不思議なことに、同じ説明でも生徒どうしだと独特の言い回しなどによって理解できるということがあります。ですから、ぜひ生徒どうしの話し合い活動を授業に取り入れてください。
 本書の1章でも取り上げましたが、具体的に次のような効果があります。
●先生の説明を聞くだけの学習より理解が広がり、深まる。
●教師から「こうなんだ」と説明されるより納得しやすい。
●気軽に質問し合う中から、思わぬ予想などが出てきて、自然に議論ができる。
●複数の解答の中に関連性を見いだしたりすることができる。

―五十嵐先生は、生徒のもっている疑問や戸惑うポイントに正しく向き合うために「生徒の目線」で考えることを大切にしていらっしゃいます。例えば、「数学的な見方・考え方」を生徒の目線に立ってとらえ直してみると、どのようなことが言えるのでしょうか。

 昔から数学教育の専門家は、「帰納的に考える」「演繹的に考える」「一般化する」「特殊化する」「分化する」「統合する」…などたくさんの数学的な見方・考え方をあげています。しかし、中には中学校3年間で1、2度しか出てこないものもあります。それらは指導してもなかなか生徒の身にはつかないでしょう。ですから、できるだけ絞って扱うべきです。
 また、「一般化する」「特殊化する」などは、「条件がえをする」としてまとめた方が中学生にとってわかりやすく、しかも繰り返し出てくることになり扱いやすくなります。本書では、このような中学生が考えやすい数学的な見方・考え方を具体的に紹介しています。
 生徒自身によって数学を見たり考えたりする姿勢が身につけば素晴らしいですね。

―中学校数学の学習内容の中には、算数と比べて抽象的な概念が多く登場し、その理解が不確かなことがつまずきの原因になっているケースも少なくないと思います。概念の獲得について、指導上どんなことに注意すべきでしょうか。

 概念の獲得には時間がかかるものです。正の数・負の数の概念、関数の概念、平方根という数の概念、いろいろな四角形の包含関係…など、これらは一つひとつていねいに扱わなければなりません。しかし、年間の指導時間は限られていますので、1か所に時間をかけ過ぎると、学年末になって超特急で授業を進めなければならないようなことになりかねません。
 ですから、全員が定着するまでその内容を繰り返し指導するより、それらの概念に関連があれば他の章であってももう一度振り返って指導する方が、異なる観点からの概念指導ができて効果的です。「ある程度理解していれば先に進んでよい」くらいに考え、大きく構えて指導するとよいと思います。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 数学の教師は数学が好きで、問題を解くことが得意で、どうしても「教えてやろう」という意欲に満ち溢れている方が多いものです。でも、そんな先生だからこそ、生徒の素朴な疑問やつまずきに対して正面から向き合っていただきたいと思います。先生にとっては、もう十分に答えられることでも、生徒の疑問が思わぬ素晴らしい指導方法につながることがあります。つまずいてなかなか前に進めない生徒のこだわりに寄り添うことによって、こなれた指導展開にも隠れた欠点、新しい指導展開が生み出されることがあります。
 いつまでも生徒から学ぶという姿勢を持ち続けられる教師でありたいものですね。

(構成:矢口)
コメントの受付は終了しました。