著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
主体的に問題を提起し自ら解決していく学習者を育てる国語授業とは?
兵庫教育大学名誉教授中洌 正堯
2016/8/20 掲載

中洌 正堯なかす まさたか

1938年、北九州市生まれ。兵庫教育大学名誉教授、元兵庫教育大学学長。
全国大学国語教育学会等会員、日本国語教育学会(理事)。国語教育探究の会・国語論究の会顧問。国語教育地域学の樹立を目ざし、「歳事(時)記的方法・風土記的方法」を提唱する。

―書名にもありますが、〈読者〉とはどのような学習者の姿を表しているのでしょうか。

 国語教育の大きな目標は、学習者を一人前の言語生活者に育てることにあります。言語生活には、談話生活、文章表現生活、読書生活があり、相互に有機的に関連し合っています。ここでは、将来の読書生活を営むことのできる態勢づくりと、基礎・基本となる能力を体得する学習者の姿を求めて、〈読者〉と呼んでいます。

―「〈読者〉に育てる」ことは、子どもたちのどのような「学び」を実現する(どのような力をつける)ことにつながりますか。

 端的に、文章・作品について「書評」を述べる(話す・書く)ことができるようになる、と言ってみたいのです。文章・作品を味わいつつメタ認知し、その文章・作品についての意義を論じます。そのためには、当該の文章・作品はもとより、他の文章・作品、他の情報、他の考えと自分の考えの比較検討など、総合力が不可欠です。

―先日、「次期指導要領に向けたこれまでの審議のまとめ(素案)」が公表されました。その中では学習過程の質的充実が重要とされていますが、この本では〈読者〉に育てるために、どのような学習過程が提案されていますか。

 本書の副題は、「辞典類による情報活用の実践的方略」です。この「辞典類」は、「国語辞典、漢字辞典、図鑑、デジタル教材、インターネット、新聞等」と注記しており、広い範囲の情報を指しています。提案は、これらを活用して、教材(教科書、学校)から離陸し、思考、協議、判断を経て、教材へ着地するという実践サイクルです。

―「〈読者〉に育てる」ことは、アクティブ・ラーニングの視点からの国語科授業の改善にもつながるのでは…と思うのですが、中洌先生のお考えをお聞かせください。

 拙稿「『漢字辞典』を読む―漢字・語句のアクティブ・ラーニング―」では、〈読者〉は「漢字辞典」だって読むという観点から、部首別漢字をおさえ、「木」「水」による漢字・語句の学習ネットワークを経て、教材「森林のおくりもの」や新聞記事の読みに進み、さらに自分の地域の飲み水を調べます。こんな学びをどう思いますか。

―最後に、全国で日々国語を教える先生方に一言メッセージをお願いいたします。

 まず、私たち指導者が〈読者〉となる、教材からの離陸を楽しみ、学習者たちの離陸に対応する。そして、他の文章・作品、他の情報との有機的関連を組織し、情報と解釈の快い緊張感に満ちた授業展開を目ざします。有機的関連は、当該教材の学びを孤立させず、経験や既習事項、新たな情報と結んで、創造の読みを拓く元です。

(構成:木山)
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