著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
専門性を極めつつ、生徒目線で授業を考えられる理科教師になろう!
東京学芸大学教育実践研究支援センター准教授宮内 卓也
2016/5/16 掲載
 今回は宮内卓也先生に、新刊『中学校理科の授業づくり はじめの一歩』について伺いました。

宮内 卓也みやうち たくや

東京学芸大学教育実践研究支援センター准教授
1966年、東京都生まれ。1989年、東京学芸大学教育学部卒業。2011年、同大学大学院修士課程修了。八王子市立横山中学校教諭、八王子市立加住中学校教諭、東京学芸大学教育学部附属世田谷中学校教諭、東京学芸大学附属世田谷中学校主幹教諭を経て2016年より現職。
専門は教員養成、理科教育。
中学校学習指導要領解説理科編(平成20年9月)作成協力者。中学校理科教科書編集委員(啓林館)、日本理科教育学会会員、日本化学会教育会員。

―本書では、「課題が授業を決める」(第2章)と述べられていますが、宮内先生は課題をつくるとき、どのようなことを意識していますか。

 「課題が明確か」という点は、授業を成立させるうえで非常に重要です。そうでなければ、生徒は一生懸命に取り組んでいるのに、個々が異なる解釈をしていたためにうまく授業がまとまらないこともあります。
 また、課題を共有できても、解決に必要な知識や技能を備えていないと、見通しをもった活動にはなりません。どこで何を学ばせておくか、年間計画の中で意識しておきたいところです。
 そして、学びの原動力は好奇心。好奇心を刺激することができる課題が見つかればしめたものですが、これはなかなか難しいものです。教師間の交流を通して、お互いのアイデアを共有したいところです。

―理科教師なら、観察、実験にはこだわりたいところだと思います。一方で、本書でも指摘されている通り、「一見すると授業の形になっているが、実は内容がない、という状況に陥る危険性」もはらんでいます。この問題を踏まえたうえで、観察、実験を効果的に授業に取り入れるにはどうすればよいでしょうか。

 「観察、実験を通して、何を解決しようとしているのか」これを導入の学習の中で明確にすることが大切です。「今日は実験を行います。方法は…」と淡々と授業を始めてしまいがちですが、これでは実験の目的が希薄で、単なる作業になってしまいます。

―本書では、多様な評価方法が紹介されています。その中に、「新場面テスト」というものがありますが、これはどういった評価方法でしょうか。

 経験したことがない課題に直面させ、その課題をどのように解決していくのか、その過程をみるテストです。多くのテストは学習したことをいかに再現できるかをみることが中心ですが、学習したことを生かして新たな課題の解決をはかろうとする力が、本質的に大切な学力だと考えます。良質な課題、適切な評価規準、評価基準を設定する必要があります。

―本書では、定期考査の問題づくりも紹介されています。宮内先生は、テストの問題づくりをどのような手順で進めているのでしょうか。

 試験範囲に該当する授業をもう一度振り返り、授業を通して何を身につけさせたかったのかを改めて確認します。そのうえで、学習内容に関わる問題をとにかく粗く文章化して入力するところから始めます。全体のバランスを検討しながら問題のねらいと数を明らかにし、そのうえで細かな内容や表現の吟味に入ります。そうはいっても、後から良問を思い着くことも多く、作業が後戻りすることも少なくありません。

―最後に、読者の先生方に向けてメッセージをお願いいたします。

 私は、教材や授業方法は教員間の共有財産だと思っています。一人だけの経験では、その幅に限界があるので、多くの人と交流をはかったり、多くの情報に触れたりしながら、お互いに力をつけていきたいものです。
 私自身を振り返っても、実に多くの先生のお世話になりました。生徒の発言や反応、ワークシートの記述などをつぶさに分析していくと、自分自身の授業評価にもつながります。ですから、生徒もある面で私にとっては先生です。
 若い先生方が授業にやりがいをもって取り組むことができますよう、心から祈っています。

(構成:矢口)

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