著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
プロ数学教師としての教材分析力を身に付けよう
横浜国立大学教授池田 敏和
2014/9/5 掲載
 今回は池田敏和先生に、新刊『中学校数学科 数学的思考に基づく教材研究のストラテジー24』について伺いました。

池田 敏和いけだ としかず

1964年生まれ。
横浜国立大学助手,講師,助教授を経て,2009年度より横浜国立大学教授。専門は数学教育学。
ICTMA(数学的モデリング・応用の国際教師集団)国際組織委員,PISA2012調査MEG(数学エキスパートグループ会議)委員,日本数学教育学会常任理事,神奈川県数学教育研究会連合会事務局長等を務める。

―本書の冒頭では、24のストラテジーのベースとなる、3つの考えが紹介されています。このうちの1つ「適用範囲を広げ、明確化するとともに、拡張・統合を試みる」について教えてください。

 例えば、ある問題に対してその解決方法が得られたとき、その解決方法を「もっと他の場面でも適用できるのではないか」と見ることです。
 このような見方をすることで、解決方法の適用範囲が広がるとともに、適用できない場合も見えてきます。そうすると、適用できる場合とできない場合の境界はどこかが気になりだし、適用範囲を明確にする行為が引き出されます。「こういう場合はうまくいき、こういう場合はうまくいかない」といった具合に、適用範囲が明確化されたとき、それが1つの終着点になります。
 しかし、ここでさらに「見方を変えることで、両方がうまくいくようにできないだろうか」と考えを進めてみます。常にうまくいくわけではありませんが、この経験が次回同様の見方を引き出す原動力になります。

―本書には、「ケーキの配分とタクシー料金の割り勘」のように、日常生活に密着したユニークな教材が多く紹介されています。このような日常事象を教材化するためのコツを教えてください。

 教科書の問題は、ほとんどが理想化されています。そこで、日常場面が組み込まれている問題を眺め、現実場面をイメージしながら、「本当にこれが問題になるのだろうか」「むしろ、このように考える方が自然ではないか」といった視点から、批判的に分析してみることです。このような吟味の中で、解答の多様性が見えてくることがあります。条件を緩めたり、広げたりする中で、数学に広がりが見えてくるわけです。

―池田先生は「問題が徐々に見えてくるときのワクワク感こそ数学教育でもっと強調されるべきではないか」と述べられています。この「ワクワク感」を生徒と共有するには、どうすればよいでしょうか。

 数学の問題は、天から降ってくるわけではなく、自分自身の中に、ある見方や考え方があってこそ生まれてくるものです。そこで、まずは問題が生まれてくる一歩手前の状況を生徒と共有します。そのうえで、「先生は、この場面で疑問に思ったことがあるんだけど、何だと思う?」といったやりとりを通して、問題が生まれてくる状況を体験させます。「このように見ると、このような問題が生まれてくるのか」という体験する中で、徐々に「疑問の目」も育っていきます。

―最後に、読者の先生方に向けてメッセージをお願いいたします。

 本書で取り上げた教材は、扱う学年や単元が違えば、また違ったアプローチができるものが少なくありません。指導の実態に応じて、24のストラテジーを駆使しながら、独自の教材研究やアレンジを試みていただければ幸いです。

(構成:矢口)
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