著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
ゆとりある不登校指導のために
早稲田大学人間科学部教授菅野 純
2008/8/6 掲載
 今回は菅野純先生に、新刊『不登校 予防と支援Q&A70』について伺いました。

菅野 純かんの じゅん

1950年生まれ。東京都八王子市教育センターに14年間、教育相談員として勤務。87年から早稲田大学人間科学部勤務、現在教授。各地の相談機関のスーパーバイザーを勤める。日本教育カウンセラー協会理事。
【著書】『子どもの見える行動・見えない行動』(瀝々社)、『教師のためのカウンセリングゼミナール』(実務教育出版)、『教師のためのカウンセリングワークブック』(金子書房)、『子どもの心を育てる「ひとこと」探し』(ほんの森出版)他多数。

―本書は「予防と支援70」というように予防にも力点が置かれています。不登校を事前に防ぐために注意しておくべきことは何でしょうか。本書でも詳しく紹介されていますが、いくつかご紹介下さい。

 「不登校の予防」にはいくつかのレベルがあります。(1)困難な問題に出会った時にその問題から回避せずに、子どもなりに何らかの問題解決をはかり克服する心を育てるレベル、(2)不登校になりかかっている子どもが発しているサインを早めに把握し何らかの対応を行うレベル、(3)子どもが断続的な不登校になっている時、それ以上悪化せずに一過性で済むように適切なはたらきかけを行うレベル、です。本書ではそれぞれ「心の基礎づくり」「SOSサインに気づく」「なりはじめの時期への対応」という項目で具体的な方法を紹介しています。
 特に私は「子どもが不登校にならずに学校に通い続けるのはなぜか?」というやや逆説的な問いかけのもとに「登校行動維持要因の研究」をしており、(1)のレベルにおける「心の基礎づくり」の重要性を感じています。困難に負けない強い心を持つ子どもに育てるにはどうしたらよいかというレベルから「不登校の予防」を考えることが必要だと考えるからです。

―本書の中で不登校には4つの基本タイプがあると説明されていますが、その4つのタイプと支援の方法について簡単にお聞かせ下さい。

 私が本書で述べている4つのタイプとは(1)一過性タイプ、(2)怠学タイプ、(3)息切れタイプ、(4)複合タイプです。「一過性タイプ」は文字通り一時的に生じるものですが、初期対応を誤ると長期化してしまうことがあります。「怠学タイプ」へは何らかのはたらきかけが必要です。よく「不登校はそっとしておいた方がよい」と言われたりしますが、一律にそうすべきではなく、子どもによっては登校や行事などへの参加を促したり、学力補充や早目の進路指導を行った方がよいのです。しかし「息切れタイプ」にはまず子ども心にエネルギーを補充することが優先されなければなりません。「複合タイプ」は現代では一番多いのではないでしょうか。一見「怠学タイプ」に見えますが、家庭的背景や子どもの生育歴から本人の心のエネルギーが枯渇し、年齢相応の社会的能力も育っていないことが少なくありません。まずはその子が先生から自分がしっかりと見守られている、大事にされていると感じることが必要です。

―本書では「発達障害と不登校」についても触れられています。発達障害の子どもの不登校予防と支援のポイントは何でしょうか。いくつかご紹介下さい。

 近年ますます多くなっているのがADHDやLD、アスペルガー障害といった発達障害の子どもの不登校です。こうした子どもたちの不登校はそれぞれの障害特性がかかわっていることが多く、発達障害についての知識をふまえた対応が必要となります。家庭や専門機関との連携、周囲の子どもたちへの指導を含めた環境づくり、いじめ予防対策、自己イメージが高まるようなはたらきかけ、などがポイントです。

―今現在の不登校における課題はどこにあるとお考えでしょうか。先生の取り組みとあわせてお聞かせ下さい。

 1960年代以降の、いわゆる高度成長以後のわが国の歩みは、子どもの不登校の増加と共にあったと言っても過言ではありません。生活の豊かさや便利さと引き替えに子どもが不登校に陥りやすい家庭、学校、社会、そして文化状況を作ってきたとも言えるのです。不登校という問題は、そうした時代とともに日々刻々変わる子どもを取り巻く状況と密接なつながりがあります。しかし同時に、不登校の子どもとかかわっていると古来からあまり変わることのない人間心理を垣間見ることもあります。親から否定され疎んじられれば、いつの時代でも子どもは悲しいのではないでしょうか。私は不登校という問題に立ち向かう時、子どもや保護者の変化ばかりではなく今も昔も変わらない部分にも注目してはたらきかけていくことが大事ではないかと思っています。こどもを心配する、見守る、投げかける、という素朴なレベルで一生懸命子どもとかかわることが、たとえ不登校の解決には至らなくても教育として子どもの心に伝わるのではないかと思うのです。

―最後に、実際に不登校の予防と支援に取り組まれている先生方、読者のみなさんに一言お願いします。

 指導の難しい子どもほど、「先生」「学校」の意味は大きいのです。反対に指導に手のかからない子どもにとっては、先生の存在はそれほど重いものではないかもしれません。保護者についても同じだと思います。「難しい」と感じる保護者ほど、孤立無援状態で子どもの養育を行っていることが少なくありません。「先生だけはわかってくれた」「先生が応援してくれる」ということが大きな力となるのです。
 本書が、不登校問題に取り組まれる先生方の心に少しでもゆとりをもたらせることが出来ればと願っています。

(構成:及川)

コメントの受付は終了しました。