著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
「和文化教育」を語る
兵庫教育大学学校教育学部教授中村 哲
2004/11/12 掲載
 秋といえば、「芸術の秋」…ということで、今回は『和文化−日本の伝統を体感するQA事典』の著者、中村哲先生にインタビューしました。先生は現在、『総合的な学習を創る』に『子どもに伝えたい日本の伝統文化』を連載されています。

中村 哲なかむら てつ

1948年神戸市生まれ。兵庫県立長田高校卒業。広島大学文学部哲学科から広島大学大学院教育研究科を経て1975年4月に秋田大学教育学部に赴任。1985年4月から兵庫県教育大学学校教育学部に在職。現在、兵庫教育大学学校教育学部教授。2001年から和文化教育を提唱。全日本居合道連盟教士八段(伯耆流)。
単著 『社会科授業に関する体系枠の構築と事例研究』(風間書房 1996年)
訳著 『情報化時代における学校改革』(風間書房 2000年)
編著 『インターネットで創る授業の展開』(日本文教出版 2000年)/『「和文化の風」を学校に―心技体の場づくり』(明治図書 2003年)/『グローバル教育としての社会科カリキュラムと授業構成』(風間書房 2004年)

―中村先生が、和文化に興味を持つきっかけになったのはどのようなきっかけからでしょうか?

 中学校時代に出会った先生から柔術を教えてもらったことにあります。その先生は岡山大学教育学部を卒業され、社会科担当の新任の先生でした。そして、岡山に伝承されている武芸の源流である竹内流の担い手の方でした。竹内流は戦国時代の初期に竹内久盛によって創設され、捕手、腰之回、小具足、羽手(柔術)、棒、剣法、十手、鎖鎌、槍、薙刀なども含む総合武術です。
 部はなかったので、同好会として先生から羽手(柔術)の型を数人の友達仲間と一緒に教えてもらいました。その後、高校時代に柔道と剣道、大学時代に少林寺拳法と居合道を稽古し、武道の業の修練によって自分の生き方の糧を得ています。

―学習指導要領に三味線、和太鼓が入りましたが、子どもたちにはどのような影響があるでしょうか? またそれらを取り入れている様子を見学に行くとしたら、どの学校がいいでしょうか? いくつか挙げてください。

 前著の『「和文化の風」を学校に』を刊行したことをきっかけに、東広島市立向陽中学校において「和文化の風を向陽に」の標語を掲げ、選択教科として国語では能楽、社会では茶道、保健体育では杖道、美術では水墨画、音楽では箏・尺八を取り上げて授業研究を推進しています。このような取り組みにおいて箏・尺八を選択した生徒の次の感想は、和楽器活用による生徒たちへの教育効果を示しているように思います。「始めは上手にできなくて落ち込んだりしたけど、最近は結構音が出るようになって、練習が楽しくなってきた。」「一本の尺八の五つの穴で、いろんな音が出ることはとても神秘的だと思いました。箏も、たった13本で押したり音を小さくしたりすることができるので、とても不思議に思います。これからも、いろいろな曲に挑戦していきたいです。」
 なお、和楽器活用を先進的に取り組んでいる学校としては、東京都府中市立若松小学校、兵庫県播磨町立蓮池小学校、横浜市立洋光台第1中学校、金沢市立兼六中学校、東京都立白鴎高等学校などがあります。

─文部科学省の伝統文化重視が学校教育にどういう動きを作り出していますか?

 団塊世代の学校教育では高校と大学へ進学する為に、知識習得の個人的学力が最優先されていました。そして、学校教育の最終段階は大学という理解が一般的でした。その背景としては戦後日本の国づくりが政治と経済を重視していたことが指摘できます。
 それに対して、伝統文化重視の背景には、国内では文化力を基軸にした政治と経済の再興、国外では日本文化の発信に基づく平和文化の交流があります。
 したがって、教育が生涯教育の観点から個人的学力形成のみならず地域社会や国際社会に関与する態度・能力の形成を担うようになりました。さらに、そのような態度・能力の形成には学校の教師だけでなく地域の人材活用が必要になり、「総合的な学習の時間」などの活用によって学校と地域社会との連携を図る動きが推進されています。

―森信三先生の「立腰教育」は東洋思想の流れで和文化にも関係していると思われますが、中村先生はそのことについてどう思われますか? 

 「立腰教育」では、腰骨を立てることにより子どもの心と体を整え、個々の子どもの資質を引き出すことが意図されています。そして、立腰の姿勢は和文化の多くの領域における自然体としての姿勢に関連しますので、「和文化教育」と「立腰教育」の共通性は非常にあります。
 なお、森先生は立腰によって個々の子どもの自己形成を重視されています。また、学校教育では「心の教育」として、挨拶をすること、返事は「ハイ」とはっきり言うこと、履物を揃え、椅子を入れることの生活行為を通して自己形成の土台づくりとして実践されています。
 それに対して、私が提唱している「和文化教育」では、文化的価値を支える技法を体得するには身体の要である腰を基軸にする所作を重視することになります。そして、体得した技法を活用して学校や地域の文化創造としての教育を意図しています。

―本書活用の場面を具体的にご紹介ください。

 本書の内容としては、和文化の各領域についての文化的価値とその価値を具現化できる技法が柱になっています。このような内容に基づく本書の活用としては、一般の人たちが教養として和文化の理解を図る活用の方法と学校の教師がカリキュラムや授業において和文化の領域を教材として活用する方法があります。さらに、後者の場合には教師が教材研究として活用する方法と授業実践において実際に活用する方法があります。
 また、教師だけでなく小学校の高学年以上であれば、和文化に関するテーマを調べる学習の参考図書としても活用できると思います。
 このような活用の際に、和文化の価値を知識として知るだけでなく、技法を体得できる身体的活動の場面を設けることに留意して活用してほしいです。

(構成:木山)

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