「和文化の風」を学校に
心技体の場づくり

「和文化の風」を学校に心技体の場づくり

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和文化の風が学校に新風を吹き込む。

山折哲雄先生はじめ、そうそうたるメンバーが結集する和文化教育研究会が、学校に入れていく中身と方向を具体で示す。


復刊時予価: 3,245円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-148716-4
ジャンル:
総合的な学習
刊行:
対象:
小・中・他
仕様:
A5判 256頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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目 次
まえがき /中洌 正堯
T 出風が吹き出した和文化教育
1 「和文化」への羅針―祭を通して― /山折 哲雄
(1) 「ぎをん」
(2) 葵祭
(3) 祇園祭
2 和文化領域の海図 /河内 厚郎
(1) 古典芸能復権の背景
(2) 渡来楽器三味線が果たした役割
(3) 世界の中の和文化の位置
3 文化創造としての和文化教育の出航 /中村 哲
(1) 和文化教育の帆揚げ
(2) 和文化教育の航行
(3) 和文化教育の操船
4 和文化教育の航跡と意義 /安部 崇慶
(1) 和文化教育における稽古―その内容と方法―
(2) 和文化教育における「時」と「機」
(3) 和文化教育の意義
5 理想的な新音楽教育へ,出発進行!―“和楽器”登場の意味とその周辺 ― /茅原 芳男
(1) 歴史的な大改革?
(2) これまでの取り組み
(3) 学習指導要領の和楽器関連について
(4) 今後の課題
6 外国人の目から見た日本の学校武道教育 /アレキサンダー・ベネット
(1) 武道との出会い
(2) 学校武道
(3) 武道の教育的可能性
(4) 武道教育の諸問題
(5) 武道教育への提言
U 和文化教育の実践をする
教科指導での場づくり
1 筆先で確かめよう,しなやかな日本の文字文化―熊野の筆が作り出す世界― /小竹 光夫
(1) 毛筆と日本の文字文化
(2) 実践の流れ
(3) 具体的実践の流れ
(4) 発展の可能性を求めて
2 半蔵の「からくり人形」機巧に迫るものづくり /安東 茂樹 /小栗 一彦
(1) 昔からの知恵やくふう
(2) いろいろな「からくり人形」の実践
(3) 中学校技術科教育における「茶運び人形」の製作
(4) 和文化の「からくり人形」を取り入れた学習
3 「じゅうどうあそび」による体ほぐし /永木 耕介 /松下 健二
(1) ベースとなる「柔道」とは
(2) 今,求められる「体ほぐしの運動」
(3) 柔道の理念と体ほぐしの運動
(4) 「じゅうどうあそび」の実践と児童による評価
4 土佐弁を用いた英語教育の実践―日本語にもある現在完了形― /島 英幸
(1) ことばとして感じる英語教育
(2) 外国語を学んで日本語を改めて知る
(3) 好運な高知の人々
5 歌舞伎衣装にアイヌ文様の摩訶不思議 /鈴村 克徳
(1) アイヌについて
(2) アイヌ文様について
(3) 指導の実際
(4) 和文化学習の意義
特別活動での場づくり
1 琴線に触れる箏曲指導 /松下 健二
(1) 底冷えの三田丘陵に流れる箏曲の「音」
(2) 創部はとびこみ・おしかけから
(3) 箏で西洋音楽
(4) 行儀がすべて
(5) 音は人品をあらわす,心で弾く
(6) 日本文化の根づき
(7) 芸道は一途になること
(8) 技は自分でのばす
2 日本鶏「播州柏」の飼育から郷土芸能「鶏合わせ」の復活へ―兵庫県多可郡中町立中町南小学校― /有吉 研治
(1) 地域
(2) 日本鶏「播州柏」と「鶏合わせ」
(3) 実践
(4) 成果と課題
3 伝統芸能「播州歌舞伎」を学ぶ子どもたち /井上 文夫
(1) 播州歌舞伎ここにあり
(2) 播州歌舞伎の歴史
(3) 実践
(4) 播州歌舞伎に光あれ
総合学習での場づくり
1 蒼天にひびけ!「うれしの太鼓」―平成14年度「青組うれしの太鼓づくり」の実践から― /渡 信雄
(1) 本校のうれしの太鼓について
(2) 青組うれしの太鼓の実践例
(3) 実践をふりかえって
(4) 子ども文化の継承・創造
2 丹波焼を生かしたサギソウ鉢づくり―兵庫県篠山市立今田小学校― /永田 敏彦
(1) 自然豊かな,丹波焼の里,今田町
(2) 「サギソウ復活大作戦」の位置づけ
(3) 地域の伝統文化を取り入れた実践
(4) 地域との交流,地域への発信
(5) 本実践の意義
3 子どもが創る「ごこんさん祭」―総合的な学習」における和文化創造― /佐藤 真
(1) 京都・伏見南浜とごこんさん(御香宮)
(2) ごこんさん祭と子どもたち
(3) 和文化創造としての「みなみはま学習(総合的な学習)」の単元「祭の町,南浜」
(4) 子どもと祭文化
保育指導での場づくり
1 童謡の「うさぎ」の踊りをみてみると…… ―幼稚園における日本舞踊の実践事例から― /畑野 裕子
(1) 学校教育における「ダンス」とは?
(2) 鑑賞学習場面・教材を設定するために
(3) 「うさぎ」を演目に
(4) 「うさぎ」の踊りの実演
(5) 「うさぎ」の踊りをみた後で
(6) 伝統的芸術と日本舞踊の展望
(7) 学校で実施する際に留意することは?
2 和太鼓の響きを身体で感じる―保育園での実践から― /名須川 知子
(1) 幼児と和太鼓の出会い
(2) 保育園での和太鼓の実践経過
(3) 太鼓の響きを身体で感じる
(4) 幼児にとっての和太鼓の意味
地域交流活動での場づくり
1 郷土に根付いた淡路人形浄瑠璃―地域・学校による民俗芸能の発展的伝承(兵庫県淡路島)― /田中 悠美子
(1) 淡路人形浄瑠璃の歴史
(2) 淡路人形座の後継者養成
(3) 各後継者団体について
(4) 後継者団体発表会の舞台
(5) 南淡中学校のお稽古風景
(6) 三原中学校のお稽古風景
(7) 地域・学校による和文化伝承の意義
2 「壬生狂言」ニュージーランドの初舞台 /滝脇 隆一
(1) 舞台の地――ニュージーランド・オータキ
(2) 初舞台に立つまでに
(3) ニュージーランドでの初舞台
(4) ニュージーランドでの上演を終えて
(5) 狂言と学校教育のつながりを求めて
3 無形文化財「猿舞」の自作上演による地域交流 /大畑 健実
(1) 地域の文化を学ぶ教材づくり
(2) 「猿舞」の教材化と単元構想
(3) 学習活動の展開と子どもの姿
(4) 実践の成果と今後の課題
V 和文化教育の役立つ情報
1 和文化教育のウェブサイト開発 /齋藤 裕磨 /鈴木 正敏
(1) 「和文化教育の風」ウェブサイト開発の目的
(2) 「和文化教育の風」ウェブサイトの構成
2 和文化教育関連のウェブサイト情報 /菅原 弘貴
(1) 和文化関連総合検索サイト
(2) 和文化関連領域サイト
3 和文化教育関連の授業実践情報 /中村 哲
(1) 授業実践情報の概要
(2) 授業実践情報の一覧
あとがき /中村 哲
執筆者一覧

まえがき

 飾北斎の富嶽三十六景の一つ「神奈川沖浪裏」について,「鎖国を超えた目がある」と道破したのは,詩人の長田弘です。これは,鶴見俊輔,なだいなだ,山田慶兒との座談会で,季語の「台風」を話題にしているときの発言です。山田慶兒は,気象学の本から,「台風のさいのものすごい逆巻く波。こういう波を表現できたのは,日本の浮世絵画家だけだ」という情報を紹介しています。これらの発言(『歳時記考』岩波書店,1997)には,はっとさせられました。この見方によって,北斎の絵がにわかに生動してくるのを感じました。文化の再創造です。

 このたび,『「和文化の風」を学校に』が出版の運びになったことをお聞きしたとき,「風」の持つ象徴的な意味も手伝って,すぐに思い浮かんだのが,北斎の絵をめぐる上記の文化論でした。


      ※


 本書の前に,専門大学院の調査検討に関する学長補佐体制のワーキングによって,『文化創造指導者の養成を目的とする大学院構想案』がまとめられました。本書は,さらに進んで,和文化を形成する個々の領域における具体的な論述であり,しかも全国版として公開されることになりました。学校をはじめ教育の現場へ“和文化の新たな風”となることが大いに期待されます。

 問題は,「新たな風」とは何かです。和文化の世界が,長田弘の言葉を借りれば,「鎖国を超えた目」をもつにはどうするかです。

 和文化の世界は,伝統と創造という命題を背負っています。伝統はとかくに,黴臭く淀んだ空気の中にあると見られがちです。あるいは,放置されて風化作用を起こしていると思われがちです。和文化の理解から遠ざけられてきた人たち,和文化をある程度理解しつつ遠ざかっていった人たちに,新風を感じさせ,創造に向かわせるには,相当の努力と工夫が必要です


      ※


 かつて,教育実践の視点から日本の近・現代の過去と現在と未来を見通し,私案として,国語教育における「風土記的方法」「歳時記的方法」を提唱しました。今もその考えの基本は変わっておりません。その趣旨は,子どもたちが聞いたり,読んだり,話したり,書いたりすることの内容と方法に,先人たちが風土記や歳時記と称して記録してきたことの内容と方法を取り込みたい,そのことによって,日本の風土に生きる子どもたちに,生活を回復・再生させ,生活を創造していく精神と技術を身につけさせたいというものでした。これがそう簡単に実現しないのは,大人たちの「今を昔に返すことはできない,もう引き返せない」「昔なつかしいもの,ノスタルジーは感じる」「現代の日本では季節感はなくなっている」等の感想が,新たな風にとっては思った以上の障壁(屏風)となっているからです。

 伝統と創造の命題から,もう一つ考えておきたいことがあります。それは,「和文化」と対をなすもののことです。近代の常識ではやはり「洋文化」でしょうが,今日ではもはや「異文化」のほうが意義深いと考えます。文化の相対性ということがあります。これまでは,和洋折衷とか,和魂洋才とか,日本文化の雑種性などが話題になってきました。これからの「和文化」は,「異文化」に対するスタンスがだいじです。和文化を体験し,異文化を知るほどに,真に「和文化」が見えてくる,「鎖国を超えた目」をもつとはそういうことです。それがまた,新たな風を呼ぶことになります。


  平成15(2003)年4月   兵庫教育大学学長 /中洌 正堯

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