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「経験の極端な事例と現実世界の限界」
教育界には「経験主義」対「系統主義」という伝統的な対立構図があります。
進歩主義的な教育に多いのが「経験主義」の教育で、子どもの「経験(興味・関心)」に基づく授業を行うことをその原理に据えます。授業は学習者の興味・関心に寄り添い、出発点にすべしと考えます。
一方の「系統主義」は、経験依存では子どもの他愛もない興味・関心に引きずられて、本来の学ぶべき内容に辿りつけないと考えます。授業は学問の系統を研究して粛々と教えていくべきであると考えるのです。
この大きな対立に、カナダの教育学者キエラン・イーガンは「経験の極端な事例と現実世界の限界」という珍しい用語を立てます。
「人は新しい環境に置かれると、その環境の限界を探り、その際立つ特徴を知ろうと懸命になる。これは理にかなった戦略である」。
子どもも10歳ぐらいからこうした戦略をとり始めるようになるといいます。たとえば、読み書き能力を新たに身につけた児童生徒がよく夢中になるものの一つが、「ギネスブック」に掲載されている話題です。世界で一番背が高いのは誰か、一番背が低いのは誰か、一番毛深いのは誰か、一番爪を伸ばしているのは誰か、などなどなど…。
学習ゲームアイデア「画数の多い漢字を探せ!」
子どもたちに「世界一画数の多い漢字を知っている?」と聞きます。
みんな興味津々の顔。少しもったいをつけてから黒板に「」と書きます。
「これが世界で一番画数の多い漢字です」と言うと、子どもたちは「へ〜っ」となります。「64画です。テツ、または、テチ、と読みます。あれやこれや口数の多いこと、という意味の漢字です。諸橋轍次という人の編集した『大漢和辞典』という本に載っています。この本は現在、世界最大の漢字辞典で、本家の中国でも利用することが多いといいます。だから、その本に載っているコレが世界一画数の多い漢字になります」
この話を導入にして以下の漢字遊びを開始します。(上條創案ゲーム・ネットワーク編集委員会編『ことば遊びの授業大集合』より)
- 画数の多そうだなという漢字を、各自ノートに次々と列挙します。
- 画数をあとで数えるのは大変です。ノートに漢字を書く時に、右に小さく画数を書いておきましょう。
- 10分間、書き続けます。10分たったら、「止め」と言います。(各自、本を1冊用意させて探させてもよい)
- 列挙した漢字のうち、画数の多いもの3つに赤丸を付けます。赤丸を囲んだ3つの漢字の画数の合計を出します。この合計点を競います。
- 各グループから、合計点の多い人に発表してもらいます。
質問がないかを確かめてゲームを開始します。10分後、グループで一番画数合計が多かった子に発表してもらいます。言偏の漢字が画数が多いというようなことがわかります。時々、信じられないような難しい漢字が出てくることがあります。
「未知」と「極端」が生み出す学びのしかけ
教育界の伝承の一つに「子どもがすでに知っていることから始めるとよい」という説があります。しかし上記のそれはそうなっていません。むしろ、知らないことから始まっています。
10歳ぐらいの子どもたちは「世界」について根本的な不安を持ち始めます。すると「現実の限界(境界)」周辺の出来事に関心を示し始めます。上記「画数の多い漢字を探せ」(特にその導入)は、そうした子どもたちの関心を土台にしています。10歳ぐらいの子どもたちが妖怪やお化けに興味を示すのと似ています。
こういう「極端な事例」への関心は、子どもの「世界」探求の現れでもあります。その一番の根っこには、世界を意識し始めた子どもの不安があります。
ちなみに上記の「」はギネスブックに登録されているそうです。しかしネットなどで調べると、これより画数の多い漢字が様々に出てきて、関心の根深さがうかがい知れます。