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読者の皆様には、「主体的に学習に取り組む態度」の指導と評価についての「考察のための問い」を持って本書を読み進めていただきたいと思います。例えば、教師は、子どもが主体的・能動的に学習の取り組むことを支援する指導をどのように行えばよいか。また、子どもの学びへの関わり方の評価について、何を対象・内容として、いつの時期に、どのような評価規準を設定し、何を素材として、どのような方法で行うのか、といった問いです。そのような問いを持って本書を読み通していただく中で、「主体的に学習に取り組む態度」を身に付けた子どもの姿を具体的にイメージしながら、その学習評価についての考え方と実施に向けた見通しを持っていただけるものと思います。
子どもに「主体的に学習に取り組む態度」が育つためには、「学習目標をつかむ⇒社会的な見方・考え方(視点や方法)を働かせる⇒学習問題(問い)の設定⇒思考(考察)・判断(構想)・表現(説明・議論)⇒概念的知識や能力の習得と活用」と流れる学習過程に子ども自身が能動的に関与することが大切であると考えます。 この学習過程は、「主体的・対話的で、深い学び」の過程そのものです。教師には、このような学習過程を単元として構成するとともに、子どもに、単元の学習の見通しと自己効力感(「自分でもやればできる」といった気持ち)をもたせる指導の工夫が求められます。
「主体的に学習に取り組む態度」の評価規準を作成するためには、まず評価の対象となる観点を明確にしておく必要があります。本書では、「感情」「認知」「行動」「協働」の4つの観点を立て、次のように説明しています。
【感情】学習に対する興味・関心や自己効力感
【認知】自己の学習目標と結んだ学習課題の明確化とその解決の方略及び過程に対する見通し、振り返り、調整
【行動】学習に対する努力と粘り強い取り組み
【協働】学習における仲間や教師との自律的な関わり合いや協力、助け合いの関係の構築
評価規準は、こうした4つの観点を踏まえながら、単元の構成や学校・子どもの実態等に即して具体的に作成していくことになります。
先の質問に応じて、「主体的に学習に取り組む態度」の評価観点として、「感情」「認知(自己の学習の見通し、振り返り、調整)」「行動」「協働」の4つの観点を指摘しました。これらの観点による評価方法としては、主にパフォーマンス課題に基づいて展開する学習により得られるワークシートへの記述や発言、ノートやレポート、作業的活動とその成果を示した作品、発表等を用いることが考えられます。主に質的な評価資料に基づくパフォーマンス評価を行うためには、数段階の採点指針である「評価基準(ルーブリック)」を適切に設定する必要があります。また、教師による評価活動だけでなく、子どもの自己評価や相互評価を促すツールの開発も求められます。
まず、単元として学習計画を立てることの重要性をあらためて強調したいと思います。評価計画を立てる場合には、単元全体を貫く学習問題と学習内容を構想し、それらと結んで小単元(いくつかの学習パート)ごとに「思考・判断・表現」と「知識・技能」を学習過程に位置づけワンセットで評価規準を作り評価を実施することが大切です。「主体的に学習に取り組む態度」の評価は、単元の学習の導入及び小単元のまとめで子どもの学習の自己調整を促進する支援・助言・改善に向けた評価をしながら、単元の学習の終わり等での評定のための評価を適切に組み込み、比較的長い時間のスパンで実施することが適当であると考えます。
内容教科である社会科では特に、教師が思考・判断した結果として望ましいと考える内容(知識)を教える授業が一般的であったでしょう。「主体的に学習に取り組む態度」の指導と評価のあり方を検討することは、必然的にこうした指導スタイルの転換についての議論を促すことになるでしょう。子どもが自らの思考・判断のプロセスと獲得した知識を自らの言葉で説明し、教師と子ども、子ども同士が相互の対話を通じてブラッシュアップしていくような学習が求められています。本書を契機に、子どもの主体的・能動的な学習のファシリテーターとしての教師の役割と実践力について、読者の先生方による議論が活発になることを期待しております。