著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
思春期の子どもたちとの信頼関係づくりは、「信頼関係づくりの学校」
上越教育大学教職大学院教授赤坂 真二
2015/7/23 掲載
 今回は赤坂真二先生に、新刊『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』について伺いました。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院准教授。学校心理士。「現場の教師を元気にしたい」と願い、年間約100回の講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。主な著書に『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル 小学校編』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル 中学校編』『自ら向上する子どもを育てる学級づくり 成功する自治的集団へのアプローチ』『クラス会議入門』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『スペシャリスト直伝!学級づくり成功の極意』『赤坂真二―エピソードで語る教師力の極意』(以上、明治図書)などがある。

―本書は「学級を最高のチームにする極意」シリーズの第5弾として、テーマは「思春期の子どもとつながる学級集団づくり」です。本書のねらいと読み方について、教えて下さい。

 思春期の子どもたちとの関係づくりは得意ですか。少しでも、難しい思いをしたことがある方や、ちょっと苦手意識のある方にはおすすめです。
 本書は理論編と実践編から構成されます。
 理論編からは、思春期をどうとらえ、どのように子どもたちに寄り添うことが適切なのかについて方針を述べました。
 実践編では、「@思春期の指導において大切にしていることA思春期の具体的指導B思春期指導の極意」の3つの視点からそれぞれの執筆者の具体的な取り組みを述べました。その考え方を参考にしてもいいし、方法論を参考にしてもいいです。活用の仕方は様々です。
 松下崇、松尾英明、飯村友和、長崎祐嗣、山田将由、永地志乃、近藤佳織、白根奈巳、堀川真理、久下亘、山本宏幸、大谷啓介(敬称略)の小中学校の精鋭たちが縦横無尽に渾身の実践を紹介しています。確かな考えに基づき、具体的な実践を展開しています。

―思春期の子どもたちとの関係づくりは難しいと言われます。「思春期の子ども特有の難しさ」とはどういったものでしょうか。また、多様で不安定な子どもたちにどう向き合っていくべきなのでしょうか。

 思春期の子どもたちには、強制やごまかしは利きません。強制をすれば抵抗し、ごまかせばすぐに見破ります。思春期の子どもたちは、ルールに志向ではなく、理解志向なのです。つまり、規則や約束事で行動を選択するのではなく、自分を理解してくれる人の言うことを尊重し、それに基づき行動を選択するのです。思春期の子どもたちは、信頼関係のある人の言うことを聞くわけです。
 反抗的な行動や、小学校の高学年の女子によく見られる特徴的な行動などにも、理由があります。その理由を理解しようとすることが信頼関係をつくる最初の一歩です。

―思春期の子どもについては、男子と女子の間で大きな差があります。そのような「性差」については、どのように考えていくべきでしょうか。

 例えば、私的グループの形成においては、男子は、趣味や運動などの特定の目的を集団を形成する傾向をもち、女子はグループ化することそのものが目的であることがあります。攻撃的言動においては、男子は、暴言や暴力など見えやすい形で行われ、女子は、匿名の嫌がらせなど見えにくい形で行われるなどと言われます。
 しかし、そこにはその行動に隠されたメッセージがあります。思春期の子どもたちとかかわりや指導においては、性差そのものよりも、性差を含めた自分をどう受け止めているかに着目した方が効果的でしょう。問題行動場面を考えれば、成長から問題行動が起こるのではなく、成長に伴う自己認識の不具合から起こっていると考えられます。

―年度はじめに関係づくりに失敗して、その後1年間関係が悪化したまま〜のようなケースも少なからずうかがうことがあります。一旦崩れてしまったところから立て直すことは出来るものでしょうか。立て直しの考え方・ポイントなどがあれば教えて下さい。

 関係性の不具合は、大抵コミュニケーション不足から来ると思われます。そこからちょっとした誤解が、不信感に育ち、気付いたときにそこからちょっとした誤解が、不信感に育ち、気付いたときには関係性が悪くなっていることがあります。
 関係性が崩れてしまったときに、教師が諦めたらまず関係が修復をすることはないと思った方がいいでしょう。諦めずに会話を試みることです。そして、一対一で、互いの気持ちを伝え合う時間をとることがもっと有効な立て直しの方法です。

―思春期の子どもたちは、指導が難しいというだけではなく、出来ることが増え、主体性が出て来る時期でもあります。子どもの「やる気」を引き出す工夫、自主性を育て、力をつけていく取り組みがあれば教えて下さい。

 子どもたちの主体性を育てるには、子どもたちに決定権を委ねることが大事です。何かこれだけはというトピック的な取り組みではなく、教師のリーダーシップを教示的なリーダーシップから、委任的リーダーシップに変換することが有効です。
 様々な活動を子どもたちに委ねてみたらどうでしょうか。「〜しなさい」「〜してください」ではなく、「〜してくれないかな」と依頼してみたらどうでしょう。日常的に「この問題は、先生だけではとても解決できないからみんなの力を貸して欲しい」と、問題解決を子どもたちに依頼できるような学級集団にしたいものです。

―思春期の子ども達は、行事や部活・クラブ活動など、集団で取り組むことも増えてきます。ただでさえ不安定である思春期の子ども達をまとめ、集団として機能させていくポイントは何でしょうか。

 まとめようとする発想を捨てることから始めます。子どもたちは、集団のなかに居場所を見つけることができたら、その集団に貢献しようとします。それは私たち大人も同じことです。まとめようとするのではなく、学級、学校、クラブ、部活など所属集団を好きになるようにします。そのために、互いに認め合う場や感謝される場面を設定するようにするのも一つの方法です。

―最後に、読者の先生方にメッセージをお願いします。

 思春期の子どもたちは、教師としては指導が難しい存在なのかもしれません。しかし、彼らの苛立ちや不安定さは、彼らの本音から出てくるメッセージでもあります。そうした感情に寄り添うことで、確かな信頼関係を築くことができるでしょう。
 思春期の子どもたちとの信頼関係づくりは、一筋縄ではいかないからこそ、「信頼関係づくりの学校」とも言うべき、学びの宝庫なのです。思春期の子どもたちとつながる過程は、教育のプロとしての力を付ける貴重な機会なのです。

(構成:及川)

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