著者インタビュー
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図形教材の原典『原論』から教材研究を深めよう!
三重大学名誉教授上垣 渉
2014/7/17 掲載
 今回は上垣渉先生に、新刊『数学史の視点から分析する 中学校数学 重要教材研究事典 図形編』について伺いました。

上垣 渉うえがき わたる

三重大学名誉教授 岐阜聖徳学園大学教授
1948年 兵庫県生まれ
1972年 東京学芸大学大学院修士課程修了
著者に、『数学大好きにする“オモシロ数学史”の授業30』『中学校 和算でつくるおもしろ数学授業』『数学史の視点から分析する 中学校数学 重要教材研究事典 数と式編』(すべて明治図書)ほか

―本書において重要な位置を占めているユークリッドの『原論』とは、どのような書物なのでしょうか。

 紀元前300年ごろに,古代ギリシアの数学者ユークリッド(ギリシア語読みでは,エウクレイデス)が編纂した全13巻の書物で、書名はギリシア語読みで『ストイケイア』といいますが、日本語では『原論』と称されています。
 この書物には、紀元前600年ごろから蓄積されてきた数学的探究の成果がまとめられていて、平面幾何学、比例論、数論、立体幾何学、求積論など多くの内容が収録されています。また、公理的・演繹的に体系化された世界最初の書物でもあり、その後の数学の典型とされました。

―それでは、中学校の図形教材と、この『原論』の関係について教えてください。

 現在の中学校の図形教材の多くは、『原論』第1巻(全部で48個の命題)に収録されています。例えば、二等辺三角形の底角定理は命題5、三角形の内角和の定理は命題32、ピタゴラスの定理(三平方の定理)は命題47、その逆は命題48、となっています。また、円に関する内容は第3巻、相似形に関する内容は第6巻で扱われています。
 このように、現在の中学校の図形教材の多くの原型が『原論』に収録されており、教材研究の重要な参考文献なのですが、公理に基づく演繹的な展開となっているため、直観的な教え方を余儀なくされる中学校段階の指導方法を考えると、「各教材の論理的連鎖を知る」という視点からとらえる必要があります。

―本書で取り上げられているのは、基本の作図や立体の切断、星形多角形の角の和など、どの教科書でも扱われているような定番の教材ばかりです。そういった教材で、普段よりも一歩踏み込んだ授業をしたいと考えたとき、どのように扱えばよいでしょうか。

 教科書での基本の作図は直観的な扱いにならざるを得ませんが、それで事足れりとするのではなく、論証的な確認の必要性を意識させるような扱い方が必要です。基本の作図に限らず、教科書での図形教材の扱い方は、一歩踏み込んで考えれば、論理的には循環論法に陥る危険性を孕んでいますから、3年間の図形教材の論理的関連をよく検討したうえで指導にあたる必要があります。また、星形多角形の角の和では、星形五角形に限定せず、より一般的で発展的に考えさせるような指導が望まれます。本書は、そうした一歩踏み込んだ授業を展開するための糧をたくさん提供していると自負しています。

―最後に、読者の先生方に向けてメッセージをお願いいたします。

 図形の教材は、数と式の教材と比べて、好き嫌いが大きく分かれると言われます。その原因の1つは、図形の内容が複雑に絡み合っていることにあります。したがって,ある事柄を証明するとき、何を用いてよいのかということに不安感を抱くことになりかねません。基本的には、「知っていることは何を用いてもよい」という姿勢で対処すべきであり、生徒が用いた内容の論理的適否を、教師は頭の中で吟味しなければなりません。このとき、「授業でまだやっていないからダメ」などと言うと、生徒は萎縮してしまいます。教材相互の論理的関連を念頭に置きつつ、生徒の自由な考え方を適宜に制御する指導力が教師には求められていると戒めなければならないと思います。

(構成:矢口)
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