- 高学年担任の指導の極意
- 学級経営
宇野弘恵直伝! 今月の極意
高学年担任が難しい時代になりました。授業時数の多さ、人間関係の複雑化など、物理的にも精神的にも教師への負担は大きくなるばかりです。
しかしながら、低学年担任には味わうことができない醍醐味が高学年担任にはあります。思春期真っただ中、子どもから大人へ脱皮する様を見守りながら、共に笑い、悩みながら成長できる楽しさがあります。
そんな1年間に思いを馳せながら、新年度準備を行いましょう。
高学年担任の難しさを心得る
高学年担任の難しさは大きく2つあります。1つは授業準備に時間がかかることです。低学年時は、国語、算数、生活、図工、音楽、体育、道徳、学活の7つについての準備が必要です。高学年では、生活が減り、理科、社会、保健、家庭科、英語、総合的な学習が増え、数だけで比べてみても5つも多くなっています。単純に数が多いというだけでも大変で、仮に一教科30分(この時間の是非はさておいて)かかるとして、低学年なら210分(3時間半)、高学年なら390分(6時間30分!)時間を要するわけです。内容も複雑化し難易度も上がっているわけですから、準備が大変なことは想像に難しくないと思います。専科制度のない地域では空き時間がありませんから、休憩時間突入ぎりぎりに授業が終わったそのあとに準備を行う大変さも加わります。
もう1つは、人間関係が複雑化することです。思春期に差し掛かったこの時期は、自我を獲得する時期と言われています。「自分とは何ぞや」という大きな命題の元(当人たちは無自覚でしょうが)、他者や社会とのかかわりの中で「自分らしさ」を獲得していきます。いわゆる「親離れ」の時期に生じる心理的不安のバランスをとるために、思春期は友達との密着度が高まっていきます。かつては「世間はわかってくれない」「大人はわかってくれない」という共通の「壁」が存在し、同年代の友人と徒党を組む必要性も安心感も自然と湧きました。しかし、子どもが過剰に守られる現代、こうした関係性、構造が壊れているように思います。あるいは、SNSで24間ずっとつながっている状況、SNSで常に「裏」を気にしなくてはならない現状が拍車をかけ、誰とどのくらい密着すればよいのかが難しくなっています。そうした意味で、思春期の人間関係はかなり複雑化し、問題解決も難しくなっていると言えるでしょう。
高学年担任の醍醐味
しかしながら高学年担任には、高学年担任ならではの楽しみもあります。低学年と違い大人の話が通じますし、大人のテーマを共に考えたり話したりすることもできます。行事や学習などを自治的に行える力も高まっていきますし、広い視野で課題解決に取り組むことも可能です。学校の中心的な役割を担って行事に参加することも多くなります。共に創造して行く喜び、大人になっていく様を見つめる喜び、何より人間対人間の営みの中で生活する楽しみがあります。これぞ、高学年担任の醍醐味であると思います。大変だ、面倒だと敬遠されやすい高学年担任ですが、教師自身が楽しみながら生活したいものです。
新年度の見通しをもとう
@仕事の全体像をつかむ
高学年担任が決まったら、まずは全ての仕事を洗い出します。春休みは期間が短く始業式まで時間がありません。全体像をつかみながら効率よく仕事をしたいものです。
まずは、日程の確認です。春休み中の日程をすべて打ち出し、準備可能な日数はどのくらいあるか、会議など拘束される時間はいつどのくらいあるかを書き込みます。これで、どのくらいの時間が自由に使えるのかの見通しが立ちます。
これが終わったら、次は全ての仕事を書き出します。書き出すものは大きく二つ。名簿や掲示物など実際に作成しなくてはならないものと、1年間の指導方針や授業方針など実際に動くために決めておかなくてはならないものです。
書き出した仕事リストの優先順位を考え、スケジュール表に書き込みます。前日は確認の一日となるよう、余裕をもって組むことが大事です。そして、「発注」「作成」「確認」の責任の所在が誰にあるのかを明記し、「いつまでに」という期限を明記しておくと仕事の漏れを防ぐことができます。
スケジュール表は学年で共有します。できあがったら学年団で話し合い、加除修正をします。スケジュール表はみんなが見える場所に掲示し、完了するごとに消していきます。忘れているものや滞っているものはたがいに声を掛け合って進めます。
A実働の前に、スピリッツを共有する
新年度準備と言えば多くの仕事をこなすことに目が向きがちです。遅れなく準備することは大切ではありますが、実働の奥にある「なんのために」「だからどんな風に」がなくてはいけません。全ての教育活動は、どんな子どもに育てたいからこんな指導や方法が必要だという「スピリッツ」のもとに行われるべきと考えるからです。
実務を行う前に、まずは学年団で、学校教育目標に鑑み、どんな子どもを育てるかについて話し合います。そのためには、どんな子がいてそれまでどんな学年集団だったかを把握しておくことも必要です。過去の情報を交流しながらよさや課題を共有し、1年間で目指す「子ども像」を考えます。音声言語だけではなく、紙やホワイトボードに書き込みながら話すと思考が可視化されるばかりか、後々まで情報が残るというメリットが生じます。思考の過程や決定事項はそのまま残し、目にしやすいところに全員が保管します。学年経営に迷ったとき、生徒指導に自信がなくなったとき、最初の指針に立ち戻り方向性を確認することに役立ちます。
方針が固まったら、次は、どう子どもと関わるかを具体的に話し合います。「まずは自信をもたせよう」「そのために、できたことをフィードバックしよう」など、自分たちの具体的な指導の姿を共有することが肝要です。
B実務は効率よく行う
自分が分担したもの、学級担任しかできないものはすきま時間を見つけて効率よく準備します。公的書類(指導要録、健康診断表、歯科検診表、出席簿、生徒名簿、名前印、保健調査票、健康手帳、家庭環境調査票など)は、校内の慣例に従ってどんどんこなせる仕事です。また、掲示物なども何をつくるかさえ決まっていればすぐに取り掛かれるものです。学級、学年通信も早めにでき上がっていると安心です。これらは、あまり手間をかけずに行える仕事です。
最初に手間をかけることで、後の手間を軽減できる仕事もあります。教室経営を例に挙げます。教室に何をどのように掲示するかは「スピリッツ」に関わることです。行き当たりばったりではなく、計画的に掲示したいものです。また、できれば美しく、できれば教師ではなく子どもたちの手で行わせたいものです。そのために必要なのが、すべての壁面の採寸です。
まずは教室掲示の計画を立てます。
どこに何を貼るかは教師の教育観ですから、例示のものが必ず良いわけではありません。私の場合は、学習ゾーン、成長が俯瞰できるゾーン、子どもの創造性が発揮できるゾーンとわけました。それらをどんな大きさにするかは、「壁の幅÷枚数」で決まります。掲示物同士のすきまも考えて計算すると、等間隔で掲示することができる掲示物の大きさが決まります。こうしておけば、スムーズに掲示することができますし、何度も貼りなおす必要もありません。子どもたちが貼ってもきれいに貼ることも可能です。大幅な時短となります。ちなみにこれから貼る予定のところにも小さく印を打っておくと、同様の効果を得ることができます。
C残した時間で授業の準備
短期的準備と長期的準備を行います。
短期的準備は始業式から3日間の詳細。学級開き、授業開きの他、係や当番のおろし方などもこれに含まれます。いずれも自分が何を大事にし、どんな力をつけたいと思っているか、そのためにどんな方法論を考えているかということが伝わることが肝要です。単なる面白おかしい導入ではなく、知的でありながらユーモアがあり、規律と自由が同時成立するような中身であることが大事だと思います。
長期的準備は、各教科と行事の見通しをもつことです。教科については、年間指導計画と教科書を見ながら、いつどんな単元があるのかを確認します。単元自体の難易度と自分の得手不得手とに鑑みながら、多くの準備が必要となりそうなものと時期を書き出しておきます。できれば、どんな準備が必要となりそうかの見通しも持っておくといいでしょう。
行事については、昨年の高学年がどんな動きをしていたかを確認します。実務的な準備を把握するほか、それまでにどんな力をつけておく必要があるかについても考えます。その力をいつどこでどのように養っていくかを考えることは、1年間を見通した学級経営を行うことにつながっています。
今月のまとめ
- 高学年担任の大変さだけではなく、愉しみにも目を向けよ。
- 春休みの仕事は効率的に。仕事の全体像をつかむことが肝。
- 短期的、長期的に仕事を見ることが、1年間の学級経営を見通すことになる。