「単元を貫く言語活動」ここが知りたいQ&A
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水戸部先生に聞く!「単元を貫く言語活動」Q&A (5)
子供の読みのエネルギーを生かす!個に応じた単元を貫く言語活動
文部科学省教科調査官水戸部 修治
2014/8/13 掲載

1学期の授業では、「本の紹介リーフレットで、心に残る登場人物の気持ちの変化を説明しよう」という単元を貫く言語活動にチャレンジしてみました。子供たちは一生懸命取り組みました。でも、言語活動をすると個人差が大きくなってしまって大変でした。これから取り組む単元では、どんな配慮をしたらいいのでしょう。

授業づくりは一歩一歩ゆっくり、でも、確実に進めることが大切です。言語活動を位置付けたけれど、次の課題が見えてきた―それは授業改善にとって、とても大切なことなのです。
 言語活動を行うと個人差が大きくなる―そうした実感をもっているのですね。でも、これまでの子供たちには読む能力について、個人差はなかったのでしょうか。そんなことはありませんね。一人一人の読みを表出する言語活動を取り入れたので、これまで見えにくかった個人差が顕在化してきたのです。むしろそうした状況でこそ、個に応じた手立てが打ちやすくなるのです。基本的には次のようなステップで進めていくこととなります。

Step1 指導のねらいをはっきりさせる。
Step2 指導のねらいに照らして、言語活動を行うことで見えてくる個々の子供の状況を把握する。特に、どんなところで個人差が出てくるかを注意深くつかむ。
Step3 個に応じた、言語活動を行うための手立てを取る。

1学期の実践を振り返ると、子供たちは、教科書教材ではリーフレットがつくれるのですが、自分で選んだ本で変化をとらえる段階で、個人差が大きくなっていました。どんな手立てを取ればいいのでしょう。

まず、指導のねらいを見てみましょう。

ウ 場面の移り変わりに注意しながら、登場人物の性格や気持ちの変化、情景などについて、叙述を基に想像して読むこと。

の、「登場人物の気持ちの変化」を主体的に把握することが単元の指導のねらいとなります。
 「登場人物の気持ちの変化」は、絶えず変化して描かれることが多いものです。そのため、「気持ちが変化するところに線を引いてみましょう」だけでは、子供たちが主体的に思考・判断して読むことが難しくなってしまいます。
 また、「変化」をつかむわけですから、場面ごとに読み取らせるだけでは、どの変化に着目して読むかも判断しにくくなってしまいます。さらに、「この教材ではこの人物のこの気持ちの変化をとらえさせるのだ」と全員に同じ変化をとらえさせるだけでは、自らが選んだ作品を読む際に、活用可能な能力にはなっていきません。
 指導のねらいを踏まえると、最も重要な個に応じた手立てとして挙げられるのは、子供自身が自分の心に響く、登場人物の気持ちの変化をとらえることができるようにすることなのです。すなわち、「本の紹介リーフレットで、心に残る登場人物の気持ちの変化を説明しよう」という単元を貫く言語活動を位置付けること自体が、子供一人一人の読みを生かす、個に応じた重要な指導の手立てでもあるのです。

子供が主体的に「登場人物の気持ちの変化」をとらえることの重要性はよく分かりました。でも…、教科書でそれを学んでも、あとで自分の選んだ本でそうした読む能力を発揮しようとする際、それをどの子もできるかどうか、ちょっと不安です。何かよい工夫はありませんか。

通常の指導過程ですと、いわゆる第三次の、自分で選んだ本の紹介に向けて、第二次では、教科書教材を使って、読みのポイントを使いこなせるようにしていくのですが、第二次と第三次のインターバルが長くなると、うまく使いこなせない子供も出てきますね。そこで、さらに子供の読みのエネルギーを生かす方法として「入れ子構造」による指導過程の工夫があります。

図

 教科書教材を主に読む、第二次の単位時間内に、並行読書を生かして、自分の選んだ本を読む時間を入れ込む工夫です。こうすると、自分で選んだ本の読みをスモールステップで進めていくことができ、個に応じた指導もとても行いやすくなります。
 その際のコツとして、選んだ本でも互いの読みを交流しやすいように、並行読書材をシリーズ作品などに限定する、誰がどの本を読んだのかが一覧できる表を掲示し、互いの作品を読み合っているグループを編成しやすくする、といった工夫もあります。
 単位時間に教科書と自分の選んだ本を読むなんて、子供は混乱しないの?と心配になるかもしれません。しかし、これまでの実践例を見ると、「自分で選んだ本を読むんだ」という意識をもって単位時間の学習に臨むことができるため、読みの力が不足している子供ほど、入れ子の部分の学習では、読みのエネルギーを発揮して主体的に読む姿がたくさん見られます。
 是非とも、子供たち一人一人の読みのエネルギーを生かす指導過程の工夫にチャレンジしてみて下さい。(指導の詳細は、『単元を貫く言語活動を位置付けた 小学校国語科 学習指導案パーフェクトガイド1・2年/3・4年/5・6年』を参照下さい。)

ここをチェック!授業改善のためのポイント

単元を貫く言語活動を授業に位置付けるには、次のポイントに留意しましょう。

  1. その単元で指導する指導事項をはっきりさせ、個に応じた指導の前提となる指導目標を明確にしているか?
  2. 子供一人一人の読みのエネルギーを発揮できる単元を貫く言語活動を位置付けているか?
  3. 入れ子構造などを活用し、個に応じた指導が可能となる指導過程を工夫しているか?

水戸部 修治みとべ しゅうじShuji Mitobe

 文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官、国立教育政策研究所教育課程研究センター総括研究官・教育課程調査官・学力調査官。小学校教諭、県教育庁指導主事、山形大学地域教育文化学部准教授等を経て、平成20年10月より現職。
 『「単元を貫く言語活動」を位置付けた小学校国語科学習指導案パーフェクトガイド 1・2年/3・4年/5・6年(全3冊)』『単元を貫く言語活動のすべてが分かる!小学校国語科授業&評価パーフェクトガイド』『「単元を貫く言語活動」授業づくり徹底解説&実践事例24』『小学校国語科 言語活動パーフェクトガイド 1・2年/3・4年/5・6年(全3冊)』など、著書多数。

(構成:木山)
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