教育オピニオン
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「障害や病気がある子どもの“きょうだい”」について先生に知っていただきたいこと
法律事務所シブリング 代表弁護士藤木 和子
2018/10/1 掲載

1 「きょうだい」のなかなか言えない悩み

 近年、「障害や病気がある子どもの“きょうだい”」が注目されており、自治体や教育委員会等が主催する学習会、研修等が増えています。(以下、「きょうだい」と表記します。「きょうだい児」という言葉もあります。なお、英語では「シブリング(Sibling)」といいます。)よい子だけれども少し気がかりな児童生徒がいる場合もあるのではないでしょうか。

 2018年夏に話題になった連続テレビドラマ『グッド・ドクター』(フジテレビ系)。これは、小児外科の研修医が、子どもたちの命のために闘い、子どもたちの心に寄り添い、子どもたちとともに成長していくドラマですが、「第8話」では、小児がんの弟とお兄ちゃんの関係、葛藤が正面から取り上げられました。お兄ちゃんがお母さんに対して「病気の人間がそんなにえらいのかよ」、「いつもおれは我慢ばっかり」、「都合いい時だけ連絡よこして、いいようにおれを使って」と感情を爆発させるシーンに気持ちが重なったきょうだいもテレビの前にいただろうと思います。
 しかし、実際は、「病気や障害のある兄弟姉妹や親が本当に大変なことは自分が一番よくわかっている。」、「自分がいないと家族が回らない。家族が壊れてしまうから言えない。」と一人で悩みを抱えて深めていくきょうだいが多くいるのが事実です。ですから、きょうだいの児童生徒が勇気を出して先生に悩みを打ち明けた場合は、まずはその児童生徒が複雑な状況や心情を抱えていることを優しく受け止めた上で、一緒に考えていただけたらと思います。「そういうことを言ってはいけない」と叱ったり、「頑張れ」「助けてあげて」「えらいね」という安易な言葉がけはしないようにお願いします。

 ハフポスト日本版『自閉症のきょうだいがいるということ』(YouTube)は、わずか2分間の動画ですが、「周りはどう思っているみたい?大変なことは?学んだことは?」などきょうだいの心情がつまっていますのでぜひご覧ください。

 私は教育の専門家ではありませんが、自分自身が大人になったきょうだいです。また、弁護士として、子どもの人権の観点からも、きょうだいの課題は気付かれにくい課題ですが、障害や病気がある子どもの課題と同等に重要な課題だと感じています。学校におけるきょうだいの児童生徒、保護者の方への対応、支援についてはまだこれから議論がされていく段階ですが、本オピニオンをきっかけに一緒に考えていただけたら幸いです。

2 学校では「ひとりの児童生徒」としてのびのびと過ごせるように

 きょうだいは、家族の中において「障害や病気がある子の“きょうだい”」という役割を担い、遠慮や我慢を重ねている場合があります。兄弟姉妹のケアや家事を担っている場合もあります。ですから、学校ではその子らしくのびのびと成長でき、「ひとりの児童生徒」として過ごせる場であるようにご配慮をお願いします。また、下記は、親や祖父母等の家族に障害や病気がある児童生徒とのかかわりに関しても参考にしていただければと思います。

(1)障害や病気のある兄弟姉妹が同じ学校に通学している場合
 インクルーシブ教育における課題のひとつですが、きょうだいの児童生徒が「○○くん/ちゃんの兄/弟/姉/妹」ではなく、「○○くん/ちゃん」という「ひとりの児童生徒」としてのびのびと過ごせるように配慮することが、同級生との関係においても特に必要になります。まず、兄弟姉妹や障害や病気のある他の児童生徒への対応が上手だからと頼らないようにお願いします。また、「作文」や「道徳の授業」で障害のテーマを扱う場合は、嫌だと感じる子も積極的に発表や発言したがる子も気にしない子もいます。先生が変な気をつかって避けたり、良い機会だと話題に上げたりせず、きょうだいの児童生徒に意向を尋ね、今はそっとしておいてほしいようであれば見守り、周りに伝えたいようだったら協力していただければと思います。

(2)きょうだいだけがその学校に通学している場合
 学校が「ひとりの児童生徒」として過ごせる場であることはきょうだいにとって大事なことです。ただ、「障害や病気のある子の“きょうだい”」である自分が表面化しなくなるがゆえの悩みもあります。同級生に伝えることがなかなか難しいことはご理解いただけるでしょう。「作文」や「道徳の授業」についての意向は、尋ねることができればそれが良いですが、児童生徒の状況や先生との関係性にもよると思います。「『きょうだいいるの?』という質問は苦手。」、「ドラマやテレビと違って現実はもっと大変。中途半端に理解してほしくないけど言えない。」、「知られたくない。でも、家族は自分にとって大きな存在なのに話せないのは苦しい。本当は話したいエピソードもあるのに。」等、さまざまな葛藤があることを念頭に置いて対応をしていただけるとよいのではないかと思います。

3「将来の夢」と「あなたにはあなたの人生があるんだよ」

 学校では「将来の夢」を書く機会がときどきありますが、きょうだいの場合、子どもの頃からの「障害や病気のある子の“きょうだい”だから」という親や先生からの期待や助言に応えようとして、特別支援教育、福祉、医療等の進路を選ぶ場合があります。そうすると、大学入学後や就職後に、「これは本当に自分がやりたかったことなのだろうか…」と悩むこともあります。
 大学生や社会人のきょうだいの集いにおける「きょうだいという言葉をもっと早く知りたかった」、「将来に他の選択肢があることを知りたかった」、「あなたにはあなたの人生があるんだよ、ということだけは下の世代の子どもたちに伝えたい」という言葉は、先生方にぜひ知っていただきたいと思います。全国各地できょうだいの集いや支援が広がりつつあります。
 目の前のひとりひとりのきょうだいの児童生徒、保護者の方への対応、説明、情報提供等の支援についてこれが正解というものはありませんが、先生方がきょうだいの児童生徒の味方になってくださり、きょうだいを取り巻く状況が変わるきっかけになることを心から願います。なお、末尾に参考HP、パンフレット、書籍等を記載しましたので、ご参考になりましたら幸いです。

  • Sibkoto障害者のきょうだい(兄弟姉妹)のためのサイト
    https://sibkoto.org/
  • 若い お父さん お母さんへ 障害のある人の”きょうだい”のホンネ(きょうだいの本音を集めた親御さん向けのパンフレット。全国きょうだいの会)
    http://www.normanet.ne.jp/~kyodai/pdf/kyodai_panph.pdf
  • ふくおか・筑後のきょうだいの本音(ライフステージ別きょうだいの本音のパンフレット。ふくおか・筑後きょうだい会)
    http://www.geocities.jp/chikugo_kyoudai/kyoudai-kadai2015.pdf
  • NPO法人しぶたね(病気の子どものきょうだいのための情報共有サイト、子ども向けパンフレットダウンロードもあり)
    http://sibtane.com/
  • 白鳥めぐみ,本間尚史,諏方智広 著『きょうだい―障害のある家族との道のり』中央法規出版(きょうだいで教員の方々の共著)
    http://amzn.asia/d/9iTRagQ
藤木 和子ふじき かずこ

 法律事務所シブリング代表弁護士。1982生まれ。弟に聴覚障害がある。東京大学法学部、同法科大学院卒業後、進路に悩んでいた司法修習生の際に“きょうだい”という言葉に出会い、集いに参加する。2012年弁護士登録。手話を学び、障害児・者の家族に関する案件を多数経験。現在は、「Sibkoto障害者のきょうだいのためのサイト」(「シブコト」の名称の由来は「きょうだい(シブリング)のコトをきょうだいのコトバで語ろう」)、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」(全国きょうだいの会)、20代・30代を中心とする「ファーストペンギン」、「聴覚障害のきょうだいをもつSODAソーダの会」等の運営に携わる。

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