教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
新しい学習指導要領がめざす学びとは
国立教育政策研究所松尾 知明
2017/3/31 掲載
  • 教育オピニオン
  • 学習指導要領・教育課程

 新しい教育課程では、学びのイノベーションが求められている。これまでは、教科等の内容としてのコンテンツをきちんと教えることが期待されてきた。教科書を中心に指導すべき内容を考え、知識を確実に教えることが重視されてきたといえるだろう。
 それが、新しい教育課程では、資質・能力としてのコンピテンシーの育成が明確に打ち出された。資質・能力の3つの柱に基づき教育課程の構造化が図られ、その実現に向けた学びが推進されることになったのである。

1 コンテンツ(内容)からコンピテンシー(資質・能力)へ

 グローバル化や知識社会が進展する中で、社会を生き抜く資質・能力の育成が求められており(松尾、2016a)、コンピテンシーに基づく教育改革が世界的な潮流となっている(松尾、2015)。新しい教育課程においても、変化の激しい予測の困難な社会において、よりよい未来の社会を築き、自らの人生を切り拓いていくことのできる資質・能力の育成が中心的な課題となっている。そこでは、「何を知っているか」から、知識を活用して「何ができるか」への転換が求められているといえる。
 確かに、資質・能力の涵養は、「新しい学力観」が打ち出された平成元年の学習指導要領改訂以降、一貫して主要な課題であった。しかし、学習指導要領はこれまで、「何を知っているか」の視点から各教科等の知識や技能が整理されてきた。また、「生きる力」といった資質・能力目標は掲げられていたものの、それを育むための具体的な手立てを欠いてきたといえる。そのため、教科等のコンテンツをきちんと教え、知識を確実に定着させることにこれまで重点が置かれてきたといえるだろう。
 それが新しい教育課程では、資質・能力の3つの柱である@生きて働く「知識・技能」、A未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」、B学びを人生に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の観点から、教育内容の構造化が図られることになった。さらに、資質・能力の育成に向けて、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点からの授業改善、及び、カリキュラム・マネジメントを通した不断の見直しといった具体的な方略が示されることになったのである。
 教育の目標が、明確な形で、コンテンツ(内容)からコンピテンシー(資質・能力)へと焦点が移行したといえる。

2 コンピテンシーを育むアクティブ・ラーニング

 「何を知っているか」だけではなく、知識を活用して「何ができるか」といったコンピテンシーの育成が問われるようになると、学びの在り方も大きく変えることが必要になる。そのため、新しい教育課程では、主体的・対話的で深い学びとしてのアクティブ・ラーニングが提言されることになったのである。
 アクティブ・ラーニングとは、直訳すれば「能動的な学習」ということになるが、ここでのポイントは、資質・能力を育てられるかどうかにある。
 そのため第一に、教科等の内容のみを重視して、知識注入型の授業をいくら実施しても資質・能力は育たないだろう。知識の量は増えるかもしれないが、使える知識にはならない。
 第二に、主体的な学習が大事だということで、学習活動だけを工夫しても、活動主義に陥ってしまう。子どもは意欲的に活動するかもしれないが、資質・能力の育成にはつながらない。
 第三に、資質・能力の育成をするのだからといって、例えば問題解決の練習をいくら繰り返しても、意味のある問題解決の能力は育成されない。類似の課題は解けるようになるかもしれないが、社会で生きて働く問題解決の能力とはならない。
 したがって重要なのは、アクティブ・ラーニングとして学習活動を構想する際に、教科等の内容、学習活動、資質・能力の三つの要素をつなぐということである(松尾、2016b)。授業をデザインするにあたって、資質・能力を育てるために、内容(大きな概念)を中心にしながら、活動を構想していくということがカギになるのである。

おわりにかえて・・・学びの問い直し

 変化の激しい予想が困難な社会が到来し、「自立」した個人が、知恵を出し合い「協働」して、「創造」的に問題解決を図るといった今日的な課題に直面する中で、学びとは何かについての根本的な問い直しが求められている。これからの社会を生き抜き、未来を拓く資質・能力の育成をめざすためにも、資質・能力と内容と活動をつなぐ学びのイノベーションを実現していくことが中心的な課題となっているのである。

〈参考文献〉
・松尾知明『21世紀型スキルとは何か―コンピテンシーに基づく教育改革の国際比較』、2015年、明石書店
・松尾知明「知識社会とコンピテンシー概念を考える―OECD国際教育指標(INES)事業における理論的展開を中心に」日本教育学会編『教育学研究』第83巻第2号、2016年a、154−166頁
・松尾知明『未来を拓く資質・能力と新しい教育課程―求められる学びのカリキュラム・マネジメント』、2016年b、学事出版

松尾 知明まつお ともあき

専門は、カリキュラムと多文化教育。福岡教育大学卒業後、公立小学校で4年間教える。ウィスコンシン大学マディソン校教育学研究科博士課程修了。Ph.D.(教育学)。浜松短期大学を経て現職。著書に、『未来を拓く資質・能力と新しい教育課程―求められる学びのカリキュラム・マネジメント』(学事出版)、『教育課程・方法論―コンピテンシーを育てる授業デザイン』(学文社)、『アメリカの現代教育改革―スタンダードとアカウンタビリティの光と影』(単著・東信堂)、『多文化教育をデザインする―移民時代のモデル構築』(編著・勁草書房)、『21世紀型スキルとは何か―コンピテンシーに基づく教育改革の国際比較』、『多文化教育がわかる事典―ありのままに生きられる社会をめざして』、『多文化共生のためのテキストブック』(以上、明石書店)などがある。

コメントの受付は終了しました。