教育オピニオン
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外国語活動でおさえておきたい言語獲得・発達の視点
玉川大学大学院教授佐藤 久美子
2017/1/1 掲載

 子どもが日本語を獲得・発達する過程を調べると、実は、外国語の獲得過程と類似した点があることが分かります。今回は、母語の獲得・発達過程の研究から得られた知見を基盤とした、外国語学習のヒントについてお話します。

1 教師は応答タイミングを早く、発話時間は短く、ゆっくりと明瞭に語りかけよう

 小学校に入学する直前の6歳児、約200名の語彙調査を行うと、同じ年齢でも日本語の語彙力が非常に高い子どもと低い子どもがいることが分かります。一番高い子どもで11歳レベルに匹敵する子がいました。「星座」「浜辺」「研究」「礼儀」といった語が理解できます。一方で、「くだもの」と聞いてバナナの絵が指せない、「のりもの」と聞いて三輪車が指せない子どももいます。こちらは、2歳児レベルの語彙力です。
 この語彙力の差は環境からくるのではないかと考え、母親の発話特徴を調べてみました。すると、語彙力の高い、発話量の多い子どもの母親には共通点があることが分かりました。第一に、子どもが母親に話しかけるとすぐに応える、つまり、応答タイミングが早いです。第二に、母親の発話時間が短いことが挙げられます。次の例をご覧ください。

子:クレヨンあった! 母:クレヨンあったね。
子:赤いのあった!  母:赤いのあるね。

 母親が、素早く、短く答えています。母親が短く応答し、聞き役に回ると、子どもの発話が出やすくなります。また、子どもが話した言葉をそのまま反復してあげることも、子どもの次の発話を容易に導きます。子どもは母親に理解してもらった、という満足感が得られるからです。最後に、子どもに話しかけるときは、ゆっくりと明瞭に話しかけましょう。絵本の読み聞かせが上手なお母さまは、ゆっくりと分かりやすく読んでいます。
 さあ、この母親と子どもの関係を小学校の英語のクラスの担任と児童に置き換えてみると、外国語を教えるときのヒントが見つかります。  
@子どもが答えたら、すぐに、短く応える。反復はぜひ英語で!:

教師:What’s this?      
児童:犬 
教師:That’s right. It’s a dog. 
教師:What is the dog doing?
児童:走ってる 
教師:That’s right. It’s running.

A子どもに英語を話すときは、ゆっくり、明瞭に話す:英語がうまくなってくると、早く話す傾向がありますが、ゆっくりと、短い英語を、クリアに話すことを心がけます。

2 絵本の読み聞かせを毎日聞くと、3週間で英語の発音は向上する

 保育園で、3〜5歳児200名を対象に、どんな英語の音源が発音向上に効果があるか調査しました。事前に20語の英単語を、児童に個別に反復してもらいます。
 「lunch」と言ったら「lunch」、「baby」と言ったら「baby」と真似してもらいます。それから3週間、50名ずつの4つのグループに分けて調査しました。4つというのは、歌詞はすべて同じですが、@歌のCDを毎日聴くグループ、A英語のリズムを体得するチャンツを聴くグループ、Bアクセントをしっかりつけて、気持ちを込めて読む朗読を聴くグループ、C何も聴かないグループ、の4つです。
 その結果、興味深いことが分かりました。日本語の語彙力のあるお子さんは、5歳児の場合、何を聴いても3週間で英語の発音が向上します。しかし、日本語の語彙力の低いお子さんの場合は、英語の発音が向上するのは歌の朗読だけでした。また、語彙力が高くても、4歳児以下の場合は、歌を聴いても発音は向上しません。しかし、チャンツと朗読は、発音の向上に効果がありました。

3 絵本は小学校でお勧めの最高の英語教材

 絵本の読み聞かせを聞くことは、英語の発音向上に効果的であることが分かりました。しかし、小学校における絵本の英語教材の良さは、これだけではありません。国語教育にも共通した利点があります。
@内容を考え、想像力や、推測力を養う⇒深い学びにつながる
A文字や、文の構造に自然に触れる⇒2020年の新しい学習指導要領では、文字や文の構造にも注目しながら、「読む」「書く」知識や技術を学習することが勧められています。
B異文化に触れることができる
C絵本のイラストを使って、⼦どもたちと英語でインタラクション(やりとり)が
できる:

教師:What color is it? 
児童:Red. 
教師:That's right. It's red.
教師:How many people are there? Let's count together. 
児童:One, two, three, four, five. Five! 
教師:That's right. There are five people.

⇒2020年の新しい学習指導要領では、「話す」の部分にこのやりとりを⼊れることを勧めています。
Dやりとりをすることで、既に習った表現の復習ができる
E絵本の内容や表現を基にして、児童が話したい場面に置き換え、自分たちの話ができる
F担任が事前に教材を制作したりしなくても、手軽に用意ができる

4 担任の先生方も児童とコミュニケーションを楽しんで!

 母親とコミュニケーションがうまくいっている子どもは、日本語の語彙力や反復力が高いです。そして、日本語の語彙力が高いお子さんは、実は英語を反復してもうまく真似ができます。母親が子どもとコミュニケーションを楽しむように、担任の先生方も簡単な英語で児童とコミュニケーションを楽しんでください。担任と英語で話すことができれば、子どもたちはきっと大喜びし、未来の英語好きにつながると思います。

佐藤 久美子さとう くみこ

津田塾大学学芸学部卒。同大学大学院文学研究科博士課程修了。現在、玉川大学大学院教授。専門は言語心理学・英語教育。乳幼児の言語獲得・発達を研究し、その結果に基づく英語教育を提案している。1998〜2001年度NHKラジオ「基礎英語3」、12年度「基礎英語2」、2013〜2015年度「基礎英語3」講師を務める。12年度よりNHK Eテレ「えいごであそぼ」の総合指導も務める。2007年度より町田市教育委員会の委託を受け42校にカリキュラム作成・配信。その他多数の小学校、教育委員会で研修講師を務める。

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