教育オピニオン
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「学習習慣」とは「家庭学習時間の長さ」なのか?
「勉強のやり方を教える塾」プラスティー代表清水 章弘
2013/10/1 掲載

 私はプラスティーという「勉強のやり方」を教える塾を東京・飯田橋で経営している。生徒数は150名程度で、「学習の習慣化」をゴールに指導をしている。一般的に「学習の習慣化」と言えば「自宅学習」を意味することが多いが、必ずしもその限りではない。

 私は、学習習慣というものを4つに分けて考えている。まず、「量」「質」の2つに分け、さらに場所で2つに分けている。場所とは、「家庭」と「学校」だ。つまり、「1 家庭での量習慣」(家庭でどれくらいの時間勉強しているか)「2 家庭での質習慣」(家庭でどれくらい質の高い勉強をしているか)「3 学校での量習慣」(学校でどれくらいの時間勉強しているか)「4 学校での質習慣」(学校でどれくらい質の高い勉強をしているか)の4つに分けている。

 一般的に「学習習慣」と言うと、先述のように「1 家庭での量習慣」が議論の対象になるが、そこに関してのみ指導するのは間違ったアプローチだ、と私は考えている。そもそも、勉強したくない子に、誰もいない「家」という場所で無理やり勉強時間を増やさせようとしても、続くわけがない。

 結論を先に言えば、勉強が楽しくなれば、自然と習慣は形成される。楽しくないものを、多くの人は続けることができない。勉強が楽しくなるにはどうしたらよいか、を考えるのが本質的な解決策だ。この本質的な解決策から目をそむけて「もっと勉強時間を増やそう」と言うことは簡単だが、苦行を強いるだけの指導に効果はない。そうならないように、私は常に気をつけている。

 では、学習者にとって楽しさとは何か。大きく分けて2つある。「褒められた時の喜び」と「わかった時の知的興奮・探求心」だ(心理学的に言えば、外発的動機付けと内発的動機付けだ。本寄稿では、後者について述べる)。この「わかった」という成功体験を積み重ねることが、学習の習慣化につながる。

 まず最初に、「学習習慣に問題アリの子」に対しては、授業にある程度ついてきてもらわなければならない。ここがスタート地点である。「自分は何をしても無理だ」という学習性無力感を覚えている子に、「自分もついていけるかもしれない」と、希望の一端を掴んでもらうのだ。授業についてきてもらうには、力作業が要る。居残り指導をしたり、授業中にフォローしたり、保護者の協力を仰いだりする。しかし、そこまで真剣に考えなくてもよい。ここでのゴールはあくまで、生徒の「どうせ無理だ」という無力感を少しだけ取り除くことにあるからだ。

 このスタート地点に立ったならば、先述4つの学習習慣に着手していく。順番には気をつける必要がある。私は以下のようにアプローチを行っている。やや抽象的にならざるを得ないことに御勘弁頂きたい。

4 (学校での質習慣):
勉強のやり方、ノートの取り方(板書は3回読んで覚えてからノートに書く、「消える化ノート術」等)、授業の聴き方(授業後に授業内容を要約する等)、教え合いや問題の出し合い、グループワークへの取り組み方の指導等を行う。

3 (学校での量習慣):
授業の前後1分間に、予習・復習タイムを入れる。休み時間や居残りでのフォロー等を行う。

2 (家庭での質習慣):
復習のやり方(時間よりも回数、エビングハウスの忘却曲線、短期記憶から長期記憶へ、インプット型の復習からアウトプット型の復習、探求型の復習へ)、予習のやり方の指導等を行う。

1 (家庭での量習慣):
勉強日記を交換し、生徒同士で応援し合う仕組みを作る、モチベーションに左右されない「仕組み作り」等を行う。

 家庭で勉強量を増やす時は、「勉強したい」と思う時か、「しなければならない義務感」が「やりたくない嫌悪感」に勝つ瞬間か、のどちらかだ。どちらであったとしても、勉強した先に知的興奮が想像できない場合には、生徒が鉛筆を持つことはない。

清水 章弘しみず あきひろ

潟vラスティー教育研究所 代表取締役。1987年千葉県船橋市生まれ。
東京大学在学中に「勉強のやり方」を教える塾プラスティーを起業、現在は東京大学大学院教育学研究科修士課程に在籍。
2012年より青森県三戸町教育委員会学習アドバイザーに就任。著書は6冊、最新刊に『現役東大生が教える! 頭がよくなる7つの習慣』(PHP文庫)がある。

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