作文指導を変える―つまずきの本質から迫る実践法
作文指導はなぜ難しいのか?その理由の本質に迫りながら、本当に必要な「指導の仕方」を考えます。
作文指導を変える(3)
文の種類を教えているか?
京都橘大学教授池田 修
2022/8/15 掲載

 先生は生徒に、「今日の授業は作文です」と言います。あっさりと言います。ところで、作文ってなんでしょうか? 学習指導要領では、どのように説明されているのでしょうか?

 「小学校学習指導要領(平成29年度告示)解説 国語編」を開いて、「作文」をキーワードにして検索してみてください。ありましたか? 中学校はどうでしょうか?

 実は、学習指導要領には「作文」という言葉は出てきません。あれだけ作文作文と言いながら、学習指導要領にはないんです。変だと思いながらも、学校では作文と言うのです。文を作るです。

 今回は、「文を作る」時の「文」にはどんな種類があるのかを考えてみます。*1

伝える文と記録する文

 文を分類するとき、大胆に2つに分けるとすると「伝える文」「記録する文」になると考えています。*2その内容を誰かに伝える目的で書く文と、相手を想定せず自分のために残しておく文です。学校教育では、「伝える文」の書き方を鍛える必要があると私は考えています。

 教育基本法の第1条は教育の目的です。

第1条(教育の目的) 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。

 「平和的な国家及び社会の形成者として」とあります。本当に簡単に言えば、良い社会を作れる人と言っていいと思います。これを目指すには、伝える力を身につけさせること、すなわち、伝える文を書けるように指導することが大事だと考えています。

 では次に、伝えるって何?と考えてみましょう。

3つの考え方

 私は、自分の思いや考えの他者への届け方には、3種類あると考えています。「表出」「表現」「伝達」です。それぞれを簡単に説明しましょう。

 表出は、acting outとも言われます。抑圧された感情などを、無意識のうちに行動に表すものです。イライラする時にする貧乏ゆすりや、授業に飽きてきた時にする爪掃除などがこれに当たります。これは、本人は意図的にやってはいません。出てしまっているもので、それを相手が推察して理解するというものです。

 表現は、expressionです。自分の感情や考えを、言葉、動作、音楽、絵画などで表すことです。表現する人は、自分の感情や考えを、意図的に表しています。自分が表したいことが自分が納得する形で表せたら完了です。受け手がどのように受け取るかは、基本的には関心はありません。だから、解釈というものが生まれます。

 伝達は、transmissionです。自分の感情や考えを、他者にその通りに伝えることです。もし、他者が、間違ってその感情や考えを受け取ってしまった場合、その責任は伝える側にあると考えます。教師が行う説明は、この伝達であるべきだと私は考えています。説明してもわからない場合は、教師の方が悪いということです。解釈が生まれないものとも言えます。

伝えるための文には3種類ある

 何を伝えるのかによって、文は3種類に分けることができます。*3

表1

 また、伝えるものが2つ組み合わさっているものもあります。

表2

 このように、伝えるものの種類によって、文の種類が変わってきます。文の種類が変われば、その文の書き方も違ってきます。*4つまり、指導の仕方も違ってきます。学校教育では、「事実+思いや感情」をベースにした文を書かせることが多いと考えています。体験作文、読書感想文などです。

 それぞれの文の指導の仕方は別の機会に譲り、この連載では、この体験作文の書き方の指導に絞って、進めていくことにします。

*1 文法的に言えば、文は読点が1つのものを言います。また、文章は文がまとまって段落を形成しながら書かれているものと言えます。ここでは、それほど厳しく考えずに、文章のことを文と言っています。
*2 他にも、フィクションとノンフィクションとか、散文と韻文などのような分け方もあります。ここでは色々な分け方の中の1つとして、教育基本法の教育の目的の面から、伝えると記録するで考えていきます。
*3 厳密に区切りをつけて線を引くことは、現実的ではありません。例えば、感想文は何かがあってその感想があるわけで、単独で感想文と言うことは難しいでしょう。ですが、このように分類すると、違いがわかりやすいので、このように表にして分類します。
*4 ICTのおかげで、授業の感想の文章をさっと書くことのできる子どもたちも増えてきていると思います。しかし、論文の書き方は別だということをしっかりと指導しないと、自分は書けると思い込んでしまったまま、難儀する子どもが出てくるということです。

今回のポイント

  • 義務教育の作文指導では、「伝える文」の書き方を指導しよう。
  • 伝えるには、表出、表現、伝達の3つの種類がある。
  • 伝達する内容によって、感想文、報告文、論文の3種類がある。また、伝達するものが2つ組み合わさった、体験作文、意見文などもある。

池田 修いけだ おさむ

京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校教員を経て現職。「国語科を実技教科にしたい、学級を楽しくしたい」をキーワードに研究・教育を行う。恐怖を刺激する学習ではなく、子どもの興味を刺激し、その結果を構成する学びに着目している。国語科教育法、学級担任論、特別活動論、教育とICTなどの授業を担当している。

(構成:大江)
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