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国際成人力調査からみる日本の特徴と課題
教育zine編集部大里
2013/10/31 掲載

 平成25年10月8日、OECD(経済開発協力機構)が24の国と地域において初めて実施した国際成人力調査(PDF)の結果が発表され、日本は「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の平均点で1位となりました。この結果からみえてくることは何でしょうか。

国際成人力調査とは

 OECDの「国際成人力調査」は以下を目的として実施されました。

各国の成人のスキルの状況を把握し、成人のスキルの社会経済への影響や、スキルの向上に対する教育訓練制度の効果などを検証し、各国における学校教育や職業訓練など今後の人材育成政策の参考となる知見を得ること

 いわゆる知能テストではなく、生活場面や職場で必要とされるスキルを測ることを目的とした調査です。ここで必要とされるスキルに、以下の3つが設定されています。

●「読解力」(Literacy)
・社会に参加し、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発展させるために、書かれたテキストを理解し、評価し、利用し、これに取り組む能力。

●「数的思考力」(Numeracy)
・成人の生活において、さまざまな状況の下での数学的な必要性に関わり、対処していくために数学的な情報や概念にアクセスし、利用し、解釈し、伝達する能力。

●「ITを活用した問題解決能力」(Problem solving in technology-rich environments)
・情報を獲得・評価し、他者とコミュニケーションをし、実際的なタスクを遂行するために、デジタル技術、コミュニケーションツール及びネットワークを活用する能力。

調査結果からみる日本の特徴

 1位となった3つのスキルのうち、「読解力」「数的思考力」の調査結果において、両者は似た傾向を示しました。例えば、調査対象者の背景と平均点との関係です。国際成人力調査では、背景調査として年齢・学歴・職業などを同時に調査しています。「読解力」「数的思考力」の世代別の調査結果をみると、両スキルともにどの世代においても日本の世代別平均点はOECDの世代別平均点を上回りました。また、3段階に大別された学歴別の比較においても、両スキルの日本の各平均点はOECDの各平均より上という結果になっています。
 
 これらのスキルを測るため、どのような問題が出題されたのでしょうか。調査問題例〜読解力・数的思考力〜(PDF)をみてみると、「読解力」では図書館のHPから書籍データを読み取るといった、HPやアンケートなどから情報を読み取る問題、「数的思考力」では自動車の走行距離や日数から経費を割り出すなど、数的情報の読み取りを含めた基本的な計算問題が出題されています。なるほど、問題をみると日常よく目にする情報をいかに読み取り、整理・処理しているのかを測っている調査であることがよくわかります。日本人は世代・学歴問わず、情報を読み取る力が高い人が多いと言えます。

 一方で気になる結果を示したものが「ITを活用した問題解決能力」です。順位だけをみれば、こちらもやはり日本は1位でした。しかし、この1位は前述の2つのスキルで得た1位とは若干意味合いが異なります。国際成人力調査はパソコンを使用して実施されましたが、対象者がコンピュータ未経験だったり、パソコンを使用しての調査を拒否もしくはコンピュータ導入試験に不合格であったりした場合、調査は紙で行われました。紙で調査が行われた人は、「ITを活用した問題解決能力」に関わる質問に解答していません。調査問題例〜ITを活用した問題解決能力〜(PDF)をみてみると、全てパソコン操作によって解答するもの(受信メールの区分けや、メール内容の選別など)であるため、紙では実施できないのです。他の国・地域においても条件は同じです。つまり、この1位という結果は、「パソコンを使用して受けた人」の平均点が1位だったのであり、「日本人全体」の平均点が1位だったということではないのです。

 それでも1位には変わりない、と思われるかもしれません。では、「ITを活用した問題解決能力」を受けなかった人もしくは受けられなかった人は、どれくらいいたのでしょう。何と、日本の調査対象者の約37%の人が受けていませんでした。OECDの平均は約24%なので、日本は受けなかった・受けられなかった人が多く、比較的パソコンが苦手な人が多いと考えられます。その一方で受けられた人の平均点では1位という結果になっているため、パソコンの得手不得手の個人の能力格差が他国よりも広がっていると言えるでしょう。
 
 加えて、「読解力」「数的思考力」は世代問わず点数が高かったと前述しましたが、「ITを活用した問題解決能力」は世代によって点数の伸び具合にムラがあります。パソコンを使える人同士でもその能力格差は生じているのです。若い世代はパソコンに強いイメージがあるかもしれませんが、10代後半〜20代前半の点数はOECDの世代別平均と比較するとそう高くはありません。OECDの世代別平均と比べて平均点が高かったのは、30代〜40代です。スキルを職場で使用する頻度が高いほど点数が高いという結果も出ているため、職場でパソコンを使用する時間が長い働き世代の30代〜40代は「ITを活用した問題解決能力」が伸長したと考えられます。

今後の課題

 日本は3つのスキルの順位だけみれば、すべてのスキルにおいて1位ということになりましたが、前述の通り、単純にこの結果に喜んでばかりもいられないのです。生徒に対して2009年に行われたOECDの生徒の学習到達度調査(PDF)で上位を占めた上海やシンガポールなどが今回の調査に参加していないことも特筆すべきことでしょう。調査している内容が違うこともあり、「生徒の学習到達度調査ではトップになれなかったが、国際成人力調査でトップになれたのは、親世代の教育がよかったからだ。」と安直に結びつけることはできません。 
 
 一方でこの調査によって「ITを活用した問題解決能力」における個人の能力格差が浮き彫りとなりました。パソコンを使える人・使えない人の個人差、そして使える人同士での個人差、一口に「個人差」といってもこの2つの問題が存在しているのです。IT化・デジタル化の時代をむかえた今、ITを活用した能力の個人差の解消は日本の今後の課題と言えるでしょう。

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