著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
音楽の「ききみみ頭巾」で魅力的な鑑賞の授業をつくろう!
明星大学教育学部教授阪井 恵ほか
2017/3/29 掲載
今回は阪井恵先生と酒井美恵子先生に、新刊『音楽授業でアクティブ・ラーニング!子ども熱中の鑑賞タイム』について伺いました。

阪井 恵さかい めぐみ

明星大学教育学部教授。東京芸術大学楽理科卒業、同大学院音楽研究科修士課程、博士後期課程修了。学術博士。音楽の聴取、理解についての論文多数。「音色」の感受メカニズムの解明、「音色」の指導法にも取り組んでいる。主な著作物に『初等音楽科教育法』『五線譜の約束』(共著、明星大学出版部)、『みんなで「音」を聴いてみよう』(企画制作、JSPS科研費24531155の助成による教材DVD)、『導入・スキマ時間に楽しく学べる!小学校音楽「魔法の5分間」アクティビティ』(共著、明治図書)など。

―アクティブ・ラーニング型(主体的・対話的で深い学び)の音楽授業に取り組むポイントを教えてください。また、特に鑑賞授業で行う場合のアドバイスもお願いします。

 音楽科の特に表現領域については、児童が音楽表現を工夫して、思いや意図をもってお友達と一緒に歌ったり、演奏したり、音楽をつくったりすることはまさしくアクティブ・ラーニングといえるでしょう。鑑賞領域では、漠然と音楽の楽しさを感じるだけでなく、授業を通してもっと興味をもってほしい。それが「主体的な学び」を支えます。音楽と共に身体を動かしたり作者のねらいを知ったりする活動で、お友達や先生とアイディアを分かち合ってほしい。その「対話的な学び」は自分一人の見方を大きく変えることでしょう。さらに音楽の聴き方・感じ方は本来とても自由なもの。既習事項や体験した活動をもとに、新しいことに気付いたり、演奏の工夫に生かしたり、生活に音楽を取り入れたりしてほしい。それが鑑賞における「深い学び」だと思います。

―教科書掲載曲だけでなく、アニメ曲やJ-POPも収録されているのが特徴ですね。子供たちが興味をもつ選曲の秘訣を教えてください。

 今回は、明星大学教育学部音楽コースの学生の皆さんをはじめ、若い感性をもっている方々からたくさん教材曲に関して意見を聞きました。その中から実際に聴いたり、授業プランを考えて試したりして、子供たちが楽しくそして聴く力の付く曲を選びました。
 授業をする先生方がまず心を動かされる素敵な曲が教材の候補です。クラシックの名曲ももちろん、アニメや映画音楽、ロックやジャズなど幅広く先生方が楽しんでくださるのが秘訣だと思います。

―低・中・高学年で音楽の授業びらきにおすすめの題材を教えてください。

 子供たちがそれまで何を経験し、何を身に付けているかによってその学年で最初に取り扱う鑑賞教材は異なってきますが、例として挙げてみます。本書は、教材曲に付けられたサブタイトルでおおよその学習活動が、その下に記載した「この活動で身に付く力」により、授業のねらいが分かりやすいよう各題材の見出しを工夫しました。教材曲とサブタイトルを中心に紹介します。

低学年
5番「ラデツキー行進曲」強弱を感じて歩いたり、手拍子をして聴く。
7番「あんたがたどこさ」特徴を発見し、遊び方を工夫して聴く。
中学年
30番「You Are My Sunshine」歌詞に込められた気持ちを想像して楽しく聴く。
33番「ハグしちゃおう」動いたい音楽表現したりして形式に気付いて聴く。
高学年
37番「情景をイメージしながら聴く」情景をイメージして聴き、短い言葉で表す。
40番「津軽じょんがら節」気に入った演奏者の表現を紹介する。

―学習指導要領の改訂案が公表されました。音楽の授業づくりで変わったところはありますか。

 基本は現行同様、表現も鑑賞も共通して働く資質・能力である〔共通事項〕と関わらせて授業づくりをしていくことが重要です。いくつか改訂のポイントを挙げます。
目標の改訂:道徳科を除いてすべての教科等で書き方が統一されました。それによりその教科の「知識・技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」が分かりやすくなっています。
指導事項の示し方:目標を受けて、各領域、分野において育むべき「知識・技能」及び「思考力、判断力、表現力等」が示されています。
伝統や文化に関する教育の充実:それまで和楽器は高学年の旋律楽器として例示されていましたが、今回は中学年に新たに例示されました。それまでの高学年のノウハウを中学年向けにアレンジしましょう。
言語活動の拡大:それまで鑑賞領域だけに示されていた言語活動ですが、表現領域でも位置付けることが明記されています。児童が聴き取ったことや感じ取ったこと、どのような思いや意図で表現したいかを言語化しやすい授業の工夫が求められます。
知的財産権について:新たに盛り込まれました。児童が自分や自分たちの作品を大切にするという気持ちから、音楽をつくった人や作品を尊重する心を育てましょう。
情報活用能力の育成:音楽科でもコンピュータや教育機器の効果的な活用が求められています。記譜ソフトがあれば、音楽づくりに活用してみてはいかがでしょうか。
障害のある児童などへの指導の工夫:全教科に盛り込まれています。学びにくさを感じている児童が自校にいるという認識をもって個に応じた指導の工夫をしましょう。
カリキュラム・マネジメント:この力が、すべての先生方に求められています。今回の改訂で、各教科が見渡しやすくなっています。例えば小学校第3学年の理科に新たに盛り込まれた音の学習と音楽の授業が関連付けられないか? など楽しい企画をいろいろ考えてみてください。

―最後に音楽の授業づくりに取り組む全国の先生方に、メッセージをお願いします!

 「ききみみ頭巾」という日本の昔話では、主人公が頭巾をかぶると不思議なことが! 鳥たちや植物たちのおしゃべりが聞こえてくるのです。主人公はこのおしゃべりから得た情報を元手にして幸せな人生を送ります。鑑賞の手立てをもつことは、音楽の「ききみみ頭巾」を手に入れることです。頭巾をかぶらない聞き方もよいのですが、かぶって聴き取れる別世界に子供たちを連れていってあげてください! その一助になる書籍ができあがったと思っています。

(構成:木村)

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